44 / 49
第41話
しおりを挟む
まもなく、剣士にその体を抱き抱えられたまま若い商人と食人鬼のメイドは、もと居た城の屋上へとたどり着いた。
剣士の腰に巻かれていた鎖は、屋上の端に立つ黒髪のメイドのすぐ脇、何もない空間にぽっかり空いた黒い穴の中へと続いていた。
「まったく、何をやってるんでしょうかねぇ、この馬鹿旦那様は。
カゲトキさんの反射神経をもってしても間に合わない所でした。
おかげで私がこんな力を使う羽目になって。
もし誰か他に人に見られたらどうするおつもりですか?」
食人鬼のメイドと共に何とか無事に屋上にたどり着け一息ついた若い商人に、黒髪のメイドは呆れた顔でそう告げた。
すると同時に、剣士の腰に巻かれていた鎖がまるでそれ自体が生き物の様にほどけて、するすると空間に空いた黒い空間へと戻って行った。そして鎖が全部、戻り切るとその黒い空間もまるで霧が晴れるかの様にすぅっと消えてしまった。
「ごめん……キルシュ……、
それにカゲトキさん」
若い商人はわざとしょんぼりした顔つきで、黒髪のメイドと剣士を見ながらそう頭を下げた。
「姫に『いいから飛んで奴らを捕まえろ!』って、
言われた時にはさすがにこの俺でも躊躇したが、
姫の余裕ぶっこいた顔見て一か八かで屋上からダイブ。
まったく、この姫はどんな力持ってるんだか見当もつかんよ」
剣士は笑いながらそんな若い商人にそう言った後、厳しい顔つきになって食人鬼のメイドを見た。
「おい、お前、姫と俺たちに救われた命、そんなに簡単に捨てるのか!
お前の命はそんなに軽いのか!
お前の主はそんなに軽い命の為に死んだのか?」
そして厳しい口調でそう叫んだ。
「……ごめんなさい……」
さすがにもう死ぬ事は思い留まったのか食人鬼のメイドはうつむき向いたまま、小さな声でそう答えた。
「分かった、そんなに軽い命なら、
その命、俺によこせ!
今日、今から、お前は俺も物だ!」
剣士は突然そう叫ぶと、まだ若い商人に抱かれていた食人鬼のメイドを、奪い取る様にして自分の胸に抱いた。そして、いきなり自分の唇を食人鬼のメイドの唇に押し当てた。
いきなりの事に食人鬼のメイドは剣士の腕の中で少し暴れた。
しかし、それもつかの間、すぐに大人しくなり、その身を剣士に完全に委ね、剣士の舌をも受け入れていた。そして、その表情もまるで恋人と逢瀬を楽しんでいるかのようなうっとりととろけんばかりの表情になった。
その時、一粒、そうたった一粒だけ、食人鬼のメイドは涙を零した。その一粒はまるで深い海に眠る真珠の様に美しかった。
普通ならそんな事、絶対に許す事はない。
それは食人鬼のメイドにとっては、あの町長にされた事と同じ事のはずだった。
剣士の行為は乱暴だった。
でも不思議とその乱暴な行為の中に、何か暖かさとかすかな悲しみを感じた。
それでもだ。
この身はあの町長に一度は汚しつくされたとはいえ、愛しい主以外にもう二度と誰にも許す気はなかった。
それ故、相手が自分を救った剣士とは言え拒否の意思を強く表そうとした。
だが、その時だった。
食人鬼のメイドの目に、あの愛しい主の姿が見えた。
『彼なら君を託す事が出来る。
彼なら君を守り、そして幸せにしてくれる。
君はその人と共に新しい人生を歩んでくれ。
君が彼と一生に笑顔で過ごせる事を僕は心から祈ってるよ』
主は優しい、そう本当に優しく穏やかな表情でそう告げたのだ。
『でも私は……』
『僕の最後のお願いだ、シャロン。
君は幸せになっておくれ……』
食人鬼のメイドが躊躇すると、主はそう微笑みながら最後に告げて姿を消した。
『さよなら……主様……』
そして食人鬼のメイドは愛しい主の最後の言葉を聞き入れ、剣士にその身を委ねた。
その時、自身の頬を伝って零れ落ちた一粒の涙の意味を、食人鬼のメイドは我が事ながら分からずにいた。
その光景を若い商人はあっけにとられて見詰めていた。
やがて、剣士がゆっくりと食人鬼のメイドから唇を離した。
すべてを剣士に委ね蕩けそうになっていた食人鬼のメイドの表情が一瞬できっと険しくなった。
ぴしゃりっ!
少し乾いた音が広い屋上に響いた。
食人鬼のメイドがいきなり剣士の頬を平手打ちしたのだ。
剣士の腰に巻かれていた鎖は、屋上の端に立つ黒髪のメイドのすぐ脇、何もない空間にぽっかり空いた黒い穴の中へと続いていた。
「まったく、何をやってるんでしょうかねぇ、この馬鹿旦那様は。
カゲトキさんの反射神経をもってしても間に合わない所でした。
おかげで私がこんな力を使う羽目になって。
もし誰か他に人に見られたらどうするおつもりですか?」
食人鬼のメイドと共に何とか無事に屋上にたどり着け一息ついた若い商人に、黒髪のメイドは呆れた顔でそう告げた。
すると同時に、剣士の腰に巻かれていた鎖がまるでそれ自体が生き物の様にほどけて、するすると空間に空いた黒い空間へと戻って行った。そして鎖が全部、戻り切るとその黒い空間もまるで霧が晴れるかの様にすぅっと消えてしまった。
「ごめん……キルシュ……、
それにカゲトキさん」
若い商人はわざとしょんぼりした顔つきで、黒髪のメイドと剣士を見ながらそう頭を下げた。
「姫に『いいから飛んで奴らを捕まえろ!』って、
言われた時にはさすがにこの俺でも躊躇したが、
姫の余裕ぶっこいた顔見て一か八かで屋上からダイブ。
まったく、この姫はどんな力持ってるんだか見当もつかんよ」
剣士は笑いながらそんな若い商人にそう言った後、厳しい顔つきになって食人鬼のメイドを見た。
「おい、お前、姫と俺たちに救われた命、そんなに簡単に捨てるのか!
お前の命はそんなに軽いのか!
お前の主はそんなに軽い命の為に死んだのか?」
そして厳しい口調でそう叫んだ。
「……ごめんなさい……」
さすがにもう死ぬ事は思い留まったのか食人鬼のメイドはうつむき向いたまま、小さな声でそう答えた。
「分かった、そんなに軽い命なら、
その命、俺によこせ!
今日、今から、お前は俺も物だ!」
剣士は突然そう叫ぶと、まだ若い商人に抱かれていた食人鬼のメイドを、奪い取る様にして自分の胸に抱いた。そして、いきなり自分の唇を食人鬼のメイドの唇に押し当てた。
いきなりの事に食人鬼のメイドは剣士の腕の中で少し暴れた。
しかし、それもつかの間、すぐに大人しくなり、その身を剣士に完全に委ね、剣士の舌をも受け入れていた。そして、その表情もまるで恋人と逢瀬を楽しんでいるかのようなうっとりととろけんばかりの表情になった。
その時、一粒、そうたった一粒だけ、食人鬼のメイドは涙を零した。その一粒はまるで深い海に眠る真珠の様に美しかった。
普通ならそんな事、絶対に許す事はない。
それは食人鬼のメイドにとっては、あの町長にされた事と同じ事のはずだった。
剣士の行為は乱暴だった。
でも不思議とその乱暴な行為の中に、何か暖かさとかすかな悲しみを感じた。
それでもだ。
この身はあの町長に一度は汚しつくされたとはいえ、愛しい主以外にもう二度と誰にも許す気はなかった。
それ故、相手が自分を救った剣士とは言え拒否の意思を強く表そうとした。
だが、その時だった。
食人鬼のメイドの目に、あの愛しい主の姿が見えた。
『彼なら君を託す事が出来る。
彼なら君を守り、そして幸せにしてくれる。
君はその人と共に新しい人生を歩んでくれ。
君が彼と一生に笑顔で過ごせる事を僕は心から祈ってるよ』
主は優しい、そう本当に優しく穏やかな表情でそう告げたのだ。
『でも私は……』
『僕の最後のお願いだ、シャロン。
君は幸せになっておくれ……』
食人鬼のメイドが躊躇すると、主はそう微笑みながら最後に告げて姿を消した。
『さよなら……主様……』
そして食人鬼のメイドは愛しい主の最後の言葉を聞き入れ、剣士にその身を委ねた。
その時、自身の頬を伝って零れ落ちた一粒の涙の意味を、食人鬼のメイドは我が事ながら分からずにいた。
その光景を若い商人はあっけにとられて見詰めていた。
やがて、剣士がゆっくりと食人鬼のメイドから唇を離した。
すべてを剣士に委ね蕩けそうになっていた食人鬼のメイドの表情が一瞬できっと険しくなった。
ぴしゃりっ!
少し乾いた音が広い屋上に響いた。
食人鬼のメイドがいきなり剣士の頬を平手打ちしたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
偽姫ー身代わりの嫁入りー
水戸けい
恋愛
フェリスは、王女のメイドだった。敗戦国となってしまい、王女を差し出さねばならなくなった国王は、娘可愛さのあまりフェリスを騙して王女の身代わりとし、戦勝国へ差し出すことを思いつき、フェリスは偽の王女として過ごさなければならなくなった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王様のメイド様
文月 蓮
恋愛
ロザリアは魔界で父とふたりで暮らしていた。ある日、父が保証人となっていた男の借金を背負わされてしまう。そんなロザリアたちのもとに、魔王城で働くことを条件にこの窮状を助けてくれるという人が現れる。それは死んだと聞かされていた母だった。しかも母は魔王に仕える四公爵の一人であることを知らされる。ロザリアが彼女と父の正式な伴侶とのあいだにできた子ではないことから、父とふたり気ままに暮らすことを許されていたのだと言う。反発を覚えながらも、父を助けるためにしぶしぶ魔王城へ向かったロザリアを待っていたのは、魔王様専属のメイドという仕事だった。
若くして魔王の地位に就任したエヴァンジェリスタは、なぜか初対面のロザリアに猛烈なアピールを仕掛けてくる。早くメイドを辞めたいロザリアと、彼女を恋人にしたい魔王様のラブコメディ。
「ムーンライトノベルズ」にも転載しています。更新はこちらのほうが早いです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる