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第42話
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若い商人は、いきなりの事ながら、何故かそうなる事が分かっていたかの様に剣士に向かて怒鳴った。
「あんた馬鹿か! こんな時に何やってんだ!」
しかし、剣士はその声には答えず、食人鬼のメイドを自身もじっと見つめたまま真剣な表情で尋ねた。
「それで気が済んだか?」
「まったくあなたと言う方は……。
あまりにも突然過ぎます。
そう言う事はもう少しデリカシーを持ってしてください」
若い商人は当然、食人鬼のメイドは返す手で剣士のもう片方の頬も殴ると思っていた。しかし、食人鬼のメイドは少しだけその表情を緩めそう囁くように剣士に言っただけだった。若い商人はそんな食人鬼のメイドを怪訝な表情で見ていた。
「姫、こいつを俺にくれ。
あんたの騎士団にロハで入団したせめてもの見返りだ。
安いもんだろう」
剣士は食人鬼のメイドのメイドがどうやら本当に腹を立てているのではない事を確認して、黒髪のメイドを見て少し好色そうな笑いをその口元に浮かべて尋ねた。
「おい、あんた、冗談はいい加減にしろ!」
剣士のあまりに無神経な言葉に思わず若い商人が声を荒げた。
しかし、それを黒髪のメイドが手で制して言った。
「まあ、私は構わんが……」
姿こそ、食人鬼のメイドと同じメイド姿ながら、その時の黒髪のメイドは、その仕草や言葉、さらには纏う雰囲気すらまさに『女王』いや『女帝』の風格だった。
「そっちの食人鬼の女はどうなんだ?」
黒髪のメイドが剣士の腕に抱かれたままの食人鬼のメイドに尋ねた。
すると食人鬼のメイドは小さく頷くと小声ながらはっきりと答えた。
「騎士様、いえ、カゲトキ様がそうお望みなら私に異存はありません」
「ならば何も問題あるまい。
今この時よりそなたは、
私が認める公私両面にわたるカゲトキのパートナーだ。
ただ、『表』と違って、慢性人出不足の『裏』。
宮殿に居る時はカゲトキ個人ではなく、
『裏』全体のメイドとしても働いてもらうがな」
黒髪のメイドは、女王の風格を纏ったままそう言った後、若い商人に向かって続けた。
「……と言う訳だ。お前も異存はないな」
「あなたがそうおっしゃるのなら……」
若い商人はまだ完全には納得していない様子ながらそう答えた。
「それから女帝には、シャロンの事、お前から巧い事言っておいてくれ」
それを聞いて黒髪のメイドはそう言うとさも愉快げに高笑いをした。
「そう言うめんどくさい事はすべて僕任せなんですからね、あなたは」
「しかたあるまい。
私は実際にはすでに死人だ。
本来の姿で女帝の前に出る訳にもゆくまい。
かと言ってこの姿で『偉大なる女帝』様に意見する訳もゆくまいて」
いつのまにか見た目の主従関係が逆転した雰囲気で若い商人がそう言って苦笑を浮かべると、黒髪のメイドはそう答えてにやりと笑った。
「本当にあなたはそれよろしいのですか、カゲトキ様。
私は『人間』ではありせん。
食人鬼と言う『化け物』なのですよ」
剣士の腕に抱かれたままの食人鬼のメイドが、剣士を見上げて少し不安げな表情でそう尋ねた。
「そこは、心配するな。
『食人鬼』って奴には少しばかり縁がある」
「そうですか……」
剣士は何故か食人鬼のメイドから目を逸らせてそう答えた。食人鬼のメイドもその雰囲気を察してその事にはそれ以上立ち入らなかった。それでも、相手が食人鬼と知りながら深いキスをしてきたこの剣士には、食人鬼と何らかの深い関係があるのではないかと食人鬼のメイドはその時思った。
「お前こそ良いのか?
俺は前の主とは全く違うぞ。
女に優しくもないし、下品でがさつな男だ」
「ふふふっ……それはあなたがわざとそうしてるだけですよね。
本来のあなたはとても優しい方でしょ。
それに剣士、いや帝の騎士としてもやってゆける程の人格者」
剣士の問い掛けに、食人鬼のメイドはそう言ってくすりと笑った。
「買い被るな。
そんな男があんな町長の用事棒などやらないだろう」
「では、そう言う事にしておきましょう。
私はどちらであれ、あなたに公私共々仕えると決めたのですからね」
「こんな俺だ、かなり苦労する事は覚悟しておけよ」
「はい、カゲトキ様」
そう言った食人鬼のメイドに、思わず剣士の方が頬を赤らめ目を逸らしてしまった。それでも剣士は食人鬼のメイドを恋人の様に抱いたままだったし、食人鬼のメイドも嫌がる素振りはまったくしなかった。
「あんた馬鹿か! こんな時に何やってんだ!」
しかし、剣士はその声には答えず、食人鬼のメイドを自身もじっと見つめたまま真剣な表情で尋ねた。
「それで気が済んだか?」
「まったくあなたと言う方は……。
あまりにも突然過ぎます。
そう言う事はもう少しデリカシーを持ってしてください」
若い商人は当然、食人鬼のメイドは返す手で剣士のもう片方の頬も殴ると思っていた。しかし、食人鬼のメイドは少しだけその表情を緩めそう囁くように剣士に言っただけだった。若い商人はそんな食人鬼のメイドを怪訝な表情で見ていた。
「姫、こいつを俺にくれ。
あんたの騎士団にロハで入団したせめてもの見返りだ。
安いもんだろう」
剣士は食人鬼のメイドのメイドがどうやら本当に腹を立てているのではない事を確認して、黒髪のメイドを見て少し好色そうな笑いをその口元に浮かべて尋ねた。
「おい、あんた、冗談はいい加減にしろ!」
剣士のあまりに無神経な言葉に思わず若い商人が声を荒げた。
しかし、それを黒髪のメイドが手で制して言った。
「まあ、私は構わんが……」
姿こそ、食人鬼のメイドと同じメイド姿ながら、その時の黒髪のメイドは、その仕草や言葉、さらには纏う雰囲気すらまさに『女王』いや『女帝』の風格だった。
「そっちの食人鬼の女はどうなんだ?」
黒髪のメイドが剣士の腕に抱かれたままの食人鬼のメイドに尋ねた。
すると食人鬼のメイドは小さく頷くと小声ながらはっきりと答えた。
「騎士様、いえ、カゲトキ様がそうお望みなら私に異存はありません」
「ならば何も問題あるまい。
今この時よりそなたは、
私が認める公私両面にわたるカゲトキのパートナーだ。
ただ、『表』と違って、慢性人出不足の『裏』。
宮殿に居る時はカゲトキ個人ではなく、
『裏』全体のメイドとしても働いてもらうがな」
黒髪のメイドは、女王の風格を纏ったままそう言った後、若い商人に向かって続けた。
「……と言う訳だ。お前も異存はないな」
「あなたがそうおっしゃるのなら……」
若い商人はまだ完全には納得していない様子ながらそう答えた。
「それから女帝には、シャロンの事、お前から巧い事言っておいてくれ」
それを聞いて黒髪のメイドはそう言うとさも愉快げに高笑いをした。
「そう言うめんどくさい事はすべて僕任せなんですからね、あなたは」
「しかたあるまい。
私は実際にはすでに死人だ。
本来の姿で女帝の前に出る訳にもゆくまい。
かと言ってこの姿で『偉大なる女帝』様に意見する訳もゆくまいて」
いつのまにか見た目の主従関係が逆転した雰囲気で若い商人がそう言って苦笑を浮かべると、黒髪のメイドはそう答えてにやりと笑った。
「本当にあなたはそれよろしいのですか、カゲトキ様。
私は『人間』ではありせん。
食人鬼と言う『化け物』なのですよ」
剣士の腕に抱かれたままの食人鬼のメイドが、剣士を見上げて少し不安げな表情でそう尋ねた。
「そこは、心配するな。
『食人鬼』って奴には少しばかり縁がある」
「そうですか……」
剣士は何故か食人鬼のメイドから目を逸らせてそう答えた。食人鬼のメイドもその雰囲気を察してその事にはそれ以上立ち入らなかった。それでも、相手が食人鬼と知りながら深いキスをしてきたこの剣士には、食人鬼と何らかの深い関係があるのではないかと食人鬼のメイドはその時思った。
「お前こそ良いのか?
俺は前の主とは全く違うぞ。
女に優しくもないし、下品でがさつな男だ」
「ふふふっ……それはあなたがわざとそうしてるだけですよね。
本来のあなたはとても優しい方でしょ。
それに剣士、いや帝の騎士としてもやってゆける程の人格者」
剣士の問い掛けに、食人鬼のメイドはそう言ってくすりと笑った。
「買い被るな。
そんな男があんな町長の用事棒などやらないだろう」
「では、そう言う事にしておきましょう。
私はどちらであれ、あなたに公私共々仕えると決めたのですからね」
「こんな俺だ、かなり苦労する事は覚悟しておけよ」
「はい、カゲトキ様」
そう言った食人鬼のメイドに、思わず剣士の方が頬を赤らめ目を逸らしてしまった。それでも剣士は食人鬼のメイドを恋人の様に抱いたままだったし、食人鬼のメイドも嫌がる素振りはまったくしなかった。
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