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第25話
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騎士崩れの男、いや、今やその言い方は間違っているかもしれぬ。もしかすると、いや確実に、事務方とは言え現役の帝の騎士である自分より、遥かに『騎士』いや、それより『剣士』と呼ぶにふさわしいと男だ。
若き帝の騎士はそう感じ取り、そして戦慄した。
得体の知れぬ剣士はぐっと腰を落とした。そして、大きく、そしてゆっくりと息を吸った。その音は、帝の騎士が居る場所からも分かるほど低く響いた。
そして腰を落とし切ると目を閉じ、今度はゆっくりと吸い込んだ息を吐き出し始めた。
帝の騎士には、黒い霧の様なオーラが剣士の体から立ち上るのが見えた気がした。
来る! 確実に一撃で仕留める気だ。
帝の騎士は咄嗟にそう感じ、両腕に仕込んだ鉄の籠手を使って防御の姿勢を取った。
この籠手には振り出し式の刃が仕込んであった。帝の騎士は、メイド姿の女が仕留めそこなった時、あるいは町長の助っ人が動いた時はこの仕込み刃で自分が殺す気でいた。
しかし、今、この相手に対してはもう攻撃を交えた防御など通用しない。自身の身を守る為だけに全ての力と経験を集中しなけれな確実に殺される。帝の騎士は判断した。
少なくともあの剣士は、メイド姿の女を殺す気はない様だった。それがせめてもの救いだった。この男対手に、自身の命だけでなく、あのメイド姿の女の命までも守れる自身はまったくなかったのだ。
やがて、腰を低く落とし構えた剣士の長い呼吸音が止まった。
その瞬間、まるでその場の時間までもが一瞬、凍り付いた様に静止した様に思えた。
死の静寂の中、一陣の風が吹き抜ける様な鋭い音がした。
若き帝の騎士は、痛みに備えた。仮に致命傷は避けられても、あの剣士は確実のその刃をこの身に当てて来る事は避けようもないと帝の騎士は覚悟していた。
その時、絶対にしてはならないと分かっていながら、死と苦痛に対する本能的な恐怖から若き帝の騎士は思わず目を閉じてしまった。
キンッ!
覚悟した痛みの代わりに、若き帝の騎士の耳に金属同士が当たる鋭い音が響いた。
恐る恐る開いた目の先には、黒い背中と真っ白で大きなリボンだった。一瞬、何がそこあるのか分からなかった帝の騎士だったが、すぐにそれは見慣れた物である事に気がついた。
それは白いエプロンドレスを纏ったメイドの背中だった。
あのメイドが剣士を止めた?
若き帝の騎士はありえない事だがそう思ってしまった。
「何やってるんですか、この人は。
この状況で目を閉じるのは自殺行為です。
まあ、事務屋のあなたにそこまで要求するのは酷でしたか?」
その背中はそう言ってくすりと笑った。
その聞き慣れた、そして少し懐かしさを感じる声に若き帝の騎士はすぐさますべてを理解した。
「キルシュ!」
思わず若き帝の騎士は声を上げた。その声は明らかに喜びにあふれた明るい声だった。
「まったく、どこまで私の手を煩わせれば気が済むのでしょうか、
この馬鹿旦那様は……」
その背中は微動だにしなかったが、その声はクスクスと小さく笑い続けていた。
「俺の渾身の一撃を女のお前があの止めただと。
しかもあの位置から。しかもその余裕。
おもしろい!
