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賑やかな喧騒と活気が辺りを埋め尽くす九龍。
その違法に増築され、はちきれんばかりに人が集まったこの街の裏側では親を亡くした子供達は日陰で身を寄せ合って生きている。
スーツに身を包みヤクをキメた人間特有の甘い香りを漂わせたガラの悪い男たちに押し付けられた安い給料の仕事をこなし、屋根のある路地の自分のスペースでダンボールにくるまりぼんやりと見える大通りの往来を眺める。
周囲では同じ境遇の子供たちがチョコレートや飴などの菓子と物を交換している。子供だけのこの社会では金よりも甘いものが貨幣としての価値がある。それに気が付いた輩が金ではなく菓子を対価に子供をこき使いだしたのはいつからだろうか。菓子など、少し表の通りに出れば貰った金でいくらでも買えるだろうに、それを思い付かないらしい。
菓子がそれほど好きではない私は対価を菓子ではなく金の仕事をしないため、あの輪には入ることが出来ない。でも、いつか金を貯めてこの生活から抜け出してやるのだ。とダンボールの下で貯めた金を数える。
ガキだからって足元見やがって。言われた通りに運搬の仕事を終え渡された金を見て唾を吐きたくなるのを耐えながら歩く。金を手っ取り早く稼ぐなら身体を売るのが早いと見世の姐さんは言うけど、この貧相なガキを買う男は多くは無いだろうし、気持ち悪いジジイの相手をするのは御免だ。
まあ、少ない給料だとはいえ夜になったら売れ残りのふやけた天心くらいは買える。と気を抜いているとドン、と尻に衝撃が走る。どうやら人にぶつかったらしい。栄養不足で軽い身体はいとも容易くよろけ尻もちを付いたらしい。
誰だ、前を見ろこの野郎。と顔を上げると褐色肌のスラリとしたスーツの男が目に入る。空の青よりももっと深いその色に目を奪われる。
ソイツが申し訳なさそうに眉尻を下げてこちらに手を差し伸べようとした瞬間、腹に衝撃が走る。
「どこ見てんだガキ!!」
ドスの聞いた声に独特の甘い体臭。しまった、マフィアか。思考に遅れて身体が動き顔を上げると黒髪を後ろに撫で付けたガタイのいい赤スーツの男がこちらを見下ろしていた。こりゃ、死んだかもしれない。頭を守り腹へのダメージを最低限にするため地面に伏せると頭上から少しかすれた甘い声が聞こえる。
「ねぇ、ボス。そんなガキより買い物に行くんでしょ。時間なくなっちゃう」
嫌味のない艶やかなその声に絆されたようにそうか。なんて大人しくその声に従う男に笑いそうになるが、そんなことをしたら天心を食う前に鉄砲玉を食らうことになる。怯えたふりをしながら地に伏せ奴らが立ち去るのを待つ。
トントンと背中をつつかれ顔を上げるとさっきの褐色肌がこちらに手のひらを差し出して人差し指で口を抑える仕草をしていた。
「これ、ぶつかったお詫びね。痛い思いさせてごめんね」
男に語りかけていた甘い声じゃなくて、優しい声。きっとこれが素なんだろうな。と思いながら大人しく受け取った飴は個包装されたミルクの飴。たしか、飴の中で取引最上位のものだった気がする。お礼を言おうと顔を上げた時には先に進んでいた赤スーツと腕を組んで先を歩いていた。
なるほど、愛人か。と起き上がり服に付いた汚れを払って歩く。揉め事だと色めき立ちこちらに注目していた大人たちは興味が削がれたのか散っていった。
手元にある飴は取引に使うのがいいか自分で食うのがいいか。自分に有利なのは取引だが、何も考えずに流されてるガキ共とつるむのもかったるい。なんて思っているとぐぅ、と腹が鳴る。せっかくならここでこっそり食っちまおうと包装を空けて口に甘い塊を放り入れた。
その違法に増築され、はちきれんばかりに人が集まったこの街の裏側では親を亡くした子供達は日陰で身を寄せ合って生きている。
スーツに身を包みヤクをキメた人間特有の甘い香りを漂わせたガラの悪い男たちに押し付けられた安い給料の仕事をこなし、屋根のある路地の自分のスペースでダンボールにくるまりぼんやりと見える大通りの往来を眺める。
周囲では同じ境遇の子供たちがチョコレートや飴などの菓子と物を交換している。子供だけのこの社会では金よりも甘いものが貨幣としての価値がある。それに気が付いた輩が金ではなく菓子を対価に子供をこき使いだしたのはいつからだろうか。菓子など、少し表の通りに出れば貰った金でいくらでも買えるだろうに、それを思い付かないらしい。
菓子がそれほど好きではない私は対価を菓子ではなく金の仕事をしないため、あの輪には入ることが出来ない。でも、いつか金を貯めてこの生活から抜け出してやるのだ。とダンボールの下で貯めた金を数える。
ガキだからって足元見やがって。言われた通りに運搬の仕事を終え渡された金を見て唾を吐きたくなるのを耐えながら歩く。金を手っ取り早く稼ぐなら身体を売るのが早いと見世の姐さんは言うけど、この貧相なガキを買う男は多くは無いだろうし、気持ち悪いジジイの相手をするのは御免だ。
まあ、少ない給料だとはいえ夜になったら売れ残りのふやけた天心くらいは買える。と気を抜いているとドン、と尻に衝撃が走る。どうやら人にぶつかったらしい。栄養不足で軽い身体はいとも容易くよろけ尻もちを付いたらしい。
誰だ、前を見ろこの野郎。と顔を上げると褐色肌のスラリとしたスーツの男が目に入る。空の青よりももっと深いその色に目を奪われる。
ソイツが申し訳なさそうに眉尻を下げてこちらに手を差し伸べようとした瞬間、腹に衝撃が走る。
「どこ見てんだガキ!!」
ドスの聞いた声に独特の甘い体臭。しまった、マフィアか。思考に遅れて身体が動き顔を上げると黒髪を後ろに撫で付けたガタイのいい赤スーツの男がこちらを見下ろしていた。こりゃ、死んだかもしれない。頭を守り腹へのダメージを最低限にするため地面に伏せると頭上から少しかすれた甘い声が聞こえる。
「ねぇ、ボス。そんなガキより買い物に行くんでしょ。時間なくなっちゃう」
嫌味のない艶やかなその声に絆されたようにそうか。なんて大人しくその声に従う男に笑いそうになるが、そんなことをしたら天心を食う前に鉄砲玉を食らうことになる。怯えたふりをしながら地に伏せ奴らが立ち去るのを待つ。
トントンと背中をつつかれ顔を上げるとさっきの褐色肌がこちらに手のひらを差し出して人差し指で口を抑える仕草をしていた。
「これ、ぶつかったお詫びね。痛い思いさせてごめんね」
男に語りかけていた甘い声じゃなくて、優しい声。きっとこれが素なんだろうな。と思いながら大人しく受け取った飴は個包装されたミルクの飴。たしか、飴の中で取引最上位のものだった気がする。お礼を言おうと顔を上げた時には先に進んでいた赤スーツと腕を組んで先を歩いていた。
なるほど、愛人か。と起き上がり服に付いた汚れを払って歩く。揉め事だと色めき立ちこちらに注目していた大人たちは興味が削がれたのか散っていった。
手元にある飴は取引に使うのがいいか自分で食うのがいいか。自分に有利なのは取引だが、何も考えずに流されてるガキ共とつるむのもかったるい。なんて思っているとぐぅ、と腹が鳴る。せっかくならここでこっそり食っちまおうと包装を空けて口に甘い塊を放り入れた。
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