64 / 86
年末への招待3
しおりを挟む
小学校からの幼なじみのため沙也加には何度も助けられた。
学生時代に美玲に彼氏を取られた時も真っ先に慰めてくれたのは沙也加だ。
「最近会う機会があって話したんだけど、あの人ともうまくいってないみたいで、姉妹なのにどうしてこんなに違うのって⋯」
「そっか⋯⋯瀬奈。そろそろこの件、決着つけた方がいいんじゃないかなって私思ってる。ずっと瀬奈のこと見てきたけど、この先も瀬奈の幸せ奪おうとしてくるなら許せないし、結婚っていう未来を考えるならケリをつけたほうがいいと思うんだよね」
「⋯そうだよね分かってるんだけど」
ジョッキから滴り落ちる水滴を眺めて私は思考を張り巡らせる。
どうすれば美玲と話をつけられるのか、想像がつかなかった。
「お父さんに話してみたら?」
「⋯⋯うん」
「きっと力になってくれるよ。九条くんは知ってるの?」
「うん。写真が入ってた時に夏樹には全部話してる」
「なら味方はたくさんいる。自分の幸せを考えようよ、失いたくないでしょ?九条くんを」
夏樹が美玲に流されるとは全く思っていない。
だけどどういう形であれ接触してくること自体を私は避けたかった。
ずっと美玲の影の中で生きていくのは嫌だ。
のらりくらりとかわしてきたけど、いよいよ向き合わないといけない時なのかもしれない。
「関わらないように逃げてきたけど、今のままじゃだめだよね」
「時には、ね」
「実家帰ってみようかな。久しぶりにお父さんにも会いたいし」
連絡は定期的にとってはいるが、直接お父さんに会うのはかなり久しぶりだ。
毎年年始のズラしたタイミングで帰省していたため、丁度いい時期かもしれない。
「よし、飲もう瀬奈」
「うんありがとう沙也加」
***
話に夢中になりすぎて終電を逃してしまった沙也加はタクシーで帰るためスマートフォンで探すが、年末なだけあってなかなか捕まらない。
そんな姿を見ていたため、お迎えをお願いするタイミングで沙也加のことも送ってもらえないか聞いてみたら快く了承してくれた。
「いきなりの展開すぎて心の準備が。こんな酔っ払いの状態で会うことになるとはイケメンに」
「ふふふ大丈夫だよ。沙也加はいつも綺麗だから今も十分綺麗」
しばらくすると居酒屋の前の道に先程送ってくれた黒いスポーツカーが停まった。
中から顔を出したのはいつ見ても整った顔立ちの夏樹だ。
私は助手席に沙也加は後部座席に乗り込む。
基本的に二人乗りの車のため後部座席は少し狭そうで沙也加は身体を縮こませていた。
「ありがとうね夏樹。沙也加まで送って貰うことになっちゃって」
「全然だよ。女の子二人で夜は危ないし、瀬奈さんの大事な親友は俺も大切だし」
サラッとこんなことが言えるところが夏樹の人の良さが出ていた。
夏樹の私が大切にしているものを一緒に大切にできる部分がとても好きだ。
「すみませんありがとうございます。初対面がこんなタイミングで⋯」
「いえ、話は聞いてます瀬奈さんから。超美人な親友がいるって」
「話、盛りすぎですねそれ」
夏樹も沙也加も初対面とは思えないほど自然に話をしていて二人のコミュニケーション能力に驚かされる。
大好きな二人が話しているなんて私にとっては幸せでしかない。
車内では沙也加の家に着くまで三人でいろんな話をして盛り上がった。
沙也加が帰る頃には既に夏樹と打ち解けあっていて敬語からタメ口に変わり、31日が楽しみですね、なんて話している。
「九条くんありがとう。また年末に」
「いえ気にしないでください。また会いましょう」
「じゃあね沙也加。また31日」
「うんまたね瀬奈。ゆっくり休むんだよ」
マンションの中に入っていく姿を見送り、私たちも帰路に着く。
沙也加と夏樹が仲良くなってくれたことが嬉しくて、その余韻に浸りながら車に揺られた。
31日がとても待ち遠しく感じる。
それと同時に美玲とも向き合う決意を心の中で密かに固めていた。
学生時代に美玲に彼氏を取られた時も真っ先に慰めてくれたのは沙也加だ。
「最近会う機会があって話したんだけど、あの人ともうまくいってないみたいで、姉妹なのにどうしてこんなに違うのって⋯」
「そっか⋯⋯瀬奈。そろそろこの件、決着つけた方がいいんじゃないかなって私思ってる。ずっと瀬奈のこと見てきたけど、この先も瀬奈の幸せ奪おうとしてくるなら許せないし、結婚っていう未来を考えるならケリをつけたほうがいいと思うんだよね」
「⋯そうだよね分かってるんだけど」
ジョッキから滴り落ちる水滴を眺めて私は思考を張り巡らせる。
どうすれば美玲と話をつけられるのか、想像がつかなかった。
「お父さんに話してみたら?」
「⋯⋯うん」
「きっと力になってくれるよ。九条くんは知ってるの?」
「うん。写真が入ってた時に夏樹には全部話してる」
「なら味方はたくさんいる。自分の幸せを考えようよ、失いたくないでしょ?九条くんを」
