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第28話
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そして黒髪のメイドは、まるでそこに何かがあるかの様に自身の立つすぐ真横に手を伸ばした。するとそこに黒い霧の様な空間の歪みが現れ、黒髪のメイドの手は何かを掴む様にその中へと伸ばされた。そして、再び、その手がゆっくり黒い霧の中から引き出された。
するとその手には一振りの細身の剣が握られていた。
それは剣士の持つものと良く似た、この国で一般的な剣をよりかなりの細身の剣であった。しかもその握りには美しい織の組み紐が丁寧巻かれ、その鞘は黒光りするほど磨き上げられた上に、金の細工と多くの宝石が散りばめられていた。まさに『宝剣』と言うにふさわしい一品だった。
何もない空間から一振りの剣を引き出した黒髪のメイドは、その剣を腰に当てた。
そして、剣士と同じ様に腰を落として身構えた。
「こちらはいつでも良いぞ、かかって来い」
黒髪のメイドは笑っていた。
そう笑っていたのだ。
並々ならぬ腕を持つ剣士が再び、あの神速一撃を出そうと身構えているのを目の前にして、さも嬉しそうに笑っているのだ。それはまるで子供が欲しかったおもちゃを目の前にした時の様な純粋で屈託のない笑みだった。
剣士はその瞬間、背中を悪寒が走り全身の肌が一瞬で泡立つのを感じた。もう長い間感じた事のないその感覚。今ではすっかり忘れ去っていたその感覚。
それはまさしく『恐怖』だった。
いや、正確には少し違う。言葉にするならそれは『畏怖』だ。それは人に対して感じるものではない。人ならざるモノ、あえて言いうなら『神』や『悪魔』などと言うこの世のモノならざるモノに対して感じるべきものだった。
そして同時に、目を閉ざしながらも見えていた黒髪のメイドの姿が揺らいだ。そして、まったく違う姿が剣士の心眼に写った。
銀色に輝く長い髪にエメラルドグリーンの瞳、その頂に宝石を散りばめたティアラを載せ、白いワンピースの上に金の細工が施された銀の軽鎧を身に付けた美しき女騎士。
そこには、騎士と言うよりは女王、あるいは女帝の風格すらあった。いや、もはや人ではなく『戦乙女』とも言える神々しさもあった。しかし、そのあまりに美しく神々しい姿とは相容れない、黒く禍々しい黒い霧の様なものがその背後に立ち昇っていた。
しかし、思わず目を開けた剣士の目には、やはり黒髪のメイドが『宝剣』を腰に持ち身構えながら、不気味な笑みを浮かべてこちらを見ているだけだった。
「どうした? もう恐れをなしたか」
黒髪のメイドは、その剣士の心に宿った『畏れ』を見抜いたかのようにそう挑発するかのように言った。
「お前が何者であろうと斬る。
久々に全力で戦える相手を得たのだ。
ここで倒れようとも悔いはない!」
剣士はその言葉に、自らを奮い起こすかのようにそう言ってきっと黒髪のメイドを睨んだ。
「その言葉、良い覚悟だ。
良いぞ、実に良い。
先ほどまでとはまるで別人だな。
私を失望させるでないぞ、男」
剣士の言葉に黒髪のメイドはそう言って笑った。正確には仮面に隠されその表情は定かではないが少なくとも見えている口元は笑っていた。
そして何より、その言葉使いは完全にメイドのものではなくなっている。それは女帝と言うにふさわしい風格と重み、さらには他を圧倒する独特の威圧感を持っていた。
「参る……」
剣士の口がそう小さく呟いた。そして再び目を閉ざし心を落ち着け身構えた。
それでも、剣士はその一撃を出せずにいた。
この黒髪のメイド、その口元には笑みを浮かべて緊張感を感じさせない風体なのに一部の隙もないのだ。踏み込むべき隙が無い。普通の騎士、いや剣士クラスですら、例え針の穴を通す程のものとはいえ、どこかに隙は出来る。それなのにこの黒髪のメイドは、まるで己の周りに鉄壁な城壁を張り巡らせたかのようにその気を厚く張り巡らせている。
今まで数多くの名だたる相手を倒して来たこの剣士ですら、こんな相手は初めてだった。
「なるほど、では……」
黒髪のメイドが小さくそう呟いた。
