142 / 201
アリシア
アリシア7
しおりを挟む
結局、父がボクを殺そうとした、事の顛末はこうだった。
美味しいお菓子が手に入れ、祖母がそれをボクに早く食べてもらいたく、急ぎ過ぎたせいで、誤って階段を踏み外して亡くなった。それを、父がボクのせいだと逆恨みをして、ボクを殺そうとした。との事だった。
そして、ボクを殺そうとした事、アルベダを殺した事による、父への処罰はボクが決める事になった。
この国の法律でも、殺人を犯したら罰則がある。それは貴族とて例外ではない。しかし、この国の法律では、王族でも十貴族以上を裁く事は出来ない。出来るとしたら、その十貴族以上の者だけ。それも、世界法が関与出来ないという物だった。なので、女王様も父を裁く事は出来ない。この国で、十貴族はホッフェンハイム家だけ。三大貴族はこの国には居ない。そう、祖母が亡くなり、共犯者とみなされている母は目の前で捕縛されている。裁く権利があるのは、ボクだけだった。
はっきり言って、ホッフェンハイム家だけの為の法律だ。罪を犯しても、身内でもみ消せる。そんな法律があるだけで虫ずが走る。
「やれやれ、すまぬの。アリシアよ。幼いおぬしに負担をかけて。このような法があるとは……変えぬといかぬな。早急に調整せねば。して、アリシアよ、どうするのじゃ?」
女王は、アルベダから事前に、ボクに対する仕打ちを聞いていたのだろう。不適な笑みを浮かべ、ボクに詫びたあと、そう言葉を続けた。
家の者は使用人、執事、メイド問わず、昨日から拘束されている。
そして、ボクを見る、父の目は怯えている。それは、母も同じだった。
それはそうだろう。昨日までのおこないを自分達は知っている訳だから……。
どれだけ、ボクに苦痛を与えた?ボクの大事なモノを奪っておいて、タダで済むはずなどない。そう思っているだろう。
他の者はどうであれ、正直、父は憎い。母も憎いのだ。厳罰に処して、殺してやりたい。そう思った。
でも、アルベダの……少年ゼセンタの物語が頭から離れない。
許せ。と言っているの?アルベダ??あなたを殺したのよ??
それは出来ないと、頭を振る。それに反応して、手に力が入ったのか、痛いほど、拳の中、爪が突き刺さる。奥歯にも欠けてしまわないかというくらい力が入る。瞳の奥は、『復讐したい。』と炎がメラメラと燃えているよう熱い。そして、あの言葉が聞こえる。
『黒は闇に万物を呑み込み 白は光に万物を打ち消す 生は混沌を生み 死は秩序に安寧をもたらす 死は汝を救うだろう 死は汝を許すだろう』
……それでも、やっぱり、少年ゼセンタの物語が頭から離れないのだ。
…………。
………。
……。
アルベダ……。
ボクは拳を緩め、息を大きく吸い込んで吐いた。
両親は、それを見て、ビクンと反応する。
そして、ボクは答えを出した。
「今後、一切、ボクと関わりを持たないで下さい。アルベダのお墓をちゃんと建てて供養してあげて下さい。ずっと謝り続けて下さい。お婆様に、お花をお供えさせて下さい。それで……ボクは許します。」
「「……え?」」
ボクの答えに両親はマヌケな声を出す。
「さっき、言った通りです。今後、一切、ボクと関わりを持たないで下さい。アルベダのお墓をちゃんと建てて供養してあげて下さい。ずっと謝り続けて下さい。お婆様に、お花をお供えさせて下さい。それで……ボクは許します……。」
「だ、そうじゃ。よかったのおぬしら……。アリシアと……アルベダに感謝するんじゃな。じゃが、許されるのは今回だけじゃ。もし、アリシアにちょっかいでも出してみよ……その時は、妾、自ら手をくだすぞ。」
両親の答えより、先に女王様が両親へ話し掛ける。その言葉は、確実に殺気を放っていた。
「ひっ!ひぃぃぃぃ。わ、わかりました。あ、ありがとうございます。」
父は頭を地面に擦り付けながら、感謝の言葉を口にした。
祖母のお墓に花をお供えして考える。
結局、ボクに謝る事もアルベダに謝る事もなかったな。あの人達はボクを本当の意味で見る事は一度も無かった。やっぱり、あの人達はボクの本当の家族ではないんだ。ただ、血の繋がりがあるだけだ。
そんな事を考えていると、女王様が声を発した。
「兵士達よ、ごくろうであった。妾は、寄るところがある故、先に王都へ帰っておれ。」
「はは!」
兵士さん達はそう答え、祖母のお墓を後にする。
「アリシアよ。もう、よいか?」
「はい。ありがとうございます。」
「すまぬが、王都へ帰る前に、妾に少し付き合ってくれぬか?」
ん?どこかへ寄るって言っていたけど、ボクも??
