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レウキッポスの禁秘たちの略奪  

19 ラバーマスク

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「ああ、今日そんな話あったっけ。」
 ピザ屋のバイトリーダーみたいなやつが、とぼけたことを言う。こいつは、助っ人の存在を忘れたようだ。コックから記憶をヌいたんだろうな。
「ええ、そちらの店長さんからお願いされまして。」
「ああ、そうなんだ。じゃあこっち、厨房入れるかな?」
 俺は、配達がしたいんだよ。大量のな。
「わかりました。でも、厨房はちょっと。配達しかやったことないんで。」
「そうか。厨房が足りないんだけどなあ。」
 やったことないって言ってんだろ。こいつは、記憶と一緒に聴力もヌかれたのか?いや、記憶については俺がでっち上げたんだった。俺は、面倒だがもう一度駄目押しで決意表明をしてやった。
「すいません。やっぱ、助っ人で来て厨房はちょっと。」
「そうか……。あ、じゃあ外で掃除してるやつ呼んできて!あいつ厨房できるから!」
 ああ、しまった。さっきの勤勉バイト君は、ドラッグに嬲られ、伸されている。呼べねえよ。
「わかりました。」
 こういう時に、問題を後回しにするところだ。こういうのが、俺が俺のことを嫌っているところだ。ほんの一・二分の時間稼ぎの為に、「わかりました。」の五文字を言う労力を使ってしまったわけだ。
「ちょっと呼んできます。」
 さて、どうしたもんか。ヤツは、立派に萎れたスーツ姿で、丈夫なクルマ留めを枕にしてやがる。起こしても起きないだろう。そう言うもんだ。レイプドラッグってのは。
 目当てが起きないのならば、依頼人を消すしかない。選択肢はない。俺は、バイトリーダーを外に出して亜空間へと隠すこととした。
「でも、今日一度店舗の正面に行きましたけど、掃除している人なんていなかったですよ。」
 俺は、嘘なんてついてない。俺は、誠実に答えた。そう自分に嘘をついた。
「あいつ。またサボってんのか。ちょっと一緒に来てくれ。」
「はい。」
 バイトリーダーは、呆れたように店舗を後にして駐車場へ向かった。俺もそれに続いた。こいつは直ぐに勤勉バイト君を見つけた。
「こんなとこで、寝やがって!制服はどうしたんだよ!」
 バイト君のことを揺さぶる。しかしバイト君は、深い沼にはまったようで起きなかった。
 バイトリーダーが、激昂しているうちに俺は、車に戻ってバットを取り出した。
 バイト君がその上司に嬲られている後ろに立ち、バスターに構える。上司の首をティー、そして頭をボールに見立てて、ノックぐらいの強さではたいてやった。
 上司は、前のめりに膝から崩れ落ち、バイト君の胸に覆いかぶさった。宣教師ポジションの男が二人。傑作だ。俺は、ポッケからアシッドペーパーを取り出して、バイトリーダーの舌の上に置いてやった。口の中に指を入れると大量の唾液がたまっていた。
 これでこいつは、起きたらサイコシスだ。日本にLSDは似合わない。誰もヤクの悪戯なんて思わないのさ。誰が見ても精神異常ってやつに見えるだろう。もう駐車場は、特にルートダイナの裏は騒がしすぎる。二人を車の影に落とし込み、店へ戻った。
 
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