3 / 201
始まりの日
始まりの日2
しおりを挟む
確か、この辺りだったはず……。
俺は周りを見渡す。……が、屋台は跡形もなく姿を消していた。
時間も遅かったし、もう店仕舞いしたのか。
諦めるか?
いや、今時珍しい手押し車の屋台。お婆さん一人で切り盛りしていたし、あんな重量物、こんなにも早く移動出来るはずもない。
それに、ついさっき串を一本、歩きながら平らげたばかりなのだから…。まだ近くに居るはずだ。と、俺はもう少し探す事にした。
10分程、街中を探し続けただろうか?
すると、手押しの車の屋台が少し目の前を進んでいるのが見えた。
良かった……あれだ。
俺は痛い足を引きずり、小走りで近づき、お婆さんに声を掛けた。
「あの、すみません。」
「αъ」
間違いない。変な方言を話す焼き鳥屋のお婆さんだ。
「さっき、焼き鳥を買った者ですけど……。」
「ΩΣΓΔΞΡ」
お婆さんは屋台を引くのを止めて、何を言っているか分からないけど、立ち止まった。
「不躾で申し訳ないのですが、先程の焼き鳥が、あまりにも美味しかったので、どこの鶏か詳しく教えて頂きたいのです。」
お婆さんは軽く首を傾げたが、口角を吊り上げ、少し微笑んだように見えた。そして、着いて来なさい。と言わんばかりに手招きする。
あ、良かった。教えてくれるんだ。俺はそう思い「ありがとうございます。」と感謝の言葉を伝え、お婆さんの代わりに屋台を引きます。とジェスチャーをしながら申し出た。
その事がお婆さんにも伝わったのか、お婆さんは何度か頭を下げて、俺と入れ替わり、ちょこちょこと俺の前を歩き始めた。
少し歩いた頃、俺は少し疑問に思った。前を歩いているのは、本当に老婆か?その足取りは軽やかで、どこかスキップしているようにも見えた。あまりにも足早に進むので、俺は面食らって、置いて行かれそうになる。
いや……考えるのはよそう。足も痛いし、ただ俺が、日頃運動不足なだけだ……。
うん。そう思おう。じゃないと、虚しくなるもんね。
それから、10分位進んだだろうか?屋台がギリギリ通れる位の通りに入った。
俺は、辺りをキョロキョロと見渡す。
微かな違和感がある。自分の店の近くの筈なのに、全く見覚えのない通りだったのだ。
薄明かりの漏れるのっぺりとした高層ビルの壁。人とすれ違う事もない。
いや、人とすれ違いは出来ないか。屋台がギリギリ通るのだし。先に行ってるお婆さんが人除けをしてくれているのか?
もう何年も同じ場所で商いをしている。全ての通りを把握していないことは事実だろう。しかし、ほぼ全ての通りを走破している自負はある。仕事柄、近所付き合いも大事であるし、近くで仕事をしている客も店に来る。知っておかないといけない事もあるからだ。
これは怪しい……。そう思い始めた時だった。
「∋∈⊅∀∃Γ」
お婆さんはそう言い、足を止めた。
目の前には、お世辞にも綺麗とは言えない木造の住宅。年代を感じさせるおもむきとは別に、周りを囲む高層ビル群とは溶け込まない異質感をかもちだしていた。
俺は呆気にとられる。それを、知ってか知らずか、お婆さんは軽快に足早に行動する。
屋台はこちらに。と言わんように手招きし屋台を下ろさせる。
ささ、こっちじゃ。言わんように、手招きして、中へ案内しようとする。
全てに圧倒されたような、気圧されたように導かれ、俺は玄関の入り口まで行き、扉を開けたお婆さんに一言「お邪魔します。」と一歩踏み入れようとしたが、そこで無意識に足に力が入り、寸前の所で止まった。
普通、有るべき壁や土間、室内灯や家具類が一切無いのである。
ただ……黒い。
家の中の奥行きが見えない。床は何処までも底がないような、今にも吸い込まれてしまいそうな、不気味と言うより怖い。
断崖絶壁に立たされたように、背筋に冷や汗が伝うのが分かった。
俺の横に立っているであろう、お婆さんに目を向けようと、俺は見やる。
しかし、そこにお婆さんの姿は無く、そこに居たのは、今日も来てくれた常連さんのメタボリックおじさんこと、入浜さんだった。
俺は一瞬だけ呆気に取られる。そして、脳天気な性格が顔を出す。
え?ここ、入浜さんの家?なら、あのお婆さんは、入浜さんの家族??
……何だ。良かった。知ってる人の家なら安心だ。
そう思い、気を抜いた。
そうだよな。ただ、暗くて見えないだけだよな。家の中が断崖絶壁なんてあるわけないし。
いや~。俺、疲れてるのかな?視力が良いのが取り柄の一つだったんだけどなぁ。眼科に行った方がいいかな?やっぱり、精密検査かな??幻聴も聞こえる訳だし。って、まあ、何より良かった。
安心し、笑顔で入浜さんに話し掛けようとした瞬間、俺は誰かに背中を強い勢いで押された。
安心感から気を抜き、力を抜いた両脚は、痛めていた事もあり、踏ん張る事は出来ず。「あっ。」と声にならない声と共に、俺はまさしく崖から突き落とされたように、真っ逆さまに闇の中へ吸い込まれて行った。
ええ?!やっぱり、何も無い?!嘘でしょ?!し、死んだ!これ!確実に死んだ!!
俺は周りを見渡す。……が、屋台は跡形もなく姿を消していた。
時間も遅かったし、もう店仕舞いしたのか。
諦めるか?
いや、今時珍しい手押し車の屋台。お婆さん一人で切り盛りしていたし、あんな重量物、こんなにも早く移動出来るはずもない。
それに、ついさっき串を一本、歩きながら平らげたばかりなのだから…。まだ近くに居るはずだ。と、俺はもう少し探す事にした。
10分程、街中を探し続けただろうか?
すると、手押しの車の屋台が少し目の前を進んでいるのが見えた。
良かった……あれだ。
俺は痛い足を引きずり、小走りで近づき、お婆さんに声を掛けた。
「あの、すみません。」
「αъ」
間違いない。変な方言を話す焼き鳥屋のお婆さんだ。
「さっき、焼き鳥を買った者ですけど……。」
「ΩΣΓΔΞΡ」
お婆さんは屋台を引くのを止めて、何を言っているか分からないけど、立ち止まった。
「不躾で申し訳ないのですが、先程の焼き鳥が、あまりにも美味しかったので、どこの鶏か詳しく教えて頂きたいのです。」
お婆さんは軽く首を傾げたが、口角を吊り上げ、少し微笑んだように見えた。そして、着いて来なさい。と言わんばかりに手招きする。
あ、良かった。教えてくれるんだ。俺はそう思い「ありがとうございます。」と感謝の言葉を伝え、お婆さんの代わりに屋台を引きます。とジェスチャーをしながら申し出た。
その事がお婆さんにも伝わったのか、お婆さんは何度か頭を下げて、俺と入れ替わり、ちょこちょこと俺の前を歩き始めた。
少し歩いた頃、俺は少し疑問に思った。前を歩いているのは、本当に老婆か?その足取りは軽やかで、どこかスキップしているようにも見えた。あまりにも足早に進むので、俺は面食らって、置いて行かれそうになる。
いや……考えるのはよそう。足も痛いし、ただ俺が、日頃運動不足なだけだ……。
うん。そう思おう。じゃないと、虚しくなるもんね。
それから、10分位進んだだろうか?屋台がギリギリ通れる位の通りに入った。
俺は、辺りをキョロキョロと見渡す。
微かな違和感がある。自分の店の近くの筈なのに、全く見覚えのない通りだったのだ。
薄明かりの漏れるのっぺりとした高層ビルの壁。人とすれ違う事もない。
いや、人とすれ違いは出来ないか。屋台がギリギリ通るのだし。先に行ってるお婆さんが人除けをしてくれているのか?
もう何年も同じ場所で商いをしている。全ての通りを把握していないことは事実だろう。しかし、ほぼ全ての通りを走破している自負はある。仕事柄、近所付き合いも大事であるし、近くで仕事をしている客も店に来る。知っておかないといけない事もあるからだ。
これは怪しい……。そう思い始めた時だった。
「∋∈⊅∀∃Γ」
お婆さんはそう言い、足を止めた。
目の前には、お世辞にも綺麗とは言えない木造の住宅。年代を感じさせるおもむきとは別に、周りを囲む高層ビル群とは溶け込まない異質感をかもちだしていた。
俺は呆気にとられる。それを、知ってか知らずか、お婆さんは軽快に足早に行動する。
屋台はこちらに。と言わんように手招きし屋台を下ろさせる。
ささ、こっちじゃ。言わんように、手招きして、中へ案内しようとする。
全てに圧倒されたような、気圧されたように導かれ、俺は玄関の入り口まで行き、扉を開けたお婆さんに一言「お邪魔します。」と一歩踏み入れようとしたが、そこで無意識に足に力が入り、寸前の所で止まった。
普通、有るべき壁や土間、室内灯や家具類が一切無いのである。
ただ……黒い。
家の中の奥行きが見えない。床は何処までも底がないような、今にも吸い込まれてしまいそうな、不気味と言うより怖い。
断崖絶壁に立たされたように、背筋に冷や汗が伝うのが分かった。
俺の横に立っているであろう、お婆さんに目を向けようと、俺は見やる。
しかし、そこにお婆さんの姿は無く、そこに居たのは、今日も来てくれた常連さんのメタボリックおじさんこと、入浜さんだった。
俺は一瞬だけ呆気に取られる。そして、脳天気な性格が顔を出す。
え?ここ、入浜さんの家?なら、あのお婆さんは、入浜さんの家族??
……何だ。良かった。知ってる人の家なら安心だ。
そう思い、気を抜いた。
そうだよな。ただ、暗くて見えないだけだよな。家の中が断崖絶壁なんてあるわけないし。
いや~。俺、疲れてるのかな?視力が良いのが取り柄の一つだったんだけどなぁ。眼科に行った方がいいかな?やっぱり、精密検査かな??幻聴も聞こえる訳だし。って、まあ、何より良かった。
安心し、笑顔で入浜さんに話し掛けようとした瞬間、俺は誰かに背中を強い勢いで押された。
安心感から気を抜き、力を抜いた両脚は、痛めていた事もあり、踏ん張る事は出来ず。「あっ。」と声にならない声と共に、俺はまさしく崖から突き落とされたように、真っ逆さまに闇の中へ吸い込まれて行った。
ええ?!やっぱり、何も無い?!嘘でしょ?!し、死んだ!これ!確実に死んだ!!
0
あなたにおすすめの小説
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。
死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。
「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」
だが、その世界はダークファンタジーばりばり。
人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。
こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。
ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。
死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ!
タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。
様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。
世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。
地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる