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第39話
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「確かに、あなたとあなたの大切な人との間にあった時間を僕は知らない。
でもね、さっきも言った様に僕にはあなたの大切な人の気持ちは分かる。
あなたは大切な人を守る為に死に勝る恥辱を受け入れたのだろ。
そのあなたがその事を悔やんで死んだとしたらその大切な人はどう思う?」
若い商人のそう食人鬼のメイドに問いかけた。
「そんな事、あなたに分かるはずない!」
食人鬼のメイドは少しむきになってそう叫けんだ。
「分かる。僕には痛いほど分かる。
そうやって大切な人を守れず死なせてしまった男がどれほど悔しいか。
そしてその心の痛みがどれほど深くいか。
その痛みはいつまでも消えないんだよ。
生きてる限り、この心に巣食って僕を責め続けるんだ」
つとめて冷静に、そしてまるで相手が自分の愛する女性であるかの様な優しい微笑みを浮かべたまま若い商人は語りだした。
「だから、そんな事、あなたの想像でしかないわ!」
食人鬼のメイドは少しいらだった様子でその言葉を遮ろうとした。しかし、若い商人の男はその言葉を無視して、しかし、優しい微笑みはそのままで続けた。
「分かるよ。だって、僕は……」
そう言ってから、若い商人は一度言葉を切り、目を閉じ、天を仰ぎ、何かを想い出すようにしながら言った。
「僕は、目の前でこの世で一番大切な人をそうやって失ったんだからね。
その時、僕はその人を救う事が出来なかった。
僕の伸ばした手は、その人に届かなかったんだ」
「えっ……」
若い商人は少しだけ悲しい表情を浮かべてそう言った。その言葉を耳にした食人鬼のメイドが思わずそう小さく声を上げてそのまま絶句した。
そして、それは同時に、それは、もしもの時に備えていた剣士も同じだった。
「姫君、あれは……?」
「本当の事だよ。
この期に及んであれが嘘なら直ぐバレる。
仮に嘘が通っても後がとんでもない事になるからな」
黒髪のメイドは、若い商人の男と同じ様に少しだけ寂し気な表情を浮かべて小声で答えた。
「僕の大切なその人は、僕の為に、僕を救う為に、死に勝る酷い辱めを受けた。
あなたと同じ様に、何日にも渡り、けだもの達のおもちゃにされた。
きっと、その恥辱に耐えている間の想いはあなたと同じだったはず。
ただ違ったのは、あなたの大切な人はそれでも殺され、
僕はその人のおかげでこうして生を繋げることが出来た。
だから、きっと、天国であなたの大事な人は僕と同じ想いでいるはず。
その人は、絶対に、あなたには死んでほしくないと思っているだよ。
僕は、例えどんなにその身を汚されようと生きていて欲しかった。
心が耐えきれぬほど傷ついたのなら、
一生傍に居てその痛みを分かち合って生きたかった。
そして、その人が『生きていてよかった』と心から思えるほど、
その人を幸せにしてあげたかった。
でも僕にはもうそれはできない。
もし、ここであなたがその命を絶つならば、それはその人の想いを裏切る事。
だから僕はあなたに生きて欲しい。
あなたを守りたいと、最後の瞬間まで願い続けていた人の為に。
約束しよう。
僕と姫はあなたに、生きてて良かったと思える人生を与えると。
いや、違う。
助けられなかったあの人の代わりにあなたを救わせて欲しい。
だから、お願いだ。
この手を取ってくれ……」
若い商人はそう言いながら、手を伸ばしながら、ゆっくりと食人鬼のメイドに歩み寄って行った。
「私は生きていて良いのですか?」
若い商人の言葉を聞いた食人鬼のメイドが後ろを振り返り、そう小さく呟きながらその手をおずおずと伸ばした。
「生きてください。
あなたの大切な人の為に……」
若い商人は出来る限り優しくそしてあたたかい笑みを浮かべながら歩を進め、伸ばした手をさらに伸ばし食人鬼のメイドが伸ばした手を取ろうとした。
二人の指先が触れ合おうとした、その瞬間だった。
「やっぱいダメ!