「はい。ボクは構いません。」
「うむ。それでは、少し寒いが我慢しておくれよ。」
女王様は、自分とボクになにかの魔法をかけた後、ゲートの魔法を使った。
ボクは女王様に手を引かれ、そのゲートをくぐる。
すると、そこには……空から真っ白な物が降っていた。
これって……雪?ええ!?雪?!信じられないくらいに雪が降っていた。
す、凄い!!本当に真っ白なんだ!!それに、寒い。ここ、どこ?!
ボクは初めて見る雪に興奮したが。
「ふぉ~~~~!!寒いの~~~ぅ。少しじゃから、アリシアよ、すまぬが、我慢しておくれ。」
女王様はボクの手を引き歩きだす。
不思議と、雪がボクに積もる事はなかった。
そうか、ゲートをくぐる前に、女王様が生活魔法をかけてくれていたのか。
そして、少し進むと目の前には門が現れた。
「お~い。魔王や。おるか?寒いのじゃ。早く中へ入れてたもれ~。」
女王様はドアベルを鳴らして言う。すると、門が自動的に開いた。
そして、その門をくぐる。すると、そこには見たこともない建物がずらりと並んでいた。
しかも、ここは少し暖かい?雪が積もってもいなかった。どういう事?
ボクは不思議に思い、周りをキョロキョロと見渡す。すると、遠くから何かがもの凄いスピードでこちらへやってくるのが見えた。
え?なに??人??
それは、ボク達の前で止まる。
「よくおこしくださいました。女王様。これを。」
「おお~。イーシャよ。すまぬな。久しいな。息災であったか。」
赤く短い髪に……なにあれ?角??が一本、おでこからはえてる。耳が長くないから……エルフじゃない??分かるのは女性という事だけ。
「どうぞ。」
女王様にイーシャと呼ばれた人は、ボクに毛皮らしき物をボクに差し出してくれた。
「あ、ありがとうございます。はじめまして。アリシアと申します。」
ボクはそれを受け取り、挨拶をする。
「はじめまして。アリシア様。イーシャと申します。よろしくお願い致します。」
そう言うと、イーシャさんはボクが毛皮を羽織るのを手伝ってくれた。
「申し訳ありません。今、あなた様に合うコートがございませんでしたので、このような物で……一時間もすれば、コートなどが完成すると思いますので、どうぞ、それまではこれで……。」
イーシャさんは深々と頭をボクに下げる。
「そ、そんな……ボクなんかに毛皮を……それだけで申し訳ないのに……ボクの方こそ申し訳ありません。」
ボクもイーシャさんにそう言い、深々と頭を下げた。
「ふぉっふぉっふぉっ。すまぬの。イーシャよ。それで、魔王のやつはどこじゃ?」
毛皮を着て、熊のようになった女王様はボク達を微笑ましそうに見ながら、イーシャさんへそう言う。
え?魔王??あの、魔王様??物語によく出てくる、偉大な魔王様??
「女王様、申し訳ありません。魔王様は、今、畑仕事をなされていますので、30分程、お待ち下さい。それまでは、どうぞ、屋敷へ。」
「ふむ。そうか。ならば、おじゃましようかのぅ。」
ボク達はそのまま屋敷に向かう事になった。その間、イーシャさんはボクの手を握ってくれていた。
何もかも、生まれて初めての体験だ。こんなに長く歩いた事もなければ、景色も建物も見たことがない。
雪にも門をくぐってもびっくりしたけど、この屋敷も凄い。何とも言えない雰囲気だ。
屋敷の中は凄く暖かい。イーシャさんに案内されるまま、応接間へ入る。
「お飲み物をお持ちします。何がよろしいですか?」
え?飲み物まで出るの?!そ、そんな、悪いよ。
ボクがそう思っている事も知らず、女王様は答える。
「ならば、紅茶にしようかの。アリシアは何にする?ここまで寒かったじゃろ?体がよくあたたまる、ホットミルクなんぞもよいぞよ?」
え?ホ、ホットミルク?!あの、物語によく出てくる?!そ、そんな物、ボクには飲めないよ!
