年下上司の溺愛は甘すぎる

春野カノン

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任される喜び2

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そう言って奥様は渡しておいたデザインの控えを大事そうに封筒から出してくれた。
おふたりの要望に沿って提案したデザインのコピーをいくつか渡しておいたのだ。


「オーダーのお店に行った時、私たちの要望を叶えるようにデザインを描いてくださるんだけど、要望通りのデザインなだけであなたが私たちに提案してくださったようなものには出会えなかったわ」

「早川さんだけでした。我々の要望以外の想いの部分を反映させようとしてくれたのは」

「そう言っていただけて本当に嬉しいです」

「私もすごく嬉しかったの。要望は伝えつつも、結婚三十年の記念の日はどんな一日だったのか、どこに行ったのか、どんな天気だったのか、それを聞いてデザインに入れてくれたのが、本当に嬉しかった」


おふたりの要望はすごく簡単なもので、ブローチタイプのジュエリーがいいということ、そして普段から使えるようなものがいいこと、それだけだった。
その要望を叶えるデザインを描くのは簡単だったが、おふたりは記念のジュエリーを探しに来てくれたんだ。


だからこそ私は結婚三十年の記念日の思い出をブローチを見るだけで思い出せるようにデザインに込めている。
当日は晴れていたらしいのでペリドットとシトリンを宝石として使用することを提案していた。


この二つの宝石は太陽を象徴すると言われていたため、晴れたその日を思い出せるようその二つをチョイスしている。
さらには庭園に遊びに行ったそうなので花のモチーフも入れたかった私は、桔梗の花をデザインに入れていた。


桔梗の花には"変わらぬ愛"という花言葉があるため、庭園に行ったその日に見た花たち、そしてこれからの末永い愛を込めてこの花を選んだ。
使い勝手の良さも考えたため、デザインとしては全ての石を埋め込みタイプにしており引っ掛かりがほとんどないようなスマートなデザインを描いた。


「早川さんが描いてくれたこのデザインでお願いしたいわ」

「えっ⋯⋯いいんですか?私におふたりの大切な記念のジュエリーをお任せいただいて⋯」

「ぜひ早川さんにお任せしたいんです。我々の記念のジュエリーをあなたに作って欲しい」


おふたりのその言葉を聞いた私は思わず泣きそうになってしまった。
大切な記念のジュエリーを私に任せてくれて、私が描いたこのデザインのジュエリーをこの先ずっとおふたりが大切にしてくれることがとてつもなく嬉しい。


「ありがとうございます⋯心を込めて、おふたりのためにお作りさせていただきますね」

「はい⋯よろしくお願いします。早川さん」


ご夫婦と更にデザインの要望を詰めつつ、デザインのイメージをより具体的にさせていく。
限りなく完成に近い清書のデザインをおふたりと共に仕上げていき、ブラッシュアップした一枚のブローチのデザインが完成した。


「まだ本物があるわけじゃないのに、もう既に素敵だわ」

「うん⋯楽しみです本当に」

「ありがとうございます。職人にこのデザイン一度確認してもらうので少しお待ちください」


事務所に戻った私は丁度みんなが揃っていたため商談の結果を報告する。
するとみんなは自分の事のように喜んでくれた。


「すごいです⋯瀬奈さん!おめでとうございます」

「さすがですね瀬奈さん」

「早川さんならやってくれると思ってましたよ」

「みんなありがとうございます!真斗くんと遠藤さん少しいいですか?」


制作担当の二人に私が描いたデザインを見せて確認してもらった。
実際これが制作可能なのか、変えた方がいい部分などはあるかなど二人とも話をまとめる。
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