その瞬間だった。鉄壁と思われたあの城壁の左隅に小さな裂け目が見えた気がした。
ほとんど本能的に剣士は剣の柄を掴み抜刀すると床を蹴った。
窓が閉ざされているはずの静寂に包まれた大広間に一陣の風が吹き抜けた。
するとその手には一振りの細身の剣が握られていた。
それは剣士の持つものと良く似た、この国で一般的な剣をよりかなりの細身の剣であった。しかもその握りには美しい織の組み紐が丁寧巻かれ、その鞘は黒光りするほど磨き上げられた上に、金の細工と多くの宝石が散りばめられていた。まさに『宝剣』と言うにふさわしい一品だった。
何もない空間から一振りの剣を引き出した黒髪のメイドは、その剣を腰に当てた。
そして、剣士と同じ様に腰を落として身構えた。
「こちらはいつでも良いぞ、かかって来い」
黒髪のメイドは笑っていた。
そう笑っていたのだ。
並々ならぬ腕を持つ剣士が再び、あの神速一撃を出そうと身構えているのを目の前にして、さも嬉しそうに笑っているのだ。それはまるで子供が欲しかったおもちゃを目の前にした時の様な純粋で屈託のない笑みだった。
剣士はその瞬間、背中を悪寒が走り全身の肌が一瞬で泡立つのを感じた。もう長い間感じた事のないその感覚。今ではすっかり忘れ去っていたその感覚。
それはまさしく『恐怖』だった。
いや、正確には少し違う。言葉にするならそれは『畏怖』だ。それは人に対して感じるものではない。人ならざるモノ、あえて言いうなら『神』や『悪魔』などと言うこの世のモノならざるモノに対して感じるべきものだった。
そして同時に、目を閉ざしながらも見えていた黒髪のメイドの姿が揺らいだ。そして、まったく違う姿が剣士の心眼に写った。
銀色に輝く長い髪にエメラルドグリーンの瞳、その頂に宝石を散りばめたティアラを載せ、白いワンピースの上に金の細工が施された銀の軽鎧を身に付けた美しき女騎士。
そこには、騎士と言うよりは女王、あるいは女帝の風格すらあった。いや、もはや人ではなく『戦乙女』とも言える神々しさもあった。しかし、そのあまりに美しく神々しい姿とは相容れない、黒く禍々しい黒い霧の様なものがその背後に立ち昇っていた。
しかし、思わず目を開けた剣士の目には、やはり黒髪のメイドが『宝剣』を腰に持ち身構えながら、不気味な笑みを浮かべてこちらを見ているだけだった。
「どうした? もう恐れをなしたか」
黒髪のメイドは、その剣士の心に宿った『畏れ』を見抜いたかのようにそう挑発するかのように言った。
「お前が何者であろうと斬る。
久々に全力で戦える相手を得たのだ。
ここで倒れようとも悔いはない!」
剣士はその言葉に、自らを奮い起こすかのようにそう言ってきっと黒髪のメイドを睨んだ。
「その言葉、良い覚悟だ。
良いぞ、実に良い。
先ほどまでとはまるで別人だな。
私を失望させるでないぞ、男」
剣士の言葉に黒髪のメイドはそう言って笑った。正確には仮面に隠されその表情は定かではないが少なくとも見えている口元は笑っていた。
そして何より、その言葉使いは完全にメイドのものではなくなっている。それは女帝と言うにふさわしい風格と重み、さらには他を圧倒する独特の威圧感を持っていた。
「参る……」
剣士の口がそう小さく呟いた。そして再び目を閉ざし心を落ち着け身構えた。
それでも、剣士はその一撃を出せずにいた。
この黒髪のメイド、その口元には笑みを浮かべて緊張感を感じさせない風体なのに一部の隙もないのだ。踏み込むべき隙が無い。普通の騎士、いや剣士クラスですら、例え針の穴を通す程のものとはいえ、どこかに隙は出来る。それなのにこの黒髪のメイドは、まるで己の周りに鉄壁な城壁を張り巡らせたかのようにその気を厚く張り巡らせている。
今まで数多くの名だたる相手を倒して来たこの剣士ですら、こんな相手は初めてだった。
「なるほど、では……」
黒髪のメイドが小さくそう呟いた。
その瞬間だった。鉄壁と思われたあの城壁の左隅に小さな裂け目が見えた気がした。
ほとんど本能的に剣士は剣の柄を掴み抜刀すると床を蹴った。
窓が閉ざされているはずの静寂に包まれた大広間に一陣の風が吹き抜けた。
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