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第36話
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「さてと……。
私のやるべき仕事はほとんど済んだ。
後は、ハロルド、『表』としてのお前の仕事だからな。
私は清楚で美人な国家公認万能メイドのキルシュに戻るぞ」
戦乙女は一度大きく背伸びをすると、若き帝の騎士と剣士を交互に見ながらそう言った。
「最近じゃ、私自身、どっちが『本来の姿』だったか危うく時があるがな」
「美人は認めますが、清楚には疑問を呈したいと思いますがね」
最後にそう付け加えてくすくすと笑った後、戦乙女は静に目を閉じた。若き帝の騎士はそう独り言のように小さく呟いで笑った。
すると、また、戦乙女の体がまるで蛍の様に淡い光に包まれた。
その光が霧が晴れる様にすぅっと消えてゆくと、そこには、あの仮面を付けた黒髪のメイドが立っていた。
「さて、馬鹿旦那様、さっさと後始末をいたしましょうか」
そう言って黒髪のメイドに戻った戦乙女はくすりと笑って若き帝の騎士に言った。
「今、また、『馬鹿旦那』と言ったろ、キルシュ」
恰好は変わらないが、雰囲気は以前の少し抜けている若い商人に戻って若き帝の騎士がそう答えた。
「あら、そうでしたか?
私は『若旦那様』と言ったつもりでしたが」
黒髪のメイドはそう答えた。白い仮面で完全な表情は分からないが、仮面の下から見えている口元の表情からいかにもメイドらしいすました感じが見受けられた。
「まったく、姫君の方はまだ理解できるが、
あんたら二人とも良くもそうコロコロと立場と雰囲気を変えられるものだ」
そんな二人の様子を見て剣士は呆れ顔でそう独り言のように呟いた。
「剣士様も、新しいお立場を得た以上、このくらいはしていただかないと」
そんな剣士に黒髪のメイドは、そう言ってくすりと笑った。
「じゃあ、俺はどんな『表の顔』を装えば良いんだ?」
「そうですねぇ……」
剣士がそう尋ねると、黒髪のメイドは首を傾げて少しの間、思案した後答えた。
「では、真実も多少絡めて、今まで通り……
元騎士の『さやぐれ用心棒』と言う辺りにでいかがでしょう?
それから、そうですね、固いばかりでも面白くないので、
少しばかり『女好き』ってスパイスを加えてみましょう」
黒髪のメイドはくすくすと笑いながら言った。
「『女好き』ですか……」
剣士は当惑した表情を浮かべた。
「そう言う方が情報収集や潜入には好都合なんですよ。
女好きって言うだけで『不真面目』ってイメージになって、
『帝の騎士』みたいな固い組織の人間とは思われにくいですからね」
そんな剣士に、笑いながら若い商人が説明した。
「ちなみに私の若旦那様は、装ってるのではなく、
天然の『女好き』ですけどね。
『表』として宮殿に居る時はそこのメイド達は言うに及ばず、
女官たちにも片っ端から手を出そうとしてますからね。
私はその後始末にどれだけ苦労しているか……」
若い商人の言葉に黒髪のメイドはそう言って深いため息をついた。
「僕の場合『表』の時も装ってるんだってば」
その言葉に、慌てて若い商人が口を挟んだ。
「あら、『裏』のお仕事中も、
若旦那様曰く『年増』の私を時折、いやらしい眼で見てるくせに」
黒髪のメイドはその若い商人を仮面越しにじろりと睨んでそう言った。
「うわぁっ……そんな、それは誤解だよ、キルシュ。
カゲトキさんが変な誤解をするじゃないか!」
すかさず言い返した若き商人を見て、愉快そうに剣士が笑った。
「まあ、あの姫君もお美しいが、
今の黒髪の万能メイド姿もミステリアスで確かに良いな」
ひとしきり笑った後、剣士は妙に納得した顔でそう呟いた。
「そう、そう言う感じでお願いしますね。
できればもう少しこの馬鹿旦那みたいな下品な感じで……」
「僕のどこが下品なんですか!」
それを見て黒髪のメイドは満足げに笑った。すぐさま若い商人がそうむきになって言い返した。二人を見て剣士は愉快げに大笑いした。
「でもどうするんですか、この食人鬼のメイドは?」
ひとしきり笑った後、真顔に戻った剣士が、黒髪のメイドに尋ねた。『姫』と言う言葉は使わなかったがその言葉の響きは家臣が主に尋ねる時の様だった。
「さて、どうしたものかな。
このまま一人放り出すわけにもいかんだろうしな」
いまだ意識を失って床に横になっていたメイド姿の女を見ながら黒髪のメイドはそう答えた。
言葉では思案気な風を装っていたが、その表情はもうすでにどうするかは決めている風であった。
私のやるべき仕事はほとんど済んだ。
後は、ハロルド、『表』としてのお前の仕事だからな。
私は清楚で美人な国家公認万能メイドのキルシュに戻るぞ」
戦乙女は一度大きく背伸びをすると、若き帝の騎士と剣士を交互に見ながらそう言った。
「最近じゃ、私自身、どっちが『本来の姿』だったか危うく時があるがな」
「美人は認めますが、清楚には疑問を呈したいと思いますがね」
最後にそう付け加えてくすくすと笑った後、戦乙女は静に目を閉じた。若き帝の騎士はそう独り言のように小さく呟いで笑った。
すると、また、戦乙女の体がまるで蛍の様に淡い光に包まれた。
その光が霧が晴れる様にすぅっと消えてゆくと、そこには、あの仮面を付けた黒髪のメイドが立っていた。
「さて、馬鹿旦那様、さっさと後始末をいたしましょうか」
そう言って黒髪のメイドに戻った戦乙女はくすりと笑って若き帝の騎士に言った。
「今、また、『馬鹿旦那』と言ったろ、キルシュ」
恰好は変わらないが、雰囲気は以前の少し抜けている若い商人に戻って若き帝の騎士がそう答えた。
「あら、そうでしたか?
私は『若旦那様』と言ったつもりでしたが」
黒髪のメイドはそう答えた。白い仮面で完全な表情は分からないが、仮面の下から見えている口元の表情からいかにもメイドらしいすました感じが見受けられた。
「まったく、姫君の方はまだ理解できるが、
あんたら二人とも良くもそうコロコロと立場と雰囲気を変えられるものだ」
そんな二人の様子を見て剣士は呆れ顔でそう独り言のように呟いた。
「剣士様も、新しいお立場を得た以上、このくらいはしていただかないと」
そんな剣士に黒髪のメイドは、そう言ってくすりと笑った。
「じゃあ、俺はどんな『表の顔』を装えば良いんだ?」
「そうですねぇ……」
剣士がそう尋ねると、黒髪のメイドは首を傾げて少しの間、思案した後答えた。
「では、真実も多少絡めて、今まで通り……
元騎士の『さやぐれ用心棒』と言う辺りにでいかがでしょう?
それから、そうですね、固いばかりでも面白くないので、
少しばかり『女好き』ってスパイスを加えてみましょう」
黒髪のメイドはくすくすと笑いながら言った。
「『女好き』ですか……」
剣士は当惑した表情を浮かべた。
「そう言う方が情報収集や潜入には好都合なんですよ。
女好きって言うだけで『不真面目』ってイメージになって、
『帝の騎士』みたいな固い組織の人間とは思われにくいですからね」
そんな剣士に、笑いながら若い商人が説明した。
「ちなみに私の若旦那様は、装ってるのではなく、
天然の『女好き』ですけどね。
『表』として宮殿に居る時はそこのメイド達は言うに及ばず、
女官たちにも片っ端から手を出そうとしてますからね。
私はその後始末にどれだけ苦労しているか……」
若い商人の言葉に黒髪のメイドはそう言って深いため息をついた。
「僕の場合『表』の時も装ってるんだってば」
その言葉に、慌てて若い商人が口を挟んだ。
「あら、『裏』のお仕事中も、
若旦那様曰く『年増』の私を時折、いやらしい眼で見てるくせに」
黒髪のメイドはその若い商人を仮面越しにじろりと睨んでそう言った。
「うわぁっ……そんな、それは誤解だよ、キルシュ。
カゲトキさんが変な誤解をするじゃないか!」
すかさず言い返した若き商人を見て、愉快そうに剣士が笑った。
「まあ、あの姫君もお美しいが、
今の黒髪の万能メイド姿もミステリアスで確かに良いな」
ひとしきり笑った後、剣士は妙に納得した顔でそう呟いた。
「そう、そう言う感じでお願いしますね。
できればもう少しこの馬鹿旦那みたいな下品な感じで……」
「僕のどこが下品なんですか!」
それを見て黒髪のメイドは満足げに笑った。すぐさま若い商人がそうむきになって言い返した。二人を見て剣士は愉快げに大笑いした。
「でもどうするんですか、この食人鬼のメイドは?」
ひとしきり笑った後、真顔に戻った剣士が、黒髪のメイドに尋ねた。『姫』と言う言葉は使わなかったがその言葉の響きは家臣が主に尋ねる時の様だった。
「さて、どうしたものかな。
このまま一人放り出すわけにもいかんだろうしな」
いまだ意識を失って床に横になっていたメイド姿の女を見ながら黒髪のメイドはそう答えた。
言葉では思案気な風を装っていたが、その表情はもうすでにどうするかは決めている風であった。
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