プログレた天使たち 

瑠俱院 阿修羅

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28.  遺恨を発掘しながらの大御所バンド緊急インタビュー

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「誰がそんなこと言ったんです?」
「ということは、君たちはあの大御所天使バンド、《ケルビム》」
「推論しなくたって、この大所帯を見ればほかの天使バンドと間違えようがないだろう。たいていのバンドは各セクション一人ずつなんだから」
ロドフェルがあきれ顔で言う。

「長く現場から遠ざかっていたものでね。解散したんじゃなかったっけ」
「一度解散して、一年後に再結成しました。元のメンバーが全員そろったのはつい最近になってからですが」
「ああ、そうだった。解散後すぐ、最も才能のある2人がそれぞれの道をさっさと歩み始めた後、一人新人を入れてスタートしかけたところへジョフィエルが強引に戻ってきて5人で再結成。
ちょっと前まで確か、《5エンジェルス》と名乗ってたんじゃなかったかな。そして、最近になって〈前衛天球派〉を一旦見限った連中が戻ってきて大人数の戦友会バンドになったんだ。
すっかり忘れていた。いやあ、こうやって思い出してみると、会えて嬉しいよ。ジョフィエル。デジタル亡霊音楽出版社の記者たちやインフルエンサーから君のことはいろいろ聞いてたんだ。インタビューしても抽象論ばかりで話がいっこうに見えてこないとか、言いたいことを言うだけで話をまるで聞かないとか。
相変わらず、荒唐無稽と支離滅裂を神秘や謎めきにうまくすり替えた詞を書いているのか?難解な歌詞については聞かれそうな質問を想定して、相手を煙にまく答えのストックを用意していたそうだね」

「どこの記者がそんなことを」
「いや、これは記者じゃなかったな。解散の後、〔ミュージック・オブ・ゴースト〕誌が匿名座談会式のインタビューをやった時、メンバーの一人が言ってたんだよ。『頭でもおかしくないかぎり、ジョフィエルの詞を理解するなんて無理だ』という発言もあったな」
「心当たりのある者は一歩前へ出ろ」
「やはり、音楽出版社の連中が言ってたことは本当だったのか。《ケルビム》はジョフィエルのファッショ・バンドだったんだな。
君は亡霊向け天使音楽の創生以来、その第一人者を標榜し、傍若無人な専制君主であり続けたわけだ。せっかく一度解散して天使間人間関係をチャラにしていながら、なぜまた王政復古がなされたのかわからん」

 ジョフィエルにとって生まれて初めてのことだが、彼は言葉を失った。
代わりにギヒテルが答える。
「昔も今も、ジョフィエルは専制君主なんかじゃない。彼のベルベット・ヴォイスと、思いつきの羅列にところどころ聖書に出てくる特殊な単語や表現、もってまわった言い回し、聞いた後思わず『アーメン』と言いたくなるような神学用語を取り混ぜたいかにも高尚そうな詞、それらを歌うときの自信に満ちた、何でも知ってるといわんばかりの笑顔。こういう、天使音楽の老舗の看板ともいえる道具立てがそろわなければ、他の天使たちがどんなに演奏テクを駆使しても威厳に欠けるから、たいていのことは我慢して彼に従っていた。つまり、彼は、人望があったんだ」

「ギヒテル、ギヒテル。無理して理屈を言おうとしないほうがいい。前後がちぐはぐだよ」
「伴奏しかできないおまえに言われたくないよ。ゼピエル。よく片手が遊んでるみたいだけど、何かが上から落ちてくるのに備えていつもあけておくのか?それに、キーボードの端から端まで撫でて弾く癖、いつになったら治るんだよ。それからもう一つ言っておくが、〈前衛天球派〉にガッツポーズは要らないんだ。おまえがソロの一枚でも出したことがあったのか。同じ台数のキーボードを弾きこなせるようになってから、人に注意するんだな」

 ゼピエルとギヒテルがにらみ合い、〔ミュージック・オブ・ゴースト〕誌のインタビューの発言者をめぐってヒュリエルを除く天使たちの間で罪のなすり合いが始まっていた。
ジョフィエルがため息混じりに言う。
「データ・パニックさん。久しぶりにそろったこれだけのメンツ。統制をとるのが難しいんです。いさかいの元になるような発言は謹んでもらえますか?」

「いやあ、悪い、悪い。しかし、8人編成なんて、人間なら思いついてもまずやらんな。どんなにテクがすごくても、そんな大所帯じゃ存在自体がコミック・バンドだ。天使バンドとして草分けの君たちがそんな大人数になっても、他のバンドはみんな4人か5人編成のままだろう。
人間界のロックバンドではそれが普通だった。さっきもロドフェルが言っていたが、各セクション一人ずつが常識だったんだからな。第一期《ケルビム》時代の曲だって、それだけの人数で演奏するのを聴けばはっきり言ってただの音の洪水だ。
ライブでは全員が目立とうとして跳んだりキメたり回ったり。ヴォーカリストは非常手段で客席の上を飛び回り、ほかの連中はそれに負けまいと、曲弾き速弾き。昔のマテリアルをやる時は前にも増して技術強調のプレイ、転調に次ぐ転調。複雑すぎて手拍子の打てないテンポ。騒々しくてめまぐるしくてしかたがない。
本当は何がなんだかわからないのに、『わからない』と言うとバチ当たりだとかどんくさいとか言われて馬鹿にされるからと無理してたファンもいるようだぞ。ああいう音楽を、本家本元の天球の音楽を演奏していた天使たちがやるとはね。
あんなんでよく、亡霊たちは天国を疑似体験できるなんて言ったもんだ。
スタイルとラインナップについてはいつ聞いても、録音みたいに口をそろえて『今がベスト』。それに、なんだ、あの衣装…」

「おい、ヒュリエル、おまえの命の恩人だろう。おまえがなんとかしろ」
ヒュリエルは命の恩人とリーダーの板ばさみである。
「命の恩人なんて大げさな。大体、どうやって助けたんだよ」
ロドフェルがデータ・パニック氏の手から四つ目の帽子を取り上げ、ハイハット・シンバルの上半分とともに、両手の人差し指で左右逆に回す。ヒュリエルがすぐに帽子を取り返し、データ・パニック氏に手渡した。

「ギターの弦で新しく生えた翼を根元から切ってもらったんだ。ぎゅーっ、ぶちっと」
「よく、そんなんで切れたなあ」
慌ててはおったローブの大きくあいた後ろ衿から手を入れ、テュリクセルがヒュリエルの翼のない背中をさする。
「造作もないさ。翼の生え変わりなんてヒュリエルの思い過ごし。新しい翼なんて元々実在してなかったんだから」
「実在しないものが、よく切れたなあ」
ロドフェルがそう言いながら、ハイハット・シンバルの皿回しを右から左に移した。
「なあに。生前は時々、聴いてもいないCDや観てもいないライブの評を書いてたからね。軽い、軽い」

「ジャーン!」という効果音が辺りに鳴り響いた。ロドフェルがハイハット・シンバルを落としたのだ。
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