夏樹が美玲に流されるとは全く思っていない。
だけどどういう形であれ接触してくること自体を私は避けたかった。
ずっと美玲の影の中で生きていくのは嫌だ。
のらりくらりとかわしてきたけど、いよいよ向き合わないといけない時なのかもしれない。
「関わらないように逃げてきたけど、今のままじゃだめだよね」
「時には、ね」
「実家帰ってみようかな。久しぶりにお父さんにも会いたいし」
連絡は定期的にとってはいるが、直接お父さんに会うのはかなり久しぶりだ。
毎年年始のズラしたタイミングで帰省していたため、丁度いい時期かもしれない。
「よし、飲もう瀬奈」
「うんありがとう沙也加」
***
話に夢中になりすぎて終電を逃してしまった沙也加はタクシーで帰るためスマートフォンで探すが、年末なだけあってなかなか捕まらない。
そんな姿を見ていたため、お迎えをお願いするタイミングで沙也加のことも送ってもらえないか聞いてみたら快く了承してくれた。
「いきなりの展開すぎて心の準備が。こんな酔っ払いの状態で会うことになるとはイケメンに」
「ふふふ大丈夫だよ。沙也加はいつも綺麗だから今も十分綺麗」
しばらくすると居酒屋の前の道に先程送ってくれた黒いスポーツカーが停まった。
中から顔を出したのはいつ見ても整った顔立ちの夏樹だ。
私は助手席に沙也加は後部座席に乗り込む。
基本的に二人乗りの車のため後部座席は少し狭そうで沙也加は身体を縮こませていた。
「ありがとうね夏樹。沙也加まで送って貰うことになっちゃって」
「全然だよ。女の子二人で夜は危ないし、瀬奈さんの大事な親友は俺も大切だし」
サラッとこんなことが言えるところが夏樹の人の良さが出ていた。
夏樹の私が大切にしているものを一緒に大切にできる部分がとても好きだ。
「すみませんありがとうございます。初対面がこんなタイミングで⋯」
「いえ、話は聞いてます瀬奈さんから。超美人な親友がいるって」
「話、盛りすぎですねそれ」
夏樹も沙也加も初対面とは思えないほど自然に話をしていて二人のコミュニケーション能力に驚かされる。
大好きな二人が話しているなんて私にとっては幸せでしかない。
車内では沙也加の家に着くまで三人でいろんな話をして盛り上がった。
沙也加が帰る頃には既に夏樹と打ち解けあっていて敬語からタメ口に変わり、31日が楽しみですね、なんて話している。
「九条くんありがとう。また年末に」
「いえ気にしないでください。また会いましょう」
「じゃあね沙也加。また31日」
「うんまたね瀬奈。ゆっくり休むんだよ」
マンションの中に入っていく姿を見送り、私たちも帰路に着く。
沙也加と夏樹が仲良くなってくれたことが嬉しくて、その余韻に浸りながら車に揺られた。
31日がとても待ち遠しく感じる。
それと同時に美玲とも向き合う決意を心の中で密かに固めていた。
2
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
俺様系和服社長の家庭教師になりました。
蝶野ともえ
恋愛
一葉 翠(いつは すい)は、とある高級ブランドの店員。
ある日、常連である和服のイケメン社長に接客を指名されてしまう。
冷泉 色 (れいぜん しき) 高級和食店や呉服屋を国内に展開する大手企業の社長。普段は人当たりが良いが、オフや自分の会社に戻ると一気に俺様になる。
「君に一目惚れした。バックではなく、おまえ自身と取引をさせろ。」
それから気づくと色の家庭教師になることに!?
期間限定の生徒と先生の関係から、お互いに気持ちが変わっていって、、、
俺様社長に翻弄される日々がスタートした。
氷の上司に、好きがバレたら終わりや
naomikoryo
恋愛
──地方から本社に異動してきた29歳独身OL・舞子。
お調子者で明るく、ちょっとおせっかいな彼女の前に現れたのは、
“氷のように冷たい”と社内で噂される40歳のイケメン上司・本庄誠。
最初は「怖い」としか思えなかったはずのその人が、
実は誰よりもまっすぐで、優しくて、不器用な人だと知ったとき――
舞子の中で、恋が芽生えはじめる。
でも、彼には誰も知らない過去があった。
そして舞子は、自分の恋心を隠しながら、ゆっくりとその心の氷を溶かしていく。
◆恋って、“バレたら終わり”なんやろか?
◆それとも、“言わな、始まらへん”んやろか?
そんな揺れる想いを抱えながら、仕事も恋も全力投球。
笑って、泣いて、つまずいて――それでも、前を向く彼女の姿に、きっとあなたも自分を重ねたくなる。
関西出身のヒロイン×無口な年上上司の、20話で完結するライト文芸ラブストーリー。
仕事に恋に揺れるすべてのOLさんたちへ。
「この恋、うちのことかも」と思わず呟きたくなる、等身大の恋を、ぜひ読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる