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【特別編】陽葵と理玖〜後悔〜(2)
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「ねえ陽葵ちゃん。俺たち、本当に終わりなの?」
「⋯⋯うん。別れるよ」
「俺はこんなにも陽葵ちゃんのことが好きなのに?」
「⋯⋯⋯」
今の俺にはひたすら陽葵ちゃんに愛の言葉を囁くことしか出来ない。
大好きな彼女を繋ぎ止めるためにわざと歩くスピードを遅め駄々をこねるようにもう1度訴える。
陽葵ちゃんがどうして俺と別れたいと言うのか、本当の理由は分からない。
だけど今までの俺の行動の結果がこういう事態を招いたことは間違いないんだ。
「最後に聞かせて欲しいんだけど、俺のこと嫌いになって別れたくなったの?」
「それは違うよ。嫌いになんかなってない」
「⋯⋯⋯そっか」
「私がただ弱かっただけ。理玖くんは何も悪くないよ。私と付き合ってくれてありがとう」
まだ陽葵ちゃんを好きな気持ちに変わりはなく、たった1つだけ気になったことを質問すると、迷わず真っ直ぐに答えてくれた。
それだけが俺の救いだ。
嫌いになって別れを切り出したわけじゃない、と訴える陽葵ちゃんはなぜか今にも泣き出しそうに見えた。
振っている側だというのにどうしてそんなに泣きそうなのか。
その顔に手を伸ばす資格が俺にはない。
もう2度とこの手で陽葵ちゃんを抱き締められないと思うと、涙が溢れそうになる。
こんなにも好きなのに別れるなんて嫌だと、そう素直に伝えられたらどれだけ良かっただろう。
何を言われたって別れたくない、そうわがままを言えたら未来は変わっていたのだろうか。
俺は彼女に背中を向けて歩き出す。
それは決別を意味し、もう彼女に手を伸ばすことができないことの証明でもあった。
振られたその日、駅まで陽葵ちゃんを見送った後はどうやって家に帰ったかあまり覚えていない。
だけど家に着いた俺は年甲斐もなく声を上げて泣いた記憶だけはなんとなくある。
どれだけ涙を流したってもう元に戻らない。
この腕で抱きしめることも触れることも許されない。
俺はこの日、今までで1番好きで大切にしていた彼女を失った。
どれもこれも全部自分が招いた結果だ。
それでもその傷を癒すには長い年月が掛かったし、その傷は簡単には癒えなくてその後何年も引きずることになる。
未だに自分の部屋に残る陽葵ちゃんの思い出たちを見つけるだけで胸が締め付けられるように痛い。
振られたからと言ってすぐに気持ちを切り替えられる訳でもないし、好きという気持ちが消える訳でもない。
彼女が好きだったお菓子や飲み物も全部が憎らしく見える。
「くそ⋯なんでもっと早くちゃんと話さなかったんだよ⋯⋯」
ポツリと呟いた言葉は誰にも聞かれることなく宙を舞って消えていく。
そんな後悔を残したまま、俺は失恋を引きずりしばらく歩んでいくのだった。
***
心地よさそうに寝息を立てて眠る彼女を見て、過去の記憶を思い出していた俺は、もう2度と同じ過ちを繰り返さないと誓った。
陽葵ちゃんの違和感に気づいていながら話をすることを先延ばしにしてしまっていたあの頃とは違う。
とびきり甘やかしてわがままも嫉妬も全部を受け止められるようなそんな男に俺はなると誓った。
それくらい俺にとって陽葵ちゃんは大切な存在なんだ。
陽葵ちゃんに振られてから何度も告白されたし身体だけの関係でもいいと懇願されたこともあった。
だがどんな時だっていつも思い出すのは陽葵ちゃんの笑顔や恥ずかしそうに照れる真っ赤な顔で、誰とも付き合う気やそういう関係になる気が起こらなかった。
自分でも笑えるくらい俺の中で陽葵ちゃんの存在が大きくなっており、振られた側だというのに未練がましくずっと彼女を探していた。
きっと陽葵ちゃんは俺がどれだけ陽葵ちゃんを想っているか知らないだろう。
想像以上に重たい愛を俺は陽葵ちゃんに向けている。
そんなある日、幼なじみの圭哉から陽葵ちゃんの名前を聞いたときは運命だと思った。
俺と同じような職種に就いていたことを知れただけで死ぬほど嬉しかったし、陽葵ちゃんの中から俺の存在が完全に消えたわけじゃないことも知れた。
このチャンスを逃す訳にはいかなかった俺は圭哉の紹介をきっかけに陽葵ちゃんの働く会社に引き抜かれ、彼女の住む隣の部屋に引っ越すことになった。
陽葵ちゃんに新しい彼氏がいると知った時は嫉妬で狂いそうだったのを今でも覚えている。
俺しか聞くことがないと思っていた女の声を出させ、その身体を味わう陽葵ちゃんの彼氏に死ぬほど嫉妬した。
隣の部屋から陽葵ちゃんの甘ったるい声が細々と聞こえてきた時には思わず下半身に熱が集まったのを覚えている。
そんな重すぎるほどの想いを抱えているなんて知らない彼女は純粋な笑みを俺に向けてくれた。
この笑顔や気持ちよさそうに眠るこの寝顔は今後絶対他の人には見せない。
「絶対に逃さないからね」
そんな束縛とも言える言葉は陽葵ちゃんに聞かれることはなかった。
目が覚めた時に美味しいコーヒーを入れてあげよう。
何から何まで全部世話をしてあげたくなるくらい陽葵ちゃんにベタ惚れだ。
マグカップにドリップしたコーヒーを注いでいると小さく唸り声を上げてゆっくり布団の中で目を開ける陽葵ちゃん。
「あ、起きた?おはよう陽葵ちゃん」
もう2度と離さない。
俺の腕の中でずぶずぶに甘やかして俺なしじゃ生きられないくらい蕩けさせてあげる。
そんな重たい愛情を心に秘めながら俺は大好きな彼女にマグカップを差し出した──。
「⋯⋯うん。別れるよ」
「俺はこんなにも陽葵ちゃんのことが好きなのに?」
「⋯⋯⋯」
今の俺にはひたすら陽葵ちゃんに愛の言葉を囁くことしか出来ない。
大好きな彼女を繋ぎ止めるためにわざと歩くスピードを遅め駄々をこねるようにもう1度訴える。
陽葵ちゃんがどうして俺と別れたいと言うのか、本当の理由は分からない。
だけど今までの俺の行動の結果がこういう事態を招いたことは間違いないんだ。
「最後に聞かせて欲しいんだけど、俺のこと嫌いになって別れたくなったの?」
「それは違うよ。嫌いになんかなってない」
「⋯⋯⋯そっか」
「私がただ弱かっただけ。理玖くんは何も悪くないよ。私と付き合ってくれてありがとう」
まだ陽葵ちゃんを好きな気持ちに変わりはなく、たった1つだけ気になったことを質問すると、迷わず真っ直ぐに答えてくれた。
それだけが俺の救いだ。
嫌いになって別れを切り出したわけじゃない、と訴える陽葵ちゃんはなぜか今にも泣き出しそうに見えた。
振っている側だというのにどうしてそんなに泣きそうなのか。
その顔に手を伸ばす資格が俺にはない。
もう2度とこの手で陽葵ちゃんを抱き締められないと思うと、涙が溢れそうになる。
こんなにも好きなのに別れるなんて嫌だと、そう素直に伝えられたらどれだけ良かっただろう。
何を言われたって別れたくない、そうわがままを言えたら未来は変わっていたのだろうか。
俺は彼女に背中を向けて歩き出す。
それは決別を意味し、もう彼女に手を伸ばすことができないことの証明でもあった。
振られたその日、駅まで陽葵ちゃんを見送った後はどうやって家に帰ったかあまり覚えていない。
だけど家に着いた俺は年甲斐もなく声を上げて泣いた記憶だけはなんとなくある。
どれだけ涙を流したってもう元に戻らない。
この腕で抱きしめることも触れることも許されない。
俺はこの日、今までで1番好きで大切にしていた彼女を失った。
どれもこれも全部自分が招いた結果だ。
それでもその傷を癒すには長い年月が掛かったし、その傷は簡単には癒えなくてその後何年も引きずることになる。
未だに自分の部屋に残る陽葵ちゃんの思い出たちを見つけるだけで胸が締め付けられるように痛い。
振られたからと言ってすぐに気持ちを切り替えられる訳でもないし、好きという気持ちが消える訳でもない。
彼女が好きだったお菓子や飲み物も全部が憎らしく見える。
「くそ⋯なんでもっと早くちゃんと話さなかったんだよ⋯⋯」
ポツリと呟いた言葉は誰にも聞かれることなく宙を舞って消えていく。
そんな後悔を残したまま、俺は失恋を引きずりしばらく歩んでいくのだった。
***
心地よさそうに寝息を立てて眠る彼女を見て、過去の記憶を思い出していた俺は、もう2度と同じ過ちを繰り返さないと誓った。
陽葵ちゃんの違和感に気づいていながら話をすることを先延ばしにしてしまっていたあの頃とは違う。
とびきり甘やかしてわがままも嫉妬も全部を受け止められるようなそんな男に俺はなると誓った。
それくらい俺にとって陽葵ちゃんは大切な存在なんだ。
陽葵ちゃんに振られてから何度も告白されたし身体だけの関係でもいいと懇願されたこともあった。
だがどんな時だっていつも思い出すのは陽葵ちゃんの笑顔や恥ずかしそうに照れる真っ赤な顔で、誰とも付き合う気やそういう関係になる気が起こらなかった。
自分でも笑えるくらい俺の中で陽葵ちゃんの存在が大きくなっており、振られた側だというのに未練がましくずっと彼女を探していた。
きっと陽葵ちゃんは俺がどれだけ陽葵ちゃんを想っているか知らないだろう。
想像以上に重たい愛を俺は陽葵ちゃんに向けている。
そんなある日、幼なじみの圭哉から陽葵ちゃんの名前を聞いたときは運命だと思った。
俺と同じような職種に就いていたことを知れただけで死ぬほど嬉しかったし、陽葵ちゃんの中から俺の存在が完全に消えたわけじゃないことも知れた。
このチャンスを逃す訳にはいかなかった俺は圭哉の紹介をきっかけに陽葵ちゃんの働く会社に引き抜かれ、彼女の住む隣の部屋に引っ越すことになった。
陽葵ちゃんに新しい彼氏がいると知った時は嫉妬で狂いそうだったのを今でも覚えている。
俺しか聞くことがないと思っていた女の声を出させ、その身体を味わう陽葵ちゃんの彼氏に死ぬほど嫉妬した。
隣の部屋から陽葵ちゃんの甘ったるい声が細々と聞こえてきた時には思わず下半身に熱が集まったのを覚えている。
そんな重すぎるほどの想いを抱えているなんて知らない彼女は純粋な笑みを俺に向けてくれた。
この笑顔や気持ちよさそうに眠るこの寝顔は今後絶対他の人には見せない。
「絶対に逃さないからね」
そんな束縛とも言える言葉は陽葵ちゃんに聞かれることはなかった。
目が覚めた時に美味しいコーヒーを入れてあげよう。
何から何まで全部世話をしてあげたくなるくらい陽葵ちゃんにベタ惚れだ。
マグカップにドリップしたコーヒーを注いでいると小さく唸り声を上げてゆっくり布団の中で目を開ける陽葵ちゃん。
「あ、起きた?おはよう陽葵ちゃん」
もう2度と離さない。
俺の腕の中でずぶずぶに甘やかして俺なしじゃ生きられないくらい蕩けさせてあげる。
そんな重たい愛情を心に秘めながら俺は大好きな彼女にマグカップを差し出した──。
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