「いえ!ボ、ボクは水でいいです。水で!!」
そう、ボクなんか水でいいのだ。ボクは生まれてこの方、水しか飲んだ事がない。冬に暖房器具があった訳ではないし、お婆様やアルベダが隠し持って来れる物にも限界があった。水だけは、お情けか、大量にあったけど……。
「そうかえ?ならば、紅茶と水を頼む。」
なにやら、女王様はイーシャさんに目線を送り、そう頼んだ。
「かしこまりました。紅茶と水でございますね。」
そして、数分後。
なにやら、いい香りがした。甘くて優しい香り。今まで嗅いだことのない匂いだ。
「お待たせしました。紅茶と水でございます。」
そこに置かれたのは、白い液体だった。そして、その横には赤い何かが白い三角に乗ってる……食べ物??なに?これ??あれ??これって……絵本で見た……ショートケーキ??もしかして、ショートケーキ?!あの赤いのってイチゴ?!
「どうぞ、お召し上がり下さい。」
「すまぬな。イーシャよ。いただくとするぞよ。」
「………。」
そう言い、女王様はフォークでショートケーキを食べる。
「ふむ。うまい。これは、イーシャの手作りかえ?……おや?アリシアよ、食べぬのか??」
「え……。いや……ボクなんかが食べていいのか……。イーシャさんの分もないし……。それに、ボクは水をお願いしたのに……この白い物……は?」
「……それは、ホットミルクじゃよ。」
一瞬、間が開いて、女王様は白い液体の正体を教えてくれた。
これが……ホットミルク。本当に暖かいのだろうか?さっきから、いい匂いが鼻を刺激する。それに応じて、よだれが出そうになるよ……。
「アリシア様。あなた様は、お優しいのですね。私の事を気に掛けてくれて。私の事は気になさらず、お食べ下さい。」
「で……でも。」
ボクが躊躇うと、女王様がもう一押しした。
「アリシア様よ。子供が遠慮するものではないぞよ。」
で、でも……。そんな事言われたって……ショートケーキなんて食べた事ないし……ボクにショートケーキなんて……。
女王様の言葉に沈黙していると、隣にイーシャさんが座り、フォークを手にした。
「アリシア様が、自分だけ食べると食べ難いとおっしゃるなら、私も一緒に食べます。それでよろしいですか?それでは、アリシア様から……はい。あ~ん。」
え?あ~ん??
イーシャさんは、フォークでショートケーキを切り、そのまま、ボクの口の近くまで運んでそう言う。
「ほら、アリシアよ。イーシャも待っておろう?」
う……うう。
ボクは観念して、口を開けた。そして、口の中にショートケーキが……。
んん!?お、美味しい……。柔らかい。こんな柔らかい食べ物がこの世にあるの?これって、もしかして、雲??雲って柔らかそうだから。ショートケーキは雲で出来てるの??それに、甘いのにくどくない。ほのかに酸味もある。あの、イチゴが入っているからなのかな?!と、とにかく、凄く美味しい!!
うん!美味しいんだ!!……ははは。こんな美味しい物が世の中にあるなんて……。
ははは……。
…………。
………。
……。
こんな……美味しい物が……。
って、あれ??
頬を暖かい何かがつたい、自分の腕に落ちる。
「次は、ホットミルクはいかがですか?お熱いので、ふーふーして差し上げますね。」
そう言い、イーシャさんはカップを手に取り、言葉通り、何度もふー、ふーとカップに息をかける。
そして、カップをボクに手渡してくれた。
あ……あたたかい。
手にしたマグカップは暖かさは冷え切っていた心に暖をもたらしてくれたように思えた。
そして、導かれるようにホットミルクを、一口、口に入れる。
その瞬間、瞳は揺らぐ。
もう、言葉にならなかった。美味しいとか……そんなものではなかった。
「お辛かったでしょう。もう、ご無理はなさらなくていいのですよ。」
そう言い、イーシャさんはボクを抱きしめてくれ、女王様もボクの頭を撫でながら言ってくれた。
「アリシアよ。よく頑張ったな。おぬしはもう自由なのじゃ。自分を卑下する事はない。これからは、好きに生きていいのじゃよ。もう、遠慮もいらぬのじゃ。」
その瞬間、張り詰めていた糸が切れたように、涙が止まらなくなった。
美味しいお菓子が手に入れ、祖母がそれをボクに早く食べてもらいたく、急ぎ過ぎたせいで、誤って階段を踏み外して亡くなった。それを、父がボクのせいだと逆恨みをして、ボクを殺そうとした。との事だった。
そして、ボクを殺そうとした事、アルベダを殺した事による、父への処罰はボクが決める事になった。
この国の法律でも、殺人を犯したら罰則がある。それは貴族とて例外ではない。しかし、この国の法律では、王族でも十貴族以上を裁く事は出来ない。出来るとしたら、その十貴族以上の者だけ。それも、世界法が関与出来ないという物だった。なので、女王様も父を裁く事は出来ない。この国で、十貴族はホッフェンハイム家だけ。三大貴族はこの国には居ない。そう、祖母が亡くなり、共犯者とみなされている母は目の前で捕縛されている。裁く権利があるのは、ボクだけだった。
はっきり言って、ホッフェンハイム家だけの為の法律だ。罪を犯しても、身内でもみ消せる。そんな法律があるだけで虫ずが走る。
「やれやれ、すまぬの。アリシアよ。幼いおぬしに負担をかけて。このような法があるとは……変えぬといかぬな。早急に調整せねば。して、アリシアよ、どうするのじゃ?」
女王は、アルベダから事前に、ボクに対する仕打ちを聞いていたのだろう。不適な笑みを浮かべ、ボクに詫びたあと、そう言葉を続けた。
家の者は使用人、執事、メイド問わず、昨日から拘束されている。
そして、ボクを見る、父の目は怯えている。それは、母も同じだった。
それはそうだろう。昨日までのおこないを自分達は知っている訳だから……。
どれだけ、ボクに苦痛を与えた?ボクの大事なモノを奪っておいて、タダで済むはずなどない。そう思っているだろう。
他の者はどうであれ、正直、父は憎い。母も憎いのだ。厳罰に処して、殺してやりたい。そう思った。
でも、アルベダの……少年ゼセンタの物語が頭から離れない。
許せ。と言っているの?アルベダ??あなたを殺したのよ??
それは出来ないと、頭を振る。それに反応して、手に力が入ったのか、痛いほど、拳の中、爪が突き刺さる。奥歯にも欠けてしまわないかというくらい力が入る。瞳の奥は、『復讐したい。』と炎がメラメラと燃えているよう熱い。そして、あの言葉が聞こえる。
『黒は闇に万物を呑み込み 白は光に万物を打ち消す 生は混沌を生み 死は秩序に安寧をもたらす 死は汝を救うだろう 死は汝を許すだろう』
……それでも、やっぱり、少年ゼセンタの物語が頭から離れないのだ。
…………。
………。
……。
アルベダ……。
ボクは拳を緩め、息を大きく吸い込んで吐いた。
両親は、それを見て、ビクンと反応する。
そして、ボクは答えを出した。
「今後、一切、ボクと関わりを持たないで下さい。アルベダのお墓をちゃんと建てて供養してあげて下さい。ずっと謝り続けて下さい。お婆様に、お花をお供えさせて下さい。それで……ボクは許します。」
「「……え?」」
ボクの答えに両親はマヌケな声を出す。
「さっき、言った通りです。今後、一切、ボクと関わりを持たないで下さい。アルベダのお墓をちゃんと建てて供養してあげて下さい。ずっと謝り続けて下さい。お婆様に、お花をお供えさせて下さい。それで……ボクは許します……。」
「だ、そうじゃ。よかったのおぬしら……。アリシアと……アルベダに感謝するんじゃな。じゃが、許されるのは今回だけじゃ。もし、アリシアにちょっかいでも出してみよ……その時は、妾、自ら手をくだすぞ。」
両親の答えより、先に女王様が両親へ話し掛ける。その言葉は、確実に殺気を放っていた。
「ひっ!ひぃぃぃぃ。わ、わかりました。あ、ありがとうございます。」
父は頭を地面に擦り付けながら、感謝の言葉を口にした。
祖母のお墓に花をお供えして考える。
結局、ボクに謝る事もアルベダに謝る事もなかったな。あの人達はボクを本当の意味で見る事は一度も無かった。やっぱり、あの人達はボクの本当の家族ではないんだ。ただ、血の繋がりがあるだけだ。
そんな事を考えていると、女王様が声を発した。
「兵士達よ、ごくろうであった。妾は、寄るところがある故、先に王都へ帰っておれ。」
「はは!」
兵士さん達はそう答え、祖母のお墓を後にする。
「アリシアよ。もう、よいか?」
「はい。ありがとうございます。」
「すまぬが、王都へ帰る前に、妾に少し付き合ってくれぬか?」
ん?どこかへ寄るって言っていたけど、ボクも??
「はい。ボクは構いません。」
「うむ。それでは、少し寒いが我慢しておくれよ。」
女王様は、自分とボクになにかの魔法をかけた後、ゲートの魔法を使った。
ボクは女王様に手を引かれ、そのゲートをくぐる。
すると、そこには……空から真っ白な物が降っていた。
これって……雪?ええ!?雪?!信じられないくらいに雪が降っていた。
す、凄い!!本当に真っ白なんだ!!それに、寒い。ここ、どこ?!
ボクは初めて見る雪に興奮したが。
「ふぉ~~~~!!寒いの~~~ぅ。少しじゃから、アリシアよ、すまぬが、我慢しておくれ。」
女王様はボクの手を引き歩きだす。
不思議と、雪がボクに積もる事はなかった。
そうか、ゲートをくぐる前に、女王様が生活魔法をかけてくれていたのか。
そして、少し進むと目の前には門が現れた。
「お~い。魔王や。おるか?寒いのじゃ。早く中へ入れてたもれ~。」
女王様はドアベルを鳴らして言う。すると、門が自動的に開いた。
そして、その門をくぐる。すると、そこには見たこともない建物がずらりと並んでいた。
しかも、ここは少し暖かい?雪が積もってもいなかった。どういう事?
ボクは不思議に思い、周りをキョロキョロと見渡す。すると、遠くから何かがもの凄いスピードでこちらへやってくるのが見えた。
え?なに??人??
それは、ボク達の前で止まる。
「よくおこしくださいました。女王様。これを。」
「おお~。イーシャよ。すまぬな。久しいな。息災であったか。」
赤く短い髪に……なにあれ?角??が一本、おでこからはえてる。耳が長くないから……エルフじゃない??分かるのは女性という事だけ。
「どうぞ。」
女王様にイーシャと呼ばれた人は、ボクに毛皮らしき物をボクに差し出してくれた。
「あ、ありがとうございます。はじめまして。アリシアと申します。」
ボクはそれを受け取り、挨拶をする。
「はじめまして。アリシア様。イーシャと申します。よろしくお願い致します。」
そう言うと、イーシャさんはボクが毛皮を羽織るのを手伝ってくれた。
「申し訳ありません。今、あなた様に合うコートがございませんでしたので、このような物で……一時間もすれば、コートなどが完成すると思いますので、どうぞ、それまではこれで……。」
イーシャさんは深々と頭をボクに下げる。
「そ、そんな……ボクなんかに毛皮を……それだけで申し訳ないのに……ボクの方こそ申し訳ありません。」
ボクもイーシャさんにそう言い、深々と頭を下げた。
「ふぉっふぉっふぉっ。すまぬの。イーシャよ。それで、魔王のやつはどこじゃ?」
毛皮を着て、熊のようになった女王様はボク達を微笑ましそうに見ながら、イーシャさんへそう言う。
え?魔王??あの、魔王様??物語によく出てくる、偉大な魔王様??
「女王様、申し訳ありません。魔王様は、今、畑仕事をなされていますので、30分程、お待ち下さい。それまでは、どうぞ、屋敷へ。」
「ふむ。そうか。ならば、おじゃましようかのぅ。」
ボク達はそのまま屋敷に向かう事になった。その間、イーシャさんはボクの手を握ってくれていた。
何もかも、生まれて初めての体験だ。こんなに長く歩いた事もなければ、景色も建物も見たことがない。
雪にも門をくぐってもびっくりしたけど、この屋敷も凄い。何とも言えない雰囲気だ。
屋敷の中は凄く暖かい。イーシャさんに案内されるまま、応接間へ入る。
「お飲み物をお持ちします。何がよろしいですか?」
え?飲み物まで出るの?!そ、そんな、悪いよ。
ボクがそう思っている事も知らず、女王様は答える。
「ならば、紅茶にしようかの。アリシアは何にする?ここまで寒かったじゃろ?体がよくあたたまる、ホットミルクなんぞもよいぞよ?」
え?ホ、ホットミルク?!あの、物語によく出てくる?!そ、そんな物、ボクには飲めないよ!
「いえ!ボ、ボクは水でいいです。水で!!」
そう、ボクなんか水でいいのだ。ボクは生まれてこの方、水しか飲んだ事がない。冬に暖房器具があった訳ではないし、お婆様やアルベダが隠し持って来れる物にも限界があった。水だけは、お情けか、大量にあったけど……。
「そうかえ?ならば、紅茶と水を頼む。」
なにやら、女王様はイーシャさんに目線を送り、そう頼んだ。
「かしこまりました。紅茶と水でございますね。」
そして、数分後。
なにやら、いい香りがした。甘くて優しい香り。今まで嗅いだことのない匂いだ。
「お待たせしました。紅茶と水でございます。」
そこに置かれたのは、白い液体だった。そして、その横には赤い何かが白い三角に乗ってる……食べ物??なに?これ??あれ??これって……絵本で見た……ショートケーキ??もしかして、ショートケーキ?!あの赤いのってイチゴ?!
「どうぞ、お召し上がり下さい。」
「すまぬな。イーシャよ。いただくとするぞよ。」
「………。」
そう言い、女王様はフォークでショートケーキを食べる。
「ふむ。うまい。これは、イーシャの手作りかえ?……おや?アリシアよ、食べぬのか??」
「え……。いや……ボクなんかが食べていいのか……。イーシャさんの分もないし……。それに、ボクは水をお願いしたのに……この白い物……は?」
「……それは、ホットミルクじゃよ。」
一瞬、間が開いて、女王様は白い液体の正体を教えてくれた。
これが……ホットミルク。本当に暖かいのだろうか?さっきから、いい匂いが鼻を刺激する。それに応じて、よだれが出そうになるよ……。
「アリシア様。あなた様は、お優しいのですね。私の事を気に掛けてくれて。私の事は気になさらず、お食べ下さい。」
「で……でも。」
ボクが躊躇うと、女王様がもう一押しした。
「アリシア様よ。子供が遠慮するものではないぞよ。」
で、でも……。そんな事言われたって……ショートケーキなんて食べた事ないし……ボクにショートケーキなんて……。
女王様の言葉に沈黙していると、隣にイーシャさんが座り、フォークを手にした。
「アリシア様が、自分だけ食べると食べ難いとおっしゃるなら、私も一緒に食べます。それでよろしいですか?それでは、アリシア様から……はい。あ~ん。」
え?あ~ん??
イーシャさんは、フォークでショートケーキを切り、そのまま、ボクの口の近くまで運んでそう言う。
「ほら、アリシアよ。イーシャも待っておろう?」
う……うう。
ボクは観念して、口を開けた。そして、口の中にショートケーキが……。
んん!?お、美味しい……。柔らかい。こんな柔らかい食べ物がこの世にあるの?これって、もしかして、雲??雲って柔らかそうだから。ショートケーキは雲で出来てるの??それに、甘いのにくどくない。ほのかに酸味もある。あの、イチゴが入っているからなのかな?!と、とにかく、凄く美味しい!!
うん!美味しいんだ!!……ははは。こんな美味しい物が世の中にあるなんて……。
ははは……。
…………。
………。
……。
こんな……美味しい物が……。
って、あれ??
頬を暖かい何かがつたい、自分の腕に落ちる。
「次は、ホットミルクはいかがですか?お熱いので、ふーふーして差し上げますね。」
そう言い、イーシャさんはカップを手に取り、言葉通り、何度もふー、ふーとカップに息をかける。
そして、カップをボクに手渡してくれた。
あ……あたたかい。
手にしたマグカップは暖かさは冷え切っていた心に暖をもたらしてくれたように思えた。
そして、導かれるようにホットミルクを、一口、口に入れる。
その瞬間、瞳は揺らぐ。
もう、言葉にならなかった。美味しいとか……そんなものではなかった。
「お辛かったでしょう。もう、ご無理はなさらなくていいのですよ。」
そう言い、イーシャさんはボクを抱きしめてくれ、女王様もボクの頭を撫でながら言ってくれた。
「アリシアよ。よく頑張ったな。おぬしはもう自由なのじゃ。自分を卑下する事はない。これからは、好きに生きていいのじゃよ。もう、遠慮もいらぬのじゃ。」
その瞬間、張り詰めていた糸が切れたように、涙が止まらなくなった。
0
あなたにおすすめの小説
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。
死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。
「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」
だが、その世界はダークファンタジーばりばり。
人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。
こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。
ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。
死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ!
タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。
様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。
世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。
地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】
のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる