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第40話
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すでにほとんどバランスを崩し、後は遥か下の水面へ落ちて行くだけの状態になった食人鬼のメイドの目に、自身も一緒に落ちる事を厭わずまだ手を伸ばしてくる若い商人の姿が映った。
一瞬、その姿が、殺されてしまったはずのあの愛しい主に変わった。
「主様!」
食人鬼のメイドは思わずそう叫び、再び手を伸ばした。
それはまったく無意識のものだった。
この高さである。
曲がりなりにも『帝の騎士』といえど、自分は武官と言うより文官。
あの水面に叩きつけられれば無事では済まされまい。いや、着水時の姿勢によっては即死もありうる。
しかも、今、自分は食人鬼のメイドを助けようとしている。食人鬼のメイド守りながら自分も安全な着水姿勢を取れるとは思えなかった。
それでもだ。
それでも若い商人は自らも共に落ちる覚悟で、今まさに遥か下にある水面へ向かって落ちて行こうとする食人鬼のメイドに手を伸ばした。
もうすでにバランスを崩し一緒に落ちかかっている若い商人が伸ばした手を、食人鬼のメイドの手が掴んだ。
若い商人はそのままその手を引き寄せると、食人鬼のメイドはまるでその相手が愛しい恋人の様に若い商人の胸にしがみついたのだ。
「ごめん……これでも君を守れる保証はない」
すでに空中に投げ出された姿勢で食人鬼のメイドの頭を優しく包み込む様に抱いた若い商人がそう囁いた。
食人鬼のメイドにはその言葉がとても暖かに聞こえた。
ああっ……あの方以外にも、自分を食人鬼と知りながら命を賭して助けようとしてくれる人がいた。
最後の最後でその事を知っただけでも幸せだと食人鬼のメイドは思った。
あの時、主に接して、人間に対して初めて抱いた暖かい感情。
その温かさに触れ、自分は残りの人生を全てをその主に捧げ、食人鬼としてではなく『人間』として主と共に生きる事を決めたのだ。
『シャロン……君は生きるんだ。
この先、きっと素敵な人生が君を待ってる。
僕は、君が幸せな人生を歩むのをずっと見守ってるから……』
食人鬼のメイドの耳元で愛しい主がそう囁いた。
確かにその時、食人鬼のメイドは愛しい主の懐かしい匂いとぬくもりを間近に感じた。
それでも、その声は耳元で囁かれたはずなのに遥か遠い場所から聞こえて来る様な不思議な感じがした。
その言葉の最後、忘れもしないあの優しい口づけの感触をその唇に確かに感じた。
しかし、それを最後に愛しい主の感覚はすぅっと食人鬼のメイドの傍から消えてしまった。
「主様……」
食人鬼のメイドはそう小さく呟いた後、若い商人に囁いた。
「ごめんなさい……あなたまで巻き込んで……」
「気にするな、僕は僕のしたい様にしただけさ」
しかし、若い商人はそう言って笑っただけだった。
食人鬼のメイドのメイドをその胸にしっかり抱いたまま若い商人の体は、すでに頭をしてにして遥か下にある堀の水面に向かって落下を始めていた。
この時、若い商人は自身が姫や剣士の様な身体能力を持っていない事を悔いていた。事実上、神にも匹敵する姫はともかく、あの剣士ほどの身体能力があれば自身の命の危険を犯さずとも食人鬼のメイドを救う事が出来たはずだった。彼女がその身を虚空に踊らす前にその体を引き留めてる事が出来てたであろう。
そう諦めかけたその時、一度は落下を始めた若い商人の体が軽い衝撃と共に空中で止まった。
「まったく、無茶しやがって……」
同時に耳元で今は聞き慣れた声がした。
その声に顔を上げるとそこにはあの剣士の顔があった。そして剣士は食人鬼のメイドを抱き締めた若い商人の体を食人鬼のメイドごとしっかり抱え込んでいた。
そしてその剣士の腰には頑丈そうな鎖が巻かれ、その鎖はそのまま若い商人とメイドが落ちた屋上へと伸びていた。
「カゲトキ、どうやら間に合った様だな」
その声に若い商人が上を見上げると、そこには屋上の端からこちらを見下ろす黒髪のメイドの顔があった。その表情はいつもの彼女らしい飄々としたものだったが、その声はあの一見暴君とも見える姫君のそれだった。
黒髪のメイドの声と共に、ゆっくりとその体が上へ上がってゆくのを若い商人は感じた。