お前、ただの魔法使いじゃないな。
メイド、お前、一体何者だ!」
その背中の向こうから、あの剣士の声がした。
その一撃に絶対の自信があった剣士の驚きはもっともだった。
剣士にはこの大広間に入って来た時からずっと見えていた。
町長は、一段高い玉座に脇の床に座り呆けた目で虚空を見詰め座ってた。その横で、白い仮面を被り、珍しい黒髪に、典型的なメイドと言うべき黒いワンピースに真っ白なエプロンドレスを纏った女が、本来の主に代わってその玉座に座っていた。その女はまるで自身が主である女王であるかの様に、足を組み、頬杖をついて、気だるそうにこちらを見ていた。
大広間に入る直前、剣士の背中を悪寒の様な嫌な感覚が襲った。一瞬で全身に緊張が走った。
剣士にはその感覚に覚えがあった。
本能的に精神と体が最上級の警戒モードに入った。全身の緊張と同様に精神がまるで一振りの刃の様に研ぎ澄まされて行くのが分かった。二つの眼に代わって、額にあるもう一つの目とも言える物が開かれ、真実の姿を捉えていた。
若き帝の騎士はそう感じ取り、そして戦慄した。
得体の知れぬ剣士はぐっと腰を落とした。そして、大きく、そしてゆっくりと息を吸った。その音は、帝の騎士が居る場所からも分かるほど低く響いた。
そして腰を落とし切ると目を閉じ、今度はゆっくりと吸い込んだ息を吐き出し始めた。
帝の騎士には、黒い霧の様なオーラが剣士の体から立ち上るのが見えた気がした。
来る! 確実に一撃で仕留める気だ。
帝の騎士は咄嗟にそう感じ、両腕に仕込んだ鉄の籠手を使って防御の姿勢を取った。
この籠手には振り出し式の刃が仕込んであった。帝の騎士は、メイド姿の女が仕留めそこなった時、あるいは町長の助っ人が動いた時はこの仕込み刃で自分が殺す気でいた。
しかし、今、この相手に対してはもう攻撃を交えた防御など通用しない。自身の身を守る為だけに全ての力と経験を集中しなけれな確実に殺される。帝の騎士は判断した。
少なくともあの剣士は、メイド姿の女を殺す気はない様だった。それがせめてもの救いだった。この男対手に、自身の命だけでなく、あのメイド姿の女の命までも守れる自身はまったくなかったのだ。
やがて、腰を低く落とし構えた剣士の長い呼吸音が止まった。
その瞬間、まるでその場の時間までもが一瞬、凍り付いた様に静止した様に思えた。
死の静寂の中、一陣の風が吹き抜ける様な鋭い音がした。
若き帝の騎士は、痛みに備えた。仮に致命傷は避けられても、あの剣士は確実のその刃をこの身に当てて来る事は避けようもないと帝の騎士は覚悟していた。
その時、絶対にしてはならないと分かっていながら、死と苦痛に対する本能的な恐怖から若き帝の騎士は思わず目を閉じてしまった。
キンッ!
覚悟した痛みの代わりに、若き帝の騎士の耳に金属同士が当たる鋭い音が響いた。
恐る恐る開いた目の先には、黒い背中と真っ白で大きなリボンだった。一瞬、何がそこあるのか分からなかった帝の騎士だったが、すぐにそれは見慣れた物である事に気がついた。
それは白いエプロンドレスを纏ったメイドの背中だった。
あのメイドが剣士を止めた?
若き帝の騎士はありえない事だがそう思ってしまった。
「何やってるんですか、この人は。
この状況で目を閉じるのは自殺行為です。
まあ、事務屋のあなたにそこまで要求するのは酷でしたか?」
その背中はそう言ってくすりと笑った。
その聞き慣れた、そして少し懐かしさを感じる声に若き帝の騎士はすぐさますべてを理解した。
「キルシュ!」
思わず若き帝の騎士は声を上げた。その声は明らかに喜びにあふれた明るい声だった。
「まったく、どこまで私の手を煩わせれば気が済むのでしょうか、
この馬鹿旦那様は……」
その背中は微動だにしなかったが、その声はクスクスと小さく笑い続けていた。
「俺の渾身の一撃を女のお前があの止めただと。
しかもあの位置から。しかもその余裕。
おもしろい!
お前、ただの魔法使いじゃないな。
メイド、お前、一体何者だ!」
その背中の向こうから、あの剣士の声がした。
その一撃に絶対の自信があった剣士の驚きはもっともだった。
剣士にはこの大広間に入って来た時からずっと見えていた。
町長は、一段高い玉座に脇の床に座り呆けた目で虚空を見詰め座ってた。その横で、白い仮面を被り、珍しい黒髪に、典型的なメイドと言うべき黒いワンピースに真っ白なエプロンドレスを纏った女が、本来の主に代わってその玉座に座っていた。その女はまるで自身が主である女王であるかの様に、足を組み、頬杖をついて、気だるそうにこちらを見ていた。
大広間に入る直前、剣士の背中を悪寒の様な嫌な感覚が襲った。一瞬で全身に緊張が走った。
剣士にはその感覚に覚えがあった。
本能的に精神と体が最上級の警戒モードに入った。全身の緊張と同様に精神がまるで一振りの刃の様に研ぎ澄まされて行くのが分かった。二つの眼に代わって、額にあるもう一つの目とも言える物が開かれ、真実の姿を捉えていた。
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