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第41話
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まもなく、剣士にその体を抱き抱えられたまま若い商人と食人鬼のメイドは、もと居た城の屋上へとたどり着いた。
剣士の腰に巻かれていた鎖は、屋上の端に立つ黒髪のメイドのすぐ脇、何もない空間にぽっかり空いた黒い穴の中へと続いていた。
「まったく、何をやってるんでしょうかねぇ、この馬鹿旦那様は。
カゲトキさんの反射神経をもってしても間に合わない所でした。
おかげで私がこんな力を使う羽目になって。
もし誰か他に人に見られたらどうするおつもりですか?」
食人鬼のメイドと共に何とか無事に屋上にたどり着け一息ついた若い商人に、黒髪のメイドは呆れた顔でそう告げた。
すると同時に、剣士の腰に巻かれていた鎖がまるでそれ自体が生き物の様にほどけて、するすると空間に空いた黒い空間へと戻って行った。そして鎖が全部、戻り切るとその黒い空間もまるで霧が晴れるかの様にすぅっと消えてしまった。
「ごめん……キルシュ……、
それにカゲトキさん」
若い商人はわざとしょんぼりした顔つきで、黒髪のメイドと剣士を見ながらそう頭を下げた。
「姫に『いいから飛んで奴らを捕まえろ!』って、
言われた時にはさすがにこの俺でも躊躇したが、
姫の余裕ぶっこいた顔見て一か八かで屋上からダイブ。
まったく、この姫はどんな力持ってるんだか見当もつかんよ」
剣士は笑いながらそんな若い商人にそう言った後、厳しい顔つきになって食人鬼のメイドを見た。
「おい、お前、姫と俺たちに救われた命、そんなに簡単に捨てるのか!
お前の命はそんなに軽いのか!
お前の主はそんなに軽い命の為に死んだのか?」
そして厳しい口調でそう叫んだ。
「……ごめんなさい……」
さすがにもう死ぬ事は思い留まったのか食人鬼のメイドはうつむき向いたまま、小さな声でそう答えた。
「分かった、そんなに軽い命なら、
その命、俺によこせ!
今日、今から、お前は俺も物だ!」
剣士は突然そう叫ぶと、まだ若い商人に抱かれていた食人鬼のメイドを、奪い取る様にして自分の胸に抱いた。そして、いきなり自分の唇を食人鬼のメイドの唇に押し当てた。
いきなりの事に食人鬼のメイドは剣士の腕の中で少し暴れた。
しかし、それもつかの間、すぐに大人しくなり、その身を剣士に完全に委ね、剣士の舌をも受け入れていた。そして、その表情もまるで恋人と逢瀬を楽しんでいるかのようなうっとりととろけんばかりの表情になった。
その時、一粒、そうたった一粒だけ、食人鬼のメイドは涙を零した。その一粒はまるで深い海に眠る真珠の様に美しかった。
普通ならそんな事、絶対に許す事はない。
それは食人鬼のメイドにとっては、あの町長にされた事と同じ事のはずだった。
剣士の行為は乱暴だった。
でも不思議とその乱暴な行為の中に、何か暖かさとかすかな悲しみを感じた。
それでもだ。
この身はあの町長に一度は汚しつくされたとはいえ、愛しい主以外にもう二度と誰にも許す気はなかった。
それ故、相手が自分を救った剣士とは言え拒否の意思を強く表そうとした。
だが、その時だった。
食人鬼のメイドの目に、あの愛しい主の姿が見えた。
『彼なら君を託す事が出来る。
彼なら君を守り、そして幸せにしてくれる。
君はその人と共に新しい人生を歩んでくれ。
君が彼と一生に笑顔で過ごせる事を僕は心から祈ってるよ』
主は優しい、そう本当に優しく穏やかな表情でそう告げたのだ。
『でも私は……』
『僕の最後のお願いだ、シャロン。
君は幸せになっておくれ……』
食人鬼のメイドが躊躇すると、主はそう微笑みながら最後に告げて姿を消した。
『さよなら……主様……』
そして食人鬼のメイドは愛しい主の最後の言葉を聞き入れ、剣士にその身を委ねた。
その時、自身の頬を伝って零れ落ちた一粒の涙の意味を、食人鬼のメイドは我が事ながら分からずにいた。
その光景を若い商人はあっけにとられて見詰めていた。
やがて、剣士がゆっくりと食人鬼のメイドから唇を離した。
すべてを剣士に委ね蕩けそうになっていた食人鬼のメイドの表情が一瞬できっと険しくなった。
ぴしゃりっ!
少し乾いた音が広い屋上に響いた。
食人鬼のメイドがいきなり剣士の頬を平手打ちしたのだ。
剣士の腰に巻かれていた鎖は、屋上の端に立つ黒髪のメイドのすぐ脇、何もない空間にぽっかり空いた黒い穴の中へと続いていた。
「まったく、何をやってるんでしょうかねぇ、この馬鹿旦那様は。
カゲトキさんの反射神経をもってしても間に合わない所でした。
おかげで私がこんな力を使う羽目になって。
もし誰か他に人に見られたらどうするおつもりですか?」
食人鬼のメイドと共に何とか無事に屋上にたどり着け一息ついた若い商人に、黒髪のメイドは呆れた顔でそう告げた。
すると同時に、剣士の腰に巻かれていた鎖がまるでそれ自体が生き物の様にほどけて、するすると空間に空いた黒い空間へと戻って行った。そして鎖が全部、戻り切るとその黒い空間もまるで霧が晴れるかの様にすぅっと消えてしまった。
「ごめん……キルシュ……、
それにカゲトキさん」
若い商人はわざとしょんぼりした顔つきで、黒髪のメイドと剣士を見ながらそう頭を下げた。
「姫に『いいから飛んで奴らを捕まえろ!』って、
言われた時にはさすがにこの俺でも躊躇したが、
姫の余裕ぶっこいた顔見て一か八かで屋上からダイブ。
まったく、この姫はどんな力持ってるんだか見当もつかんよ」
剣士は笑いながらそんな若い商人にそう言った後、厳しい顔つきになって食人鬼のメイドを見た。
「おい、お前、姫と俺たちに救われた命、そんなに簡単に捨てるのか!
お前の命はそんなに軽いのか!
お前の主はそんなに軽い命の為に死んだのか?」
そして厳しい口調でそう叫んだ。
「……ごめんなさい……」
さすがにもう死ぬ事は思い留まったのか食人鬼のメイドはうつむき向いたまま、小さな声でそう答えた。
「分かった、そんなに軽い命なら、
その命、俺によこせ!
今日、今から、お前は俺も物だ!」
剣士は突然そう叫ぶと、まだ若い商人に抱かれていた食人鬼のメイドを、奪い取る様にして自分の胸に抱いた。そして、いきなり自分の唇を食人鬼のメイドの唇に押し当てた。
いきなりの事に食人鬼のメイドは剣士の腕の中で少し暴れた。
しかし、それもつかの間、すぐに大人しくなり、その身を剣士に完全に委ね、剣士の舌をも受け入れていた。そして、その表情もまるで恋人と逢瀬を楽しんでいるかのようなうっとりととろけんばかりの表情になった。
その時、一粒、そうたった一粒だけ、食人鬼のメイドは涙を零した。その一粒はまるで深い海に眠る真珠の様に美しかった。
普通ならそんな事、絶対に許す事はない。
それは食人鬼のメイドにとっては、あの町長にされた事と同じ事のはずだった。
剣士の行為は乱暴だった。
でも不思議とその乱暴な行為の中に、何か暖かさとかすかな悲しみを感じた。
それでもだ。
この身はあの町長に一度は汚しつくされたとはいえ、愛しい主以外にもう二度と誰にも許す気はなかった。
それ故、相手が自分を救った剣士とは言え拒否の意思を強く表そうとした。
だが、その時だった。
食人鬼のメイドの目に、あの愛しい主の姿が見えた。
『彼なら君を託す事が出来る。
彼なら君を守り、そして幸せにしてくれる。
君はその人と共に新しい人生を歩んでくれ。
君が彼と一生に笑顔で過ごせる事を僕は心から祈ってるよ』
主は優しい、そう本当に優しく穏やかな表情でそう告げたのだ。
『でも私は……』
『僕の最後のお願いだ、シャロン。
君は幸せになっておくれ……』
食人鬼のメイドが躊躇すると、主はそう微笑みながら最後に告げて姿を消した。
『さよなら……主様……』
そして食人鬼のメイドは愛しい主の最後の言葉を聞き入れ、剣士にその身を委ねた。
その時、自身の頬を伝って零れ落ちた一粒の涙の意味を、食人鬼のメイドは我が事ながら分からずにいた。
その光景を若い商人はあっけにとられて見詰めていた。
やがて、剣士がゆっくりと食人鬼のメイドから唇を離した。
すべてを剣士に委ね蕩けそうになっていた食人鬼のメイドの表情が一瞬できっと険しくなった。
ぴしゃりっ!
少し乾いた音が広い屋上に響いた。
食人鬼のメイドがいきなり剣士の頬を平手打ちしたのだ。
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