どうやら、剣士の腰に巻かれた鎖が巻取り機を使っているかの様に、食人鬼のメイドを抱き抱えた自分の体ごと剣士が上へ上へ引き上げられている様だった。
一瞬、その姿が、殺されてしまったはずのあの愛しい主に変わった。
「主様!」
食人鬼のメイドは思わずそう叫び、再び手を伸ばした。
それはまったく無意識のものだった。
この高さである。
曲がりなりにも『帝の騎士』といえど、自分は武官と言うより文官。
あの水面に叩きつけられれば無事では済まされまい。いや、着水時の姿勢によっては即死もありうる。
しかも、今、自分は食人鬼のメイドを助けようとしている。食人鬼のメイド守りながら自分も安全な着水姿勢を取れるとは思えなかった。
それでもだ。
それでも若い商人は自らも共に落ちる覚悟で、今まさに遥か下にある水面へ向かって落ちて行こうとする食人鬼のメイドに手を伸ばした。
もうすでにバランスを崩し一緒に落ちかかっている若い商人が伸ばした手を、食人鬼のメイドの手が掴んだ。
若い商人はそのままその手を引き寄せると、食人鬼のメイドはまるでその相手が愛しい恋人の様に若い商人の胸にしがみついたのだ。
「ごめん……これでも君を守れる保証はない」
すでに空中に投げ出された姿勢で食人鬼のメイドの頭を優しく包み込む様に抱いた若い商人がそう囁いた。
食人鬼のメイドにはその言葉がとても暖かに聞こえた。
ああっ……あの方以外にも、自分を食人鬼と知りながら命を賭して助けようとしてくれる人がいた。
最後の最後でその事を知っただけでも幸せだと食人鬼のメイドは思った。
あの時、主に接して、人間に対して初めて抱いた暖かい感情。
その温かさに触れ、自分は残りの人生を全てをその主に捧げ、食人鬼としてではなく『人間』として主と共に生きる事を決めたのだ。
『シャロン……君は生きるんだ。
この先、きっと素敵な人生が君を待ってる。
僕は、君が幸せな人生を歩むのをずっと見守ってるから……』
食人鬼のメイドの耳元で愛しい主がそう囁いた。
確かにその時、食人鬼のメイドは愛しい主の懐かしい匂いとぬくもりを間近に感じた。
それでも、その声は耳元で囁かれたはずなのに遥か遠い場所から聞こえて来る様な不思議な感じがした。
その言葉の最後、忘れもしないあの優しい口づけの感触をその唇に確かに感じた。
しかし、それを最後に愛しい主の感覚はすぅっと食人鬼のメイドの傍から消えてしまった。
「主様……」
食人鬼のメイドはそう小さく呟いた後、若い商人に囁いた。
「ごめんなさい……あなたまで巻き込んで……」
「気にするな、僕は僕のしたい様にしただけさ」
しかし、若い商人はそう言って笑っただけだった。
食人鬼のメイドのメイドをその胸にしっかり抱いたまま若い商人の体は、すでに頭をしてにして遥か下にある堀の水面に向かって落下を始めていた。
この時、若い商人は自身が姫や剣士の様な身体能力を持っていない事を悔いていた。事実上、神にも匹敵する姫はともかく、あの剣士ほどの身体能力があれば自身の命の危険を犯さずとも食人鬼のメイドを救う事が出来たはずだった。彼女がその身を虚空に踊らす前にその体を引き留めてる事が出来てたであろう。
そう諦めかけたその時、一度は落下を始めた若い商人の体が軽い衝撃と共に空中で止まった。
「まったく、無茶しやがって……」
同時に耳元で今は聞き慣れた声がした。
その声に顔を上げるとそこにはあの剣士の顔があった。そして剣士は食人鬼のメイドを抱き締めた若い商人の体を食人鬼のメイドごとしっかり抱え込んでいた。
そしてその剣士の腰には頑丈そうな鎖が巻かれ、その鎖はそのまま若い商人とメイドが落ちた屋上へと伸びていた。
「カゲトキ、どうやら間に合った様だな」
その声に若い商人が上を見上げると、そこには屋上の端からこちらを見下ろす黒髪のメイドの顔があった。その表情はいつもの彼女らしい飄々としたものだったが、その声はあの一見暴君とも見える姫君のそれだった。
黒髪のメイドの声と共に、ゆっくりとその体が上へ上がってゆくのを若い商人は感じた。
どうやら、剣士の腰に巻かれた鎖が巻取り機を使っているかの様に、食人鬼のメイドを抱き抱えた自分の体ごと剣士が上へ上へ引き上げられている様だった。
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