137 / 201
アリシア
アリシア2
しおりを挟む
「お嬢様。よろしいですか?」
「うん!アルベダ。お願い。」
夜を歌う虫の声より小さい声。
魔原石灯の無い、薄暗い小さな小屋。
その小さな窓から射し込む月明かりの下、アルベダは何時ものように、わたしを自分の膝の上に座らせ、絵本を読み聞かせてくれた。
月夜の日にしか訪れない時。わたしはこの時間が、たまらなく好きだった。
そして、読み聞かせてもらう絵本の名は『少年ゼセンタの物語』。
わたしのお気に入りだ。
何度も何度もアルベダにせがんで読んでもらっている物語。アルベダは「またですか?」と少し呆れたような顔をしていたけれど、最後はいつも優しい微笑みを浮かべ、読んでくれた。
わたしは、優しいアルベダの声で読み上げられる物語中を幾度となく旅をした。
太陽の情熱的な暖かさ。
月の柔らかい光。
季節を運ぶ風の匂い。
数え上げればキリがない。この小さな小屋の小さな窓から少ししか感じられない景色を、この物語はわたしに教えてくれた。
もちろん、それだけではない。
優しさ。強さ。思いやりの心。など……これも数え上げればキリがない程に教えてもらった。
話の内容を簡単に言ってしまえば、バンシーの少年が苦難を乗り越え、英雄となり、小さな国を一つ救う物語。そんな在り来たりな物語。
でも、自分には特別だった。
主人公の少年ゼセンタの境遇が今の自分と似ている。そう思った事も気に入った理由の一つだろう。しかし、自分もこうありたい。そう思わせてくれる物語だった。
「めでたし、めでたし。……はい……おしまい。」
アルベダは最後の一行を読み終え、そう言い、優しく本を閉じる。
「え~。アルベダ~。もう一回、もう一回読んで~。」
祖母以外に甘えられないわたしはアルベダに甘えた。
自分に、もし……姉がいて、甘えていられたのなら、きっとこんな感じだっただろう。わたしは何時もそう思っていた。
甘えちゃいけない。今の自分の境遇を考えれば簡単に分かっている事なのに、わたしは本を閉じたアルベダの両腕を掴み、ゆすりながら、せがむ事を止められなかった。
「ふふふ。仕方ありませんね。」
アルベダもそれが分かっていただろう。自分が、わたしに深く関わると自分の身も危なくなると……しかし、それでも、わたしの事を優先してくれていた。
そして、何時もわたしが読み聞かせに満足すると、決まってこの事を言った。
「お嬢様。今は、お辛いでしょうが、諦めてはいけません。」
アルベダが何を言いたいのか、幼い自分でも分かった。でも。
「諦めちゃ、ダメ。って言われても……、どうしたら、いいの?」
そう。諦めてはいけない。と、毎回毎回言われても実際、小さく弱い自分には何も出来ない。抗う事も、ここから逃げ出す事も……。
結局……自分は、かごの中の鳥と同じなのだ。いや、それよりも悪い。鳴く事も出来ないのだから。
「それでも……です。諦めてはいけません。この物語の主人公、ゼセンタ少年と同じように、諦めてはいけないのです。諦めてなければ、道は必ず出来ます。そう、信じて下さい。この、ゼセンタ少年と同じように、信じる事を諦めないで下さい。どうかお願いです。どうか……。」
この日のアルベダは何時もと違っていた。強い願いが込められていたように思えた。そして、悲しみも。泣いていたのだろか?語尾は震えていた。懇願……それに、近かっただろう。それくらいの迫力があった。
「うん。……分かった。諦めない。信じる。わた……ううん。ゼセンタと同じように、今日から『ボク』っていうよ。ボクは信じる事を諦めない。何があっても、アルベダが言うように、信じて、諦めたりしない。何時か……何時か大きくなったら、ゼセンタと同じように、立派になる事をアルベダに誓うよ。」
ボクはアルベダにそう答えた。
その答えに、アルベダは安心したようにボクを強く抱きしめた。言葉ではなく、ボクを痛いほど強く抱きしめた。
その意味を数日後、ボクは知る事になる。
「うん!アルベダ。お願い。」
夜を歌う虫の声より小さい声。
魔原石灯の無い、薄暗い小さな小屋。
その小さな窓から射し込む月明かりの下、アルベダは何時ものように、わたしを自分の膝の上に座らせ、絵本を読み聞かせてくれた。
月夜の日にしか訪れない時。わたしはこの時間が、たまらなく好きだった。
そして、読み聞かせてもらう絵本の名は『少年ゼセンタの物語』。
わたしのお気に入りだ。
何度も何度もアルベダにせがんで読んでもらっている物語。アルベダは「またですか?」と少し呆れたような顔をしていたけれど、最後はいつも優しい微笑みを浮かべ、読んでくれた。
わたしは、優しいアルベダの声で読み上げられる物語中を幾度となく旅をした。
