春を告げる鳥

月井 佳乃

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2話

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 マフィアの愛人に遭遇してから数日。特になにかが起こるわけでもなく日々が過ぎていた。だが、今アタシは舞い上がっていた。久しぶりに結構な金が舞い込んでくる仕事にありつけることになったのだ。多少のリスクはあるが、それよりも貯金が増えることの方が大切だ。浮かれながら複雑に入り組んだ路地を進み指定の場所に移動をする。


 今回の仕事はヤクの入った袋を飲み込み指定の場所まで移動をして袋を吐く。有り体に言ってしまえば違法薬物の運搬だ。リスクが大きいぶん普段の何十倍という金が入ってくる。他のヤツらは腹の中で袋が解けてヤクの中毒になる危険があるからとやりたがらないのも都合がいい。実際、何度もやっているが1度として袋が溶けたことは無い。ヤツらは薬が台無しになることを嫌う。無駄なことをしなければ大丈夫な距離の仕事ばかりだ。

「お前か?今回のガキは」

 嗅ぎなれた甘い体臭の男に指定の場所で声をかけられる。無駄なことを言わないように1つ頷くと着いてこい。と倉庫に連れていかれる。
 これから、大人が人差し指と親指を円にしたくらいの大きさの袋を8つほど飲み込み顧客のところまで運ぶ。よく聞けば、今回はこの街を取り仕切るマフィアのボスの手に渡るらしい。そういや、この間ぶつかった愛人がボスとか言ってたな。ソイツなら面白いなんて思うが、正直金さえ貰えればそれでいいか。と何重にもビニール袋に包まれたブツを大人しく飲み込む。喉に引っかかる感覚が不快だが、文句を言おうものならすぐに殺されてしまう。

 重い腹を抱えながらアタシが住んでいる場所よりも立派で煌々とネオンが輝く街を歩く。いつか、運ぶためのヤクじゃなくてメシでこの満腹感を感じたいものだ。とため息を吐く。この後吐き出さなきゃいけないのも嫌なんだよなぁ…。なんて思っていると冷や汗が吹き出す。
 吐き気がする。さっきまで気分が良かったが、それを通り越して心臓がバクバクして手足がガタガタと震え出す。まさか、中毒か!と嫌な予感がする。
 ヤクを飲んで約3時間。渡された金でバスと電車を乗り継いでやっとこの街に来たと思ったら、腹の中でビニールが破れたか溶けたかで薬が体内に漏れているのかもしれない。と力の入らない足で走りなんとか指定の場所に着く。

 
 ここからの記憶は定かではないが、おそらく言われた通りにマフィア共に声を掛けたのだろう。気がついたら、知らない天井を見上げていた。気だるい頭を傾け手足を見ると何やら管が繋がれている。一応、生きてはいるらしい。と息を吐く。
 だが、おかしい。普通、運搬役は使い捨てで胃の中の無事な薬を取り出せば捨て置かれるハズだ。なんで治療をされているんだ?とぼんやりとした頭で考えていると扉が開く。反射的にそちらを見ると褐色の肌の細身のスーツの男が部屋に入ってきた。

「良かった。起きたんだね、体調はどう?」

「さいあく。」

 掠れた穏やかな声に短く返す。どこかで見た事があると思いきや思い出した。この間のマフィアの愛人じゃないか。やっぱり、あの赤スーツがボスなのか。と薬のせいかやけに澄んだ頭で考える。

「それもそうか。今は余計なこと考えないでゆっくりおやすみ」

「…かね、治療費出せねぇ…」

 ゆっくり休めと言われ初めて思い至る。やばい、治療費を請求されたら金が絶対足りない。そしたら、バラされる。きっと今肝臓は使い物にならないから腎臓と手足が無くなるか?と冷や汗を垂れ流していると頭に暖かいなにかが被さりそのまま目元へ降りてくる。それは、薬に犯された甘い匂いがしなかった。どこか安心するような優しいお日様のような匂い。

「気にしないでいいよ。君の体調が良くなったら全部説明するから今は寝て」

  怖くなるくらい心地よい手の温もりに張っていた気が緩み瞼が重くなる。いつの間にか眠っていた。
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