あの方の居ないこの世界に一人で生きて行くなんてできない!」
一度は温和になりかけた食人鬼のメイドの表情が再び険しい表情に変った。そして食人鬼のメイドは伸ばしていた手を引っ込める再び外を向くと、そのままゆっくり何もない空中へと倒れ込んで行った。
「ダメだ!」
それに気がついた若い商人は無意識の内に地を蹴っていた。
でもね、さっきも言った様に僕にはあなたの大切な人の気持ちは分かる。
あなたは大切な人を守る為に死に勝る恥辱を受け入れたのだろ。
そのあなたがその事を悔やんで死んだとしたらその大切な人はどう思う?」
若い商人のそう食人鬼のメイドに問いかけた。
「そんな事、あなたに分かるはずない!」
食人鬼のメイドは少しむきになってそう叫けんだ。
「分かる。僕には痛いほど分かる。
そうやって大切な人を守れず死なせてしまった男がどれほど悔しいか。
そしてその心の痛みがどれほど深くいか。
その痛みはいつまでも消えないんだよ。
生きてる限り、この心に巣食って僕を責め続けるんだ」
つとめて冷静に、そしてまるで相手が自分の愛する女性であるかの様な優しい微笑みを浮かべたまま若い商人は語りだした。
「だから、そんな事、あなたの想像でしかないわ!」
食人鬼のメイドは少しいらだった様子でその言葉を遮ろうとした。しかし、若い商人の男はその言葉を無視して、しかし、優しい微笑みはそのままで続けた。
「分かるよ。だって、僕は……」
そう言ってから、若い商人は一度言葉を切り、目を閉じ、天を仰ぎ、何かを想い出すようにしながら言った。
「僕は、目の前でこの世で一番大切な人をそうやって失ったんだからね。
その時、僕はその人を救う事が出来なかった。
僕の伸ばした手は、その人に届かなかったんだ」
「えっ……」
若い商人は少しだけ悲しい表情を浮かべてそう言った。その言葉を耳にした食人鬼のメイドが思わずそう小さく声を上げてそのまま絶句した。
そして、それは同時に、それは、もしもの時に備えていた剣士も同じだった。
「姫君、あれは……?」
「本当の事だよ。
この期に及んであれが嘘なら直ぐバレる。
仮に嘘が通っても後がとんでもない事になるからな」
黒髪のメイドは、若い商人の男と同じ様に少しだけ寂し気な表情を浮かべて小声で答えた。
「僕の大切なその人は、僕の為に、僕を救う為に、死に勝る酷い辱めを受けた。
あなたと同じ様に、何日にも渡り、けだもの達のおもちゃにされた。
きっと、その恥辱に耐えている間の想いはあなたと同じだったはず。
ただ違ったのは、あなたの大切な人はそれでも殺され、
僕はその人のおかげでこうして生を繋げることが出来た。
だから、きっと、天国であなたの大事な人は僕と同じ想いでいるはず。
その人は、絶対に、あなたには死んでほしくないと思っているだよ。
僕は、例えどんなにその身を汚されようと生きていて欲しかった。
心が耐えきれぬほど傷ついたのなら、
一生傍に居てその痛みを分かち合って生きたかった。
そして、その人が『生きていてよかった』と心から思えるほど、
その人を幸せにしてあげたかった。
でも僕にはもうそれはできない。
もし、ここであなたがその命を絶つならば、それはその人の想いを裏切る事。
だから僕はあなたに生きて欲しい。
あなたを守りたいと、最後の瞬間まで願い続けていた人の為に。
約束しよう。
僕と姫はあなたに、生きてて良かったと思える人生を与えると。
いや、違う。
助けられなかったあの人の代わりにあなたを救わせて欲しい。
だから、お願いだ。
この手を取ってくれ……」
若い商人はそう言いながら、手を伸ばしながら、ゆっくりと食人鬼のメイドに歩み寄って行った。
「私は生きていて良いのですか?」
若い商人の言葉を聞いた食人鬼のメイドが後ろを振り返り、そう小さく呟きながらその手をおずおずと伸ばした。
「生きてください。
あなたの大切な人の為に……」
若い商人は出来る限り優しくそしてあたたかい笑みを浮かべながら歩を進め、伸ばした手をさらに伸ばし食人鬼のメイドが伸ばした手を取ろうとした。
二人の指先が触れ合おうとした、その瞬間だった。
「やっぱいダメ!
あの方の居ないこの世界に一人で生きて行くなんてできない!」
一度は温和になりかけた食人鬼のメイドの表情が再び険しい表情に変った。そして食人鬼のメイドは伸ばしていた手を引っ込める再び外を向くと、そのままゆっくり何もない空中へと倒れ込んで行った。
「ダメだ!」
それに気がついた若い商人は無意識の内に地を蹴っていた。
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