カント・ドッグ・ハント

アシッドハウサーE

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レウキッポスの禁秘たちの略奪  

17 阿修羅の面

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「こちらへどうぞ。」
「どうも」
 瑠夏が、店内の四人席へ案内すると、進藤はふてぶてしく椅子に浅く腰掛けけた。背中は、殆ど地面と水平ぐらいになってやがる。
 俺も下座の奥に座り、瑠夏はその隣だ。俺の瑠夏も進藤とは対照的に、椅子には深く座り、背筋はしっかりと伸びきっている。
「そ、それで本題は?」
 想像もつかないことは聞くしかない。
「いや、住吉についてね。」
「ここには情報はないよ。」
 対抗馬の情報が欲しいだけかと思い、少し安心して被せるように答えた。進藤は不服そうにため息をついた。
「住吉についてね。調べてたんですよ。そしたらこれ。」
 進藤の懐からは、写真が出された。住吉の事務所で受付に立つ俺がいる。写真から目線をあげると、さっきまでの真面目な顔を崩し、心底悪そうな顔をした進藤が見えた。さっきのが、温厚の面だとしたら今のは冷徹の面ってとこか。
「これは?」
 瑠夏は、怒りの面でこちらを向いて聞いてきた。
「いや、偵察だよ。偵察。」
 その日、住吉事務所からくすねた金でテレビを買ったことは、自分の中で無かったことにして正直に話した。嘘はついていない。そうだ、俺は偵察に行ったんだ。そう言い聞かせて迷惑そうな表情を浮かべた。
「これも偵察?」 
 これも偵察だと言おうとしたが、俺は声が出なかった。今度の写真は、住吉事務所で金をくすねている写真だ。俺の体の感覚は一気に鈍くなり、死にそうな金魚みたいに口だけが痙攣して動いていた。
「何やってんの!」
 瑠夏は、こちらへ説明を求めてきたが、俺は震える両手を彼女の前に突き出して、待てをお願いした。瑠夏は釈然としないという態度だが、一応はひいてくれた。
「そ……それで、それを掲載するってことですか?」
 挙動不審になりながらも、この嫌らしく聴きこんでくる記者に、逆に聞いてやった。先ほどまでとは、180度態度を変えて丁寧に、慎重にだ。
「負けるばっかの候補者が。奢ってんじゃねえぞ。」
 記者ってのは、パソコンみたいなもんで、0か1しかないようだ。進藤は、さっきまでとは打って変わって強情に怒鳴っていた。
「俺としては、住吉のスクープが撮りたかったわけだ。結果、スクープは、住吉じゃなくて富士元さんになったわけよ。」
「何が言いたいんですか?」
 回りくどい進藤の話の腰を折って、核心をさっさと言うように促したつもりだった。しかし、進藤は、さらに回りくどく話を続けていた。
「最後まで聞けよ。あの現場にいてお前のスクープなんかより重要なことに気づいたんだよ。俺は、その交渉にきた。」
 糞、レモンサワーを水で割った酒で、全身までアルコールを回すぐらい話がながい。遅漏かよ。
「どう言うことです?」
 俺は心の中では、悪態をつきながらも表面上は、地雷の撤去をするかのように丁寧に聞いてやった。不本意だったが。
「お前、引きこもりらしいな。しかも結構な。何年だっけ?」
 こいつはどれだけ人のコンプレックスから栄養を摂れば気がすむんだ。まさにパラサイトみたいなやつだ。
 さらに、このお頭のでっかい寄生虫は、俺が質問の答えも出していないのに、話を続けてくる。
「どうやら、お前は25にもなって、まともに社会に出てもいないからヒトから認知さえにくいらしい。」
「ちょっと、言いたいこと言い過ぎじゃありませんか?」
 今度は瑠夏が、進藤の話を遮った。
「そうかな。事実を言ってるだけだと思うけどねえ。そう思わない?6ヶ月だけ総務省官僚だった立花瑠夏さん。」
 瑠夏が元官僚だったとは、知らなかった。どこまでも調べてやがる。これ以上話が増えていっても困る。こちらのお頭は、魔法の葉っぱに小さくされてまともに使えないんだから、シンプルに行きたいところだ。
「瑠夏、いいから。」
 俺はもう一度瑠夏に両手を突き出して、止めるように促した。
「すまないが、話を戻してくれないですか。」
 そして進藤には、元の話を続けるよう懇願した。
「住吉ってのは、随分と悪どい奴らしくてね。新名阪道の入札を落とした高岡建設に予定価格を伝える代わりにタカオカエンジンコーポレーションの未公開株を貰ったって噂だ。」
 よくわからないが、特捜はそれをサンズイというんじゃないか。俺は、自分が不法に侵入したことや、ヤクで無理やりダウンさせたりアップさせたりしてることを棚に上げて、住吉への怒りを覚えた。なんてったって、国家の一大事じゃないか!一国民の麻取法違反や、限りなく公人の土地への不法侵入なんて些細なことじゃないか!
 そんな風に、自分の問題まで勝手に住吉に押し付けていると、進藤がここからが本題とばかりに喋りだした。
「証拠だ。証拠を集めてもらいたい。汚職の証拠を。」
「無茶言わないでくれよ……」
 無茶を言う。大体俺の面は、割れてる可能性だってあるって言うのに。俺は、こっそりピースのソフトケースに忍ばせておいた大麻の葉巻に火をつけて咥えた。
「ちょっと!やめ……」
「今更こいつに隠しても一緒だ。知ってんだろ?」
 瑠夏をまた遮り、進藤に質問をぶつけた。今日の瑠夏は、らしくなく冴えない。大麻によって人は二種類に分類される。冴える奴と鈍くなるやつだ。瑠夏は、明らかに後者だとわかる。
「ああ、ご名答。知ってるよ。リサーチ済みさ。」
「どうせ、お得意のポルノ雑誌には乗っける気ないんだろ?吸えよ。」
 俺は加えた異物を、進藤に突き出した。進藤は受け入れて、大麻の葉巻を目一杯吸った。
 進藤は、瞬く直ぐにテトラヒドロカンナビノールが効いたのか、頭をフライトスティックみたいにぐるぐるさせ出した。
「弱いな。」
「ええ弱いわね。」
 進藤が頭をぐるぐるさせながら、机を水平線にして沈んでいく。何か言いたそうに、口をぱくぱくさせて。それでも大麻の葉巻を口から離さず、深く深くすい続けていた。
「もうやめとけよ。」
 俺が葉巻に手をかけると進藤は、奥歯で噛み締め、口以外をガタガタ震えさせながら、さらに深く呼吸器官へテトラヒドロカンナビノールを取り込み続ける。もう、処理が追いついてないっての。
「受けるって言うまでこいつは離さないよ。死なれたら困るだろ?」
「わかったから、受けるから。」
 俺が、そう発すると、反射神経が鈍っているのか、5秒くらい歯で葉巻のフィルター部分を潰した後、顎の筋肉を緩めて地面へ落とした。俺はすかさず踏んで、燻る火を消した。
「強引だって。」
「言ったことは忘れないから、やらなかったら自首するから、共々麻取法でお縄だから。」
 策もないくせに、執念だけで、強引に。
「んで、どうやるんだよ。」
「何も考えてない。けど、今思いついた。それだよ。大麻で昏睡してもらおうと思うんだけど。」
「そんなんでぶっ倒れるのは、逸物が腹の肉に収まって小さくなったやつだけだ。」
 進藤は、強烈な不快感を示したが続けて、瑠夏が諭すように説明した。
「そう言う時はこっちよ。アシッド。麻薬。若しくは、自白剤ってところかしら。」
「そんなもんまだあったのか。」
 思わず、捌きづらいもんを瑠夏がまだ持ってることに対して、聞いてしまった。
「これは、捌く為に仕入れてるわけじゃないから。とにかく、そっちのことであれば、私たちに任せて頂戴。」
 瑠夏が妙に生き生きとしていた。それは、俺もおんなじだ。対照的に、進藤は不安と圧力によって、表情を歪められていた。“完全に犯罪”だからな。ミスって急性中毒で相手が死んだら、その場で一緒にトリップして後は知らんぷりするしかないレベルのヤバさだからな。
 
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