プログレた天使たち 

瑠俱院 阿修羅

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41. アフロディテの創り出した [神造]天使ヒュリエル

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「人間…でしょう?」
登場にインパクトがあった割に次々に新しい展開があったせいで忘れられていた生き物が、久しぶりに声を出した。
ジョフィエルの頭の上を這い回っていたヘラクレスだ。
「あなたでしたか。アフロディテに頼まれて探していたんです。『千里眼の《Z神》が下界を見下ろしているから、そのうちきっと見つけ出すだろう。そしたら、私に報告しておくれ』と、あの方はおっしゃいました。神々が皆オリンポスを離れた後も私だけが《Z神》のお側に残っていたのは、動くのが億劫ということもありますが、一つはそういう理由からでして」

「見つけるって、何を?」
「人類最後の生き残りの、アドニスばりの美青年です。人類が滅びの道を転がり落ちている時、女神がそのお力を使って、一人だけ若くて最も美しい青年が残るように仕向けられたのです。美少年に細胞の複製を極度に抑える術をかけて老化を遅らせ、青年で成長が止まるようにしておく。でも、その美小年がどこに残ったものか、亡霊との見分けがつかずいっこうに見つけられない。
美に目がくらんでの手抜かりですな。それで、レダのもとに通った頃のゼウス神から大量に抜け落ちたのを集めておいた白鳥の羽毛を使って、何度も失敗しながら試行錯誤を重ねてやっとの思いでクローンの《Z神》を創られたのです。美と愛の女神ですから美に執着する一心で、死にもの狂いになって遺伝子工学的な作業を成し遂げられました」

「細胞複製の抑制とか遺伝子工学的な作業とか、そんなまだるっこしいことをしなくても、女神ならもっと簡単にいろいろとできそうだけどなあ」
「人類文明では科学万能の時代が最も鮮烈に亡霊、神、天使の間で印象に残ってますからね。人間にできたことが自分にできないはずがない、と思われたんでしょう。で、前世と同じく美に目のない《Z神》にその美青年を見つけださせようと、はっきりそれと言わずただ、常に下界を見張っているように命じておいた。そしたら、下界で演奏活動をしている天使の美少年にうつつをぬかして、他の誰も目に入らなくなってしまった。
これは計算外でした。彼女は《Z神》を猟犬にして獲物を横取りするおつもりだったが、あいにく実の息子の悪ガキ、クピドに似ている天使はお好みじゃない」

「やれ、助かった」
ジョフィエルが胸をなでおろし、ロドフェルが冷ややかな目で彼を見る。他の天使たちはそれぞれ顔を見合わせ、ラウエルだけが斜め後ろの太陽を睨みつけていた。その目尻にはきらりと光るものがあった。

「君とGDを出したゴルゴポタモスなんたらがギリシャの神なら、なぜ、初めからそう言わないんだ。裏でいろいろ、邪推がはびこっているらしいぞ」
ギヒテルに言われて、ジョフィエルが口を尖らせる。
「亡霊たちを怖がらせないために、彼が正体を明かすのを嫌って」
「で、彼は君のその性格を知っているのか?」
ゼピエルは本心からの心配顔で聞いた。
「部分的には」
ジョフィエルが答える。

「つまり、猫をかぶってるってことだな。君のむき出しの邪悪な性格にそれほど長く耐えられる相手がそうそういるはずはないと思った。その虫が《Z神》の使い走りだと先に名乗っていなければ、叩き落としていただろう」
「ありがとう。テュリクセル。君が図星を指してくれたおかげで、さっき返事を聞きそびれた質問を思い出した。ヘラクレス。彼から僕への言づけって何だい?」

「彼は未来を予見したんです。まず、あなたが〈プログレ浄土〉がらみのトラブルに巻き込まれること。これは一応、解決しましたね」
言われて天使たちは湖を見た。
既に〈プログレ浄土〉は湖底深く沈み、さっきまでの喧騒が嘘のように静まりかえっていた。空中に所在なげに浮かぶホルガー・チューカイの顔が、ヘラクレスの話を引き継ぐ。

「もう一つはさしずめ、ヒュリエルのことだろう」
「そうです。具体的な名前までは彼にはわかりませんでしたがね。天使たちが人間並みに年老いて寿命で天国に召された後、ジョフィエルともう一人新種の、突然変異の天使が地上に残ると」
天使たちの目がまたしてもヒュリエルに集中する。その目には驚愕、好奇、羨望とさまざまな感情が浮かんでいた。ヒュリエルは助けを求めるようにテュリクセルを見た。

「術をかけられた細胞は突然変異を起こしてね。一度骨折を経験している骨と筋肉の瘢痕組織の細胞が異常に増殖して翼になったんだよ。彼は人間として生まれ育ち、途中から天使に変化したミュータントだ。それで、人間の美青年を探していたアフロディテには見つけることができなかったんだ。
かつて人間界でも高校の仲間とバンドを組んでギターを弾いてたね。バンドの名前は“カーニッヒェン“だったかな」
壊れかけの怖い顔に埋もれかけた申し訳程度の目を細めて、ホルガー・チューカイが優しく言った。

「そうだ」
ヒュリエルは力なく答えた後、こぶしを握りしめてうなだれた。
「そんなに落ちこむことはないないさ。誰もおまえを責めたりしない。身分を偽っていたわけじゃなく、実際に天使なんだ。生まれは人間だが、こちらが事情を知っていると思っただけで、隠していたわけでもないし」
テュリクセルに言われてヒュリエルはきっ、とした目つきでジョフィエルを見た。
「それで落ちこんでるんじゃないんだ。ジョフィエルと二人だけでこの世界に残るなんて」
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