カント・ドッグ・ハント

アシッドハウサーE

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選挙事務所はワールドワイドの深水に

8 壮大な肥溜め、糞の議事堂

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 匿名掲示板は、荒れに荒れた。そのほとんどが、俺へのバッシング。
 自業自得だの、浦島太郎かよだの、ニートはのたれ死ねだの面と向かって言えないようなことを平気で書き込んでくる。
 一番ムカつくのは、自虐風自慢を披露してきた自称ニートだ。
「引きこもりが解消できそうで、羨ましいな!」
 明らかに、自分が引きこもりを継続することに優越感を持っている、マントヒヒでもそんなこと書き込まないだろう。俺は、その書き込みがバカっぽすぎて、フラストレーションを溜めた。わかばに火をつける。こういう時は、ピースやハイライトを吸える社会適合者が羨ましい。悍ましいほどダサい投稿を飯にして喫煙するには、わかばは雑多すぎた。
 我が国日本には、引きこもりが70万人いるんだ。インターネットに漂うニートだっていくつかいるんだろうと思って、開設した掲示板は、それ以降も罵倒であふれた。
 よく考えたら、引きこもりは、電子情報網の世界でも引きこもりだ。自分を含め、書き込みを行うものなんて希少な存在だと気づいた。
 わかばを一本吸い終わる頃、スレッドは476に到達した。まだまだ投稿は止まらない。
 俺個人への攻撃が、8割。引きこもりが全体への攻撃が2割。引きこもり継続者の自慢が一分。空気の組成みたいな割合だ。こいつらを今度から、窒素くん、酸素くん、アルゴンくんとでも呼ぼうか。
 上からスクロールしていっても、問題を抜本的解決に向けるような書き込みは一つもない。結局は、トイレの落書きか。噂どおりだ。
 俺は、相変わらずでムカつきが抑えきれず、パソコンを閉じる。最近はこんなことばっかしている気がする。
 パソコン、テレビ、パソコン、テレビ……
 そして見るのはいっつも匿名掲示板と国営放送だ。これは、時間が無限にあった親父と話す前も、時間が有限となった今もだ。
 結局人間は簡単には変わらない。気をつけなければ、どんな人間でも棺桶の直前までおんなじ生活を繰り返すだろう。引きこもりだろうと、社会適合者であろうと。
 そんなことを考えながらテレビの主電源を入れる。リモコンはどっかにいた。使わないからな。今日は、国営放送が写っていない。
 別に国営放送が見たいわけではないが、惰性と反射でチャンネルを変えたくなる。リモコン探すが一向に見つからないので、俺は苛立ちを覚えてテレビ横のボタンで切り替えた。
 切り替えた先の放送ではニュースが流れた。なんだか騒がしい。
 しばらくすると、速報の赤い文字とともにアナウンサーが喋りだす。画面の上端には、小さい白文字でテロップが映し出された。
 低所得者への所得税と消費税の増税と法人税の減税、年金受給者へのベーシックインカム導入が決定
 要は、政府が同じヒエラルキーの上澄みと最大数の投票権者の圧力に屈したと書いてあるのだ。
 テレビからはアナウンサーの声と、映る総理大臣の住吉大吉の姿が、俺の聴覚と視覚に訴えかける。アナウンサーは、これがどういうものかを解説している。国営放送なのもあってか、若干体制よりなのが耳障りだ。
 映る総理大臣は、尊大そうな顔をしながら、ふてぶてしく演説する。声は収録されていなかったが、その忌々しい口元から言ってることはなんとなくわかる。
 勲章持ちの死に損ないへのフェラチオみたいなことを言っているのだろう。総理大臣の口からは、年老いた黒光りのペニスが見えた。そいつは勃起することなく、滴り落ちた。
 この幻覚は、ヘロインの後遺症か?ちょっとだけ考察してみたがそのうちそのホログラムは消え、また総理大臣は、ふてぶてしく演説を続けた。
 少しの間考え抜いた結果、汚いチンポを生み出したのは、俺の総理大臣への憎悪とか、嫌悪が生み出したものだった。
 目の前のプリズムが、チンポを出したり引っ込めたりしている。目障りだ。幻覚なのはわかってはいるが、テレビの電源を落とす。
 先ほどの掲示板の新着情報を、確認しようとパソコンをもう一度立ち上げる。
 俺の開設した板には、多くの投稿がされているとの通知があった。それを上回るように違う板も目立っている。
「悲報、若者搾取されすぎて死亡」
 そんな題名のスレッドだった。俺は、ものすごい興味をそそられ、自分の立ち上げたスレッドには、一眼もやらずにその爆発的な書き込み量のスレッドを開いた。
 見事に政府に国会に内閣に対する批判や、糞の肥溜めとは思えないほどの罵倒がひしめいていた。
 投稿者は何故か、各々職を出すのがルールみたいで、俺みたいなレールから外れたものだけでなく普通の会社員に個人事業主、地方公務員、それにキャリア官僚なんかもいるようだ。
 たまに、どっかの老人と思われるやつが書き込むと、酷いネットレイプにあって、それ以降同じI.D.からの投稿は無くなるというのを繰り返していた。
 自分と同じような感覚の人間と初めて会えた感じがして嬉しく思えた。と同時に、思想は同じでも、表向きは非常に優秀な人間が多いことに気づいた。俺は、自分の現状と照らし合わせ、セルフで恥辱を受けたような気分を味わった。
 早いことこれからのことを考えなければと思い、名残惜しい気持ちを残しながらも見ているスレッドのウインドウを閉じる。そして、もう一度自分で立ち上げたスレッドを開いた。
 まだ俺へのバッシングは続いている。これでこそ糞の肥溜めだ。さっきは気分が悪くなって見るのを中断してしまったが、これはこれで居心地は悪くない。
 これが今まで培った引きこもりのスキルだ。シムズだったらカウチポテトの特性を余裕で獲得済みってとこだろうな。
 ただ、俺が追い出された後の身の振り方という解決策は出てこない。当たり前だが、殆どが屑から屑への書き込みがほとんどを連ねるのだから解決策など出るはずがない。
 投稿をスクロールしていると、ひとつ面白い書き込みを見つけた。ふざけて書いただけだろうが。
「今度、衆議院が解散するだろ?当選したら議員宿舎もらえるぞ。」
 その書き込みが、軽い気持ちで投稿されたことはわかっていた。投稿者にタグ付けされた投稿には、無理だろとか、適当なこと言うなとか、散々だったが俺にはものすごい画期的な解決策に思えた。
 その投稿に俺はタグ付けして投稿する。
「議員になったら、部屋もらえるのか?」
 数分した後、返事が戻ってくる。
「もらえるってか、相場の1/5の値段で入れる。議員になったら金入るし、そのぐらい払えるだろ。」
 次いで、
「まあ無理だろうけど、引きこもりが代議士になったらおもろいかもな。」
 と間髪入れずに、投稿してくる。無理とか言われても悪い気はしなかった。おもしろいとの文字は俺の胸を高ぶらせた。
 一発逆転が狙えるのはここか。寝床を東京の一等地に構えれるのはいい。それに勲章持ちのマリオネットと化したムカつく国会に、鋏を入れるチャンスもあるかもしれない。
 方向は定まった。次は戦略を固めよう。選挙に勝つ戦略だ。
 俺は、そんな壮大な決意を固めるとこれ以上迷わないように、まだまだ盛り上がりが尽きないスレッドへ鋏を入れて終わらせた。
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