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平穏な日々に訪れる変化(3)
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華乃子ちゃんはプログラマーたちが比較的集まって仕事をするスペースへと移動していった。
席が決められているわけではないため、私たちシステムエンジニアはいろんな場所で仕事をしている。
プログラマーたちはモニターなどを多数使用するため固定の席というものが与えられているが、自分のパソコンを使って作業することも可能なためかなり自由度が高い。
「百瀬。ちょっといいか?」
「はい」
私を呼んだのはプログラマーたちをまとめるチーフである笠井圭哉さんだ。
28歳という若さでチーフに抜擢された笠井さんはとても優秀でかなり期待されている人物らしい。
さらには切れ長の瞳に黒い短髪を一部かき上げたクールな容姿も相まってかなりモテるらしいが、彼女を作る気はないとのことだ。
こんなにかっこいいし仕事もできるのに女っ気は全くないためもはや好きな相手は同性なんじゃないか、なんて噂もあるらしい。
「どうしました?」
「今日クライアントに提出する日だよな?頼んだぞ」
「分かってますよちゃんとやります」
「まぁそこは心配してねぇんだけど。そういえば休み明けから新しいシステムエンジニアのチーフがやって来る」
以前ここでチーフをしてくれていた方は少し前に仕事を辞めており、その間はチーフ不在だったため笠井さんが兼任してくれていた。
ただでさえでも忙しい人だというのに不在期間はこちらのことまで気にかけてくれて本当に助かっている。
「今までありがとうございました笠井さん」
「一生の別れみたいな言い方すんな。ま、多少仕事が減って助かるがな」
「口、悪いですよ。普通に話せないんですか」
「あいにくこれが俺なんだ。もう慣れろ」
笠井さんは私が入社したばかりの時に1年間指導係をしてくれていたため、このような関係性になっている。
他の同期や女性社員は私のことを羨むが私には周りのみんなへの態度の方がよっぽど優しくされていると思う。
そもそも笠井さんは積極的な女性が好みではないらしい。
そのため女性社員からの熱い眼差しやアプローチには全く興味がないとのことだ。
私がここに入社した当初はプログラマーとしての採用だったため指導係が笠井さんだったが、仕事をしていくうちに彼がシステムエンジニアとしての才能を見出してくれて私を推薦してくれた。
おかげで今は楽しくやりがいを感じながらシステムエンジニアとして働けているため笠井さんには感謝してもしきれない。
今でもこうして気にしてくれくれるため私にとってはいつまでも尊敬する先輩だ。
「どんな方がいらっしゃるんです?」
「あー⋯⋯歳は俺と同じ28で仕事はできる奴、それは保証する」
「なんか、歯切れ悪くないですか?」
「まぁ女性社員の取り合いが始まって修羅場にならねぇことを願うしかないな」
「え?」
どういう意味かあまり分からないが、女性社員の取り合いで修羅場になるくらいイケメンがやって来る、ということなのだろうか。
そもそもこの口調からするに新しく来るチーフのことを笠井さんは知っているということになる。
「元々知ってる人なんですか?」
「あ⋯⋯⋯まぁな。すげー知り合い」
「へぇ、そんな人がいらっしゃるんですね。一緒に働くの楽しみじゃないんですか?」
「まぁ、いいやつではあるんだけど、チャラいというか。コミュ力高いし顔もいい、そしてモテる。ただあいつといるとめんどくせぇことに巻き込まれるからな」
笠井さんの言う"めんどくさいこと"はほぼ女性関係のことで間違いないだろう。
過去に何があったか知らないが笠井さんにとってはあまりいいことではなさそうだ。
「休み明け、そいつが来たら百瀬が会社案内してやってくれ」
「えぇ!なんで私なんですか!」
「百瀬を1番信頼してるからだよ」
こういうセリフをサラッと言えてしまう所が笠井さんのズルいところだ。
尊敬している先輩にそんなこと言われてしまえば、嬉しいに決まってるし、嫌でもやる気が出てしまう。
(私の扱い方、分かってるなぁ⋯⋯)
さすが1年間指導係をしてくれていただけある。
私がどんな言葉をかけられればやる気が出るのか既に熟知した笠井さんにとって、こんなセリフ朝飯前なんだ。
席が決められているわけではないため、私たちシステムエンジニアはいろんな場所で仕事をしている。
プログラマーたちはモニターなどを多数使用するため固定の席というものが与えられているが、自分のパソコンを使って作業することも可能なためかなり自由度が高い。
「百瀬。ちょっといいか?」
「はい」
私を呼んだのはプログラマーたちをまとめるチーフである笠井圭哉さんだ。
28歳という若さでチーフに抜擢された笠井さんはとても優秀でかなり期待されている人物らしい。
さらには切れ長の瞳に黒い短髪を一部かき上げたクールな容姿も相まってかなりモテるらしいが、彼女を作る気はないとのことだ。
こんなにかっこいいし仕事もできるのに女っ気は全くないためもはや好きな相手は同性なんじゃないか、なんて噂もあるらしい。
「どうしました?」
「今日クライアントに提出する日だよな?頼んだぞ」
「分かってますよちゃんとやります」
「まぁそこは心配してねぇんだけど。そういえば休み明けから新しいシステムエンジニアのチーフがやって来る」
以前ここでチーフをしてくれていた方は少し前に仕事を辞めており、その間はチーフ不在だったため笠井さんが兼任してくれていた。
ただでさえでも忙しい人だというのに不在期間はこちらのことまで気にかけてくれて本当に助かっている。
「今までありがとうございました笠井さん」
「一生の別れみたいな言い方すんな。ま、多少仕事が減って助かるがな」
「口、悪いですよ。普通に話せないんですか」
「あいにくこれが俺なんだ。もう慣れろ」
笠井さんは私が入社したばかりの時に1年間指導係をしてくれていたため、このような関係性になっている。
他の同期や女性社員は私のことを羨むが私には周りのみんなへの態度の方がよっぽど優しくされていると思う。
そもそも笠井さんは積極的な女性が好みではないらしい。
そのため女性社員からの熱い眼差しやアプローチには全く興味がないとのことだ。
私がここに入社した当初はプログラマーとしての採用だったため指導係が笠井さんだったが、仕事をしていくうちに彼がシステムエンジニアとしての才能を見出してくれて私を推薦してくれた。
おかげで今は楽しくやりがいを感じながらシステムエンジニアとして働けているため笠井さんには感謝してもしきれない。
今でもこうして気にしてくれくれるため私にとってはいつまでも尊敬する先輩だ。
「どんな方がいらっしゃるんです?」
「あー⋯⋯歳は俺と同じ28で仕事はできる奴、それは保証する」
「なんか、歯切れ悪くないですか?」
「まぁ女性社員の取り合いが始まって修羅場にならねぇことを願うしかないな」
「え?」
どういう意味かあまり分からないが、女性社員の取り合いで修羅場になるくらいイケメンがやって来る、ということなのだろうか。
そもそもこの口調からするに新しく来るチーフのことを笠井さんは知っているということになる。
「元々知ってる人なんですか?」
「あ⋯⋯⋯まぁな。すげー知り合い」
「へぇ、そんな人がいらっしゃるんですね。一緒に働くの楽しみじゃないんですか?」
「まぁ、いいやつではあるんだけど、チャラいというか。コミュ力高いし顔もいい、そしてモテる。ただあいつといるとめんどくせぇことに巻き込まれるからな」
笠井さんの言う"めんどくさいこと"はほぼ女性関係のことで間違いないだろう。
過去に何があったか知らないが笠井さんにとってはあまりいいことではなさそうだ。
「休み明け、そいつが来たら百瀬が会社案内してやってくれ」
「えぇ!なんで私なんですか!」
「百瀬を1番信頼してるからだよ」
こういうセリフをサラッと言えてしまう所が笠井さんのズルいところだ。
尊敬している先輩にそんなこと言われてしまえば、嬉しいに決まってるし、嫌でもやる気が出てしまう。
(私の扱い方、分かってるなぁ⋯⋯)
さすが1年間指導係をしてくれていただけある。
私がどんな言葉をかけられればやる気が出るのか既に熟知した笠井さんにとって、こんなセリフ朝飯前なんだ。
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