太陽の情熱的な暖かさ。
月の柔らかい光。
季節を運ぶ風の匂い。
数え上げればキリがない。この小さな小屋の小さな窓から少ししか感じられない景色を、この物語はわたしに教えてくれた。
もちろん、それだけではない。
優しさ。強さ。思いやりの心。など……これも数え上げればキリがない程に教えてもらった。
話の内容を簡単に言ってしまえば、バンシーの少年が苦難を乗り越え、英雄となり、小さな国を一つ救う物語。そんな在り来たりな物語。
でも、自分には特別だった。
主人公の少年ゼセンタの境遇が今の自分と似ている。そう思った事も気に入った理由の一つだろう。しかし、自分もこうありたい。そう思わせてくれる物語だった。
「めでたし、めでたし。……はい……おしまい。」
アルベダは最後の一行を読み終え、そう言い、優しく本を閉じる。
「え~。アルベダ~。もう一回、もう一回読んで~。」
祖母以外に甘えられないわたしはアルベダに甘えた。
自分に、もし……姉がいて、甘えていられたのなら、きっとこんな感じだっただろう。わたしは何時もそう思っていた。
甘えちゃいけない。今の自分の境遇を考えれば簡単に分かっている事なのに、わたしは本を閉じたアルベダの両腕を掴み、ゆすりながら、せがむ事を止められなかった。
「ふふふ。仕方ありませんね。」
アルベダもそれが分かっていただろう。自分が、わたしに深く関わると自分の身も危なくなると……しかし、それでも、わたしの事を優先してくれていた。
そして、何時もわたしが読み聞かせに満足すると、決まってこの事を言った。
「お嬢様。今は、お辛いでしょうが、諦めてはいけません。」
アルベダが何を言いたいのか、幼い自分でも分かった。でも。
「諦めちゃ、ダメ。って言われても……、どうしたら、いいの?」
そう。諦めてはいけない。と、毎回毎回言われても実際、小さく弱い自分には何も出来ない。抗う事も、ここから逃げ出す事も……。
結局……自分は、かごの中の鳥と同じなのだ。いや、それよりも悪い。鳴く事も出来ないのだから。
「それでも……です。諦めてはいけません。この物語の主人公、ゼセンタ少年と同じように、諦めてはいけないのです。諦めてなければ、道は必ず出来ます。そう、信じて下さい。この、ゼセンタ少年と同じように、信じる事を諦めないで下さい。どうかお願いです。どうか……。」
この日のアルベダは何時もと違っていた。強い願いが込められていたように思えた。そして、悲しみも。泣いていたのだろか?語尾は震えていた。懇願……それに、近かっただろう。それくらいの迫力があった。
「うん。……分かった。諦めない。信じる。わた……ううん。ゼセンタと同じように、今日から『ボク』っていうよ。ボクは信じる事を諦めない。何があっても、アルベダが言うように、信じて、諦めたりしない。何時か……何時か大きくなったら、ゼセンタと同じように、立派になる事をアルベダに誓うよ。」
ボクはアルベダにそう答えた。
その答えに、アルベダは安心したようにボクを強く抱きしめた。言葉ではなく、ボクを痛いほど強く抱きしめた。
その意味を数日後、ボクは知る事になる。
0
あなたにおすすめの小説
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。
死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。
「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」
だが、その世界はダークファンタジーばりばり。
人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。
こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。
ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。
死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ!
タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。
様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。
世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。
地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる