揚げ物、お好きですか?リメイク版

ツ~

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始まりの日

始まりの日2

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 確か、この辺りだったはず……。
 俺は周りを見渡す。……が、屋台は跡形もなく姿を消していた。
 時間も遅かったし、もう店仕舞いしたのか。
 諦めるか?
 いや、今時珍しい手押し車の屋台。お婆さん一人で切り盛りしていたし、あんな重量物、こんなにも早く移動出来るはずもない。
 それに、ついさっき串を一本、歩きながら平らげたばかりなのだから…。まだ近くに居るはずだ。と、俺はもう少し探す事にした。
 10分程、街中を探し続けただろうか?
 すると、手押しの車の屋台が少し目の前を進んでいるのが見えた。
 良かった……あれだ。
 俺は痛い足を引きずり、小走りで近づき、お婆さんに声を掛けた。

 「あの、すみません。」
 「αъ」

 間違いない。変な方言を話す焼き鳥屋のお婆さんだ。

 「さっき、焼き鳥を買った者ですけど……。」
 「ΩΣΓΔΞΡ」

 お婆さんは屋台を引くのを止めて、何を言っているか分からないけど、立ち止まった。

 「不躾で申し訳ないのですが、先程の焼き鳥が、あまりにも美味しかったので、どこの鶏か詳しく教えて頂きたいのです。」

 お婆さんは軽く首を傾げたが、口角を吊り上げ、少し微笑んだように見えた。そして、着いて来なさい。と言わんばかりに手招きする。
 あ、良かった。教えてくれるんだ。俺はそう思い「ありがとうございます。」と感謝の言葉を伝え、お婆さんの代わりに屋台を引きます。とジェスチャーをしながら申し出た。
 その事がお婆さんにも伝わったのか、お婆さんは何度か頭を下げて、俺と入れ替わり、ちょこちょこと俺の前を歩き始めた。
 
 少し歩いた頃、俺は少し疑問に思った。前を歩いているのは、本当に老婆か?その足取りは軽やかで、どこかスキップしているようにも見えた。あまりにも足早に進むので、俺は面食らって、置いて行かれそうになる。
 いや……考えるのはよそう。足も痛いし、ただ俺が、日頃運動不足なだけだ……。
 うん。そう思おう。じゃないと、虚しくなるもんね。
 それから、10分位進んだだろうか?屋台がギリギリ通れる位の通りに入った。
 俺は、辺りをキョロキョロと見渡す。
 微かな違和感がある。自分の店の近くの筈なのに、全く見覚えのない通りだったのだ。
 薄明かりの漏れるのっぺりとした高層ビルの壁。人とすれ違う事もない。
 いや、人とすれ違いは出来ないか。屋台がギリギリ通るのだし。先に行ってるお婆さんが人除けをしてくれているのか?
 もう何年も同じ場所で商いをしている。全ての通りを把握していないことは事実だろう。しかし、ほぼ全ての通りを走破している自負はある。仕事柄、近所付き合いも大事であるし、近くで仕事をしている客も店に来る。知っておかないといけない事もあるからだ。
 これは怪しい……。そう思い始めた時だった。

 「∋∈⊅∀∃Γ」

 お婆さんはそう言い、足を止めた。
 目の前には、お世辞にも綺麗とは言えない木造の住宅。年代を感じさせるおもむきとは別に、周りを囲む高層ビル群とは溶け込まない異質感をかもちだしていた。
 俺は呆気にとられる。それを、知ってか知らずか、お婆さんは軽快に足早に行動する。
 屋台はこちらに。と言わんように手招きし屋台を下ろさせる。
 ささ、こっちじゃ。言わんように、手招きして、中へ案内しようとする。
 全てに圧倒されたような、気圧されたように導かれ、俺は玄関の入り口まで行き、扉を開けたお婆さんに一言「お邪魔します。」と一歩踏み入れようとしたが、そこで無意識に足に力が入り、寸前の所で止まった。
 普通、有るべき壁や土間、室内灯や家具類が一切無いのである。
 ただ……黒い。
 家の中の奥行きが見えない。床は何処までも底がないような、今にも吸い込まれてしまいそうな、不気味と言うより怖い。
 断崖絶壁に立たされたように、背筋に冷や汗が伝うのが分かった。
 俺の横に立っているであろう、お婆さんに目を向けようと、俺は見やる。
 しかし、そこにお婆さんの姿は無く、そこに居たのは、今日も来てくれた常連さんのメタボリックおじさんこと、入浜さんだった。
 俺は一瞬だけ呆気に取られる。そして、脳天気な性格が顔を出す。
 え?ここ、入浜さんの家?なら、あのお婆さんは、入浜さんの家族??
 ……何だ。良かった。知ってる人の家なら安心だ。
 そう思い、気を抜いた。
 そうだよな。ただ、暗くて見えないだけだよな。家の中が断崖絶壁なんてあるわけないし。
 いや~。俺、疲れてるのかな?視力が良いのが取り柄の一つだったんだけどなぁ。眼科に行った方がいいかな?やっぱり、精密検査かな??幻聴も聞こえる訳だし。って、まあ、何より良かった。
 安心し、笑顔で入浜さんに話し掛けようとした瞬間、俺は誰かに背中を強い勢いで押された。
 安心感から気を抜き、力を抜いた両脚は、痛めていた事もあり、踏ん張る事は出来ず。「あっ。」と声にならない声と共に、俺はまさしく崖から突き落とされたように、真っ逆さまに闇の中へ吸い込まれて行った。
 ええ?!やっぱり、何も無い?!嘘でしょ?!し、死んだ!これ!確実に死んだ!!
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