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選挙事務所はワールドワイドの深水に
13 潤滑油の塗られた金
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選挙の公示が、迫ってきた。俺は、相変わらず嫌味ったらしい絵を描かせ続けている。風刺画ってのはそんなもんだ。
俺の意思ではない。大麻と画筆が全てをコントロールする。俺に発言力はない。そんな感じで、6枚目を書き込んでいると携帯が短く振動した。SNSからのパターンとは違う、もっと短いやつだ。画面を見ると顔認証で、セキュリティは解かれ、SMSが立ち上がった。瑠夏からだ。
「供託金いるから。お金用意できる?」
誰がどう見ても詐欺みたいな、メッセージだ。俺は画面を静かに閉じた。本気で詐欺だと思ったわけではないし、大麻でトリップしているからでもない。絵を描くときは、バランスが大事だ。軽く飛ばすのがコツだ。
なんでスマホの画面を閉じたかって?一番シンプルで、わかりやすい理由だ。金がないんだ。今ないだけだ。手に入れるには この家を本格的に出ていかなければいけない上に、親父に出ていくことを伝えて金を請求しなければならない。前、通帳は手に入れたが、カードと暗証番号も必要だ。
そういう約束だったのだから、別に簡単なことだと思うかもしれないが、ハードルが高すぎる。一緒の家で暮らしていながらほとんど喋っていないのだから、当たり前だ。
家のドアが開く音がする。こういう時に限って、親父は、家に帰ってくるんだから困る。
言うしかないし、ここから出ていくという選択肢しかない。頭の中で、意気込みと躊躇が戦っているのはわかっていたが、意気込みが勝ったみたいだ。勢いよく部屋の戸を突き、くだりの階段を不規則に、所々ケツを叩きつけながら降りた。
「なんだ。なんか用か。」
親父の前に立つと急に自信がなくなって、さっきまで瀕死だった躊躇が、盛り返してくる。
「あ、いや、あのさ。」
「はっきり言えよ。時間がないんだよ。」
親父が威圧してくる。偉そうにしやがって。こう言うところが嫌いなところだ。でも、口には出せない。それでも思い切って伝えたいことは伝えることにした。
「俺、出ていくことにしたから。だから、カードと暗証番号をくれよ。」
親父は少し口角を上げたが、ふと、考えるようにしてクエスチョンを投げかけてきた。
「……お前、衆議院選出るのか?」
「だったら、どうなんだよ。ていうか、なんで知ってるんだよ。」
親父がさっきからずっと圧力をかけてくるからな。こっちも不機嫌そうに押し返してやった。
「市会議員だからな。衆議院選なんか出るなら、カードは渡さん。暗証番号も伝えん。俺の稼ぎを無駄にするならな。」
だからこういうところが嫌いだって言ってんのに。ムカつくぜ。言えないから黙ってるけどな。
「さっさと出て行け。もういさせられん。」
親父は、俺を押しのけ、階段を規則的に登っていく。追っかけていくが親父の背中はどんどん遠のく。背中は見えなくなった。俺の部屋に入っていったからだ。全然階段を登れない。俺の部屋を越して、ものが落ちる音がする。くそ。どうなってんだ。
かなりを労力を要して階段を登りきると、窓越しに俺の私物を投げる親父が見えた。
「何してんだよ!」
俺が羽交い締めにして親父を止めるが、淡々とふり解かれて機械的にまた投げ続けた。俺はその場でヘタって崩れ落ちた。
物は建屋を飛び越え、俺が、排泄物を流していたグレーチングに落ちていった。筆も絵も、そしてバレないよう加工した大麻もだ。親父が物を捨て続けた結果、部屋から物が軒並みなくなり、そのほとんどが建屋の外側に無造作に積み上げられた。
「だからやめろって!」
もう一度なんとか、崩れた腰を立て直し親父を組み伏せようと袖を引いた。
親父はすぐさま俺の腕をほどき、ジャケットの奥襟とパンツの後ろを掴むと窓めがけて投げつけた。
俺は、ガラスを突き破り、1回転半捻りして背中から積み上げられた私物の上に叩きつけられた。痛い。しばらくは呼吸が困難だ。
「もう帰ってくるなよ!」
何時間にも感じる鈍痛を抑えようともがいていると上からキャンバスを投げつけられた。そしてガラスの割れた窓は、遮光カーテンで締められた。まだまだ空は明るいのに、カーテンレールの駆動音は、俺の目の前も真っ暗にした。
俺の意思ではない。大麻と画筆が全てをコントロールする。俺に発言力はない。そんな感じで、6枚目を書き込んでいると携帯が短く振動した。SNSからのパターンとは違う、もっと短いやつだ。画面を見ると顔認証で、セキュリティは解かれ、SMSが立ち上がった。瑠夏からだ。
「供託金いるから。お金用意できる?」
誰がどう見ても詐欺みたいな、メッセージだ。俺は画面を静かに閉じた。本気で詐欺だと思ったわけではないし、大麻でトリップしているからでもない。絵を描くときは、バランスが大事だ。軽く飛ばすのがコツだ。
なんでスマホの画面を閉じたかって?一番シンプルで、わかりやすい理由だ。金がないんだ。今ないだけだ。手に入れるには この家を本格的に出ていかなければいけない上に、親父に出ていくことを伝えて金を請求しなければならない。前、通帳は手に入れたが、カードと暗証番号も必要だ。
そういう約束だったのだから、別に簡単なことだと思うかもしれないが、ハードルが高すぎる。一緒の家で暮らしていながらほとんど喋っていないのだから、当たり前だ。
家のドアが開く音がする。こういう時に限って、親父は、家に帰ってくるんだから困る。
言うしかないし、ここから出ていくという選択肢しかない。頭の中で、意気込みと躊躇が戦っているのはわかっていたが、意気込みが勝ったみたいだ。勢いよく部屋の戸を突き、くだりの階段を不規則に、所々ケツを叩きつけながら降りた。
「なんだ。なんか用か。」
親父の前に立つと急に自信がなくなって、さっきまで瀕死だった躊躇が、盛り返してくる。
「あ、いや、あのさ。」
「はっきり言えよ。時間がないんだよ。」
親父が威圧してくる。偉そうにしやがって。こう言うところが嫌いなところだ。でも、口には出せない。それでも思い切って伝えたいことは伝えることにした。
「俺、出ていくことにしたから。だから、カードと暗証番号をくれよ。」
親父は少し口角を上げたが、ふと、考えるようにしてクエスチョンを投げかけてきた。
「……お前、衆議院選出るのか?」
「だったら、どうなんだよ。ていうか、なんで知ってるんだよ。」
親父がさっきからずっと圧力をかけてくるからな。こっちも不機嫌そうに押し返してやった。
「市会議員だからな。衆議院選なんか出るなら、カードは渡さん。暗証番号も伝えん。俺の稼ぎを無駄にするならな。」
だからこういうところが嫌いだって言ってんのに。ムカつくぜ。言えないから黙ってるけどな。
「さっさと出て行け。もういさせられん。」
親父は、俺を押しのけ、階段を規則的に登っていく。追っかけていくが親父の背中はどんどん遠のく。背中は見えなくなった。俺の部屋に入っていったからだ。全然階段を登れない。俺の部屋を越して、ものが落ちる音がする。くそ。どうなってんだ。
かなりを労力を要して階段を登りきると、窓越しに俺の私物を投げる親父が見えた。
「何してんだよ!」
俺が羽交い締めにして親父を止めるが、淡々とふり解かれて機械的にまた投げ続けた。俺はその場でヘタって崩れ落ちた。
物は建屋を飛び越え、俺が、排泄物を流していたグレーチングに落ちていった。筆も絵も、そしてバレないよう加工した大麻もだ。親父が物を捨て続けた結果、部屋から物が軒並みなくなり、そのほとんどが建屋の外側に無造作に積み上げられた。
「だからやめろって!」
もう一度なんとか、崩れた腰を立て直し親父を組み伏せようと袖を引いた。
親父はすぐさま俺の腕をほどき、ジャケットの奥襟とパンツの後ろを掴むと窓めがけて投げつけた。
俺は、ガラスを突き破り、1回転半捻りして背中から積み上げられた私物の上に叩きつけられた。痛い。しばらくは呼吸が困難だ。
「もう帰ってくるなよ!」
何時間にも感じる鈍痛を抑えようともがいていると上からキャンバスを投げつけられた。そしてガラスの割れた窓は、遮光カーテンで締められた。まだまだ空は明るいのに、カーテンレールの駆動音は、俺の目の前も真っ暗にした。
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