年下上司の溺愛は甘すぎる

春野カノン

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年末への招待3

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小学校からの幼なじみのため沙也加には何度も助けられた。
学生時代に美玲に彼氏を取られた時も真っ先に慰めてくれたのは沙也加だ。


「最近会う機会があって話したんだけど、あの人ともうまくいってないみたいで、姉妹なのにどうしてこんなに違うのって⋯」

「そっか⋯⋯瀬奈。そろそろこの件、決着つけた方がいいんじゃないかなって私思ってる。ずっと瀬奈のこと見てきたけど、この先も瀬奈の幸せ奪おうとしてくるなら許せないし、結婚っていう未来を考えるならケリをつけたほうがいいと思うんだよね」

「⋯そうだよね分かってるんだけど」


ジョッキから滴り落ちる水滴を眺めて私は思考を張り巡らせる。
どうすれば美玲と話をつけられるのか、想像がつかなかった。


「お父さんに話してみたら?」

「⋯⋯うん」

「きっと力になってくれるよ。九条くんは知ってるの?」

「うん。写真が入ってた時に夏樹には全部話してる」

「なら味方はたくさんいる。自分の幸せを考えようよ、失いたくないでしょ?九条くんを」


夏樹が美玲に流されるとは全く思っていない。
だけどどういう形であれ接触してくること自体を私は避けたかった。


ずっと美玲の影の中で生きていくのは嫌だ。
のらりくらりとかわしてきたけど、いよいよ向き合わないといけない時なのかもしれない。


「関わらないように逃げてきたけど、今のままじゃだめだよね」

「時には、ね」

「実家帰ってみようかな。久しぶりにお父さんにも会いたいし」


連絡は定期的にとってはいるが、直接お父さんに会うのはかなり久しぶりだ。
毎年年始のズラしたタイミングで帰省していたため、丁度いい時期かもしれない。


「よし、飲もう瀬奈」

「うんありがとう沙也加」


***


話に夢中になりすぎて終電を逃してしまった沙也加はタクシーで帰るためスマートフォンで探すが、年末なだけあってなかなか捕まらない。
そんな姿を見ていたため、お迎えをお願いするタイミングで沙也加のことも送ってもらえないか聞いてみたら快く了承してくれた。


「いきなりの展開すぎて心の準備が。こんな酔っ払いの状態で会うことになるとはイケメンに」

「ふふふ大丈夫だよ。沙也加はいつも綺麗だから今も十分綺麗」


しばらくすると居酒屋の前の道に先程送ってくれた黒いスポーツカーが停まった。
中から顔を出したのはいつ見ても整った顔立ちの夏樹だ。


私は助手席に沙也加は後部座席に乗り込む。
基本的に二人乗りの車のため後部座席は少し狭そうで沙也加は身体を縮こませていた。


「ありがとうね夏樹。沙也加まで送って貰うことになっちゃって」

「全然だよ。女の子二人で夜は危ないし、瀬奈さんの大事な親友は俺も大切だし」


サラッとこんなことが言えるところが夏樹の人の良さが出ていた。
夏樹の私が大切にしているものを一緒に大切にできる部分がとても好きだ。


「すみませんありがとうございます。初対面がこんなタイミングで⋯」

「いえ、話は聞いてます瀬奈さんから。超美人な親友がいるって」

「話、盛りすぎですねそれ」


夏樹も沙也加も初対面とは思えないほど自然に話をしていて二人のコミュニケーション能力に驚かされる。
大好きな二人が話しているなんて私にとっては幸せでしかない。


車内では沙也加の家に着くまで三人でいろんな話をして盛り上がった。
沙也加が帰る頃には既に夏樹と打ち解けあっていて敬語からタメ口に変わり、31日が楽しみですね、なんて話している。


「九条くんありがとう。また年末に」

「いえ気にしないでください。また会いましょう」

「じゃあね沙也加。また31日」

「うんまたね瀬奈。ゆっくり休むんだよ」


マンションの中に入っていく姿を見送り、私たちも帰路に着く。
沙也加と夏樹が仲良くなってくれたことが嬉しくて、その余韻に浸りながら車に揺られた。


31日がとても待ち遠しく感じる。
それと同時に美玲とも向き合う決意を心の中で密かに固めていた。
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