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第1章:最初の着替え
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ーープロローグーー
春の風が病院の中庭を通り抜けるころ、看護専門学校三年の早川 悠真は、実習先の総合病院の控室で呆然としていた。
「えっと……これが、僕の?」
手元に渡された実習用の制服は、どう見ても女性用。しかも今どきのパンツスタイルではなく淡いピンクの短めのチュニックと、白いスカート。そして、一緒に配られたのはレースの入ったキャミソールと、白いストッキング、ぺたんこのナースシューズ…。替えようも合わせて合計3セットもある。
「申し訳ないんだけど、男子用は発注してないのよ。前にも男の子いたけど、みんなこれで乗り切ってもらったの」
担当教員の言葉に、悠真は言葉を失った。
(冗談だろ……?)
しかし、実習は翌日から始まる。病院内での服装規定は厳しく、下着も透け防止の白、指定品以外は不可。選択肢はなかった。
そして、実習初日。鏡の前に立った悠真は、自分が別人のように見えた。スカートの裾がふくらはぎにふわりと触れ、ストッキング越しの脚が妙に意識される。
(これで病棟に行くのか……)
しかし、患者たちは驚く様子もなく「ナースさん」と彼に微笑む。最初こそぎこちなかった歩き方も、数日もすれば自然と腰を落とし、膝をそろえて立つようになった。
「早川さん、最近所作が綺麗になったね」
指導ナースのその言葉に、悠真の胸の奥がかすかに波打つ。
(僕は、なんで……少し、嬉しいんだろう)
——女性用のナース服に包まれた一カ月の実習は、ただの訓練ではなく、彼の中に眠る何かを目覚めさせていく時間になっていく。
ーーーーー第1章ーーーーーーーーー
「……よし、誰もいないな」
病院実習初日。悠真は更衣室の扉をそっと開け、中に入ると素早く内鍵をかけた。
控室で渡された制服一式が、リュックの中にしんと収まっている。女性用の実習服一式──チュニック、スカート、ストッキング、そして白いレースのキャミソールとショーツ。それに、つま先の丸いぺたんこ靴。
(男子の制服は間に合わないって……冗談みたいな話だったけど、本当だったんだ)
ゆっくりと制服を取り出し、ロッカーにかける。どれも新品で、どこか柔らかい香りが漂う。女子のクラスメイトたちが言っていた「新しいナース服の香り」だろうか。
「……着るしか、ないんだよな」
制服の下に着る下着も指定品。「色が透けるから白、柄物もNG」と教員に念押しされていた。支給品に含まれていた無地の白いレースキャミソールと、シンプルなショーツとブラジャー。
男子用とは違い、生地が薄く柔らかくて、肌に吸い付くような感触だった。
(変な気分になるな……)
震える指先で制服に触れながら、悠真はまず上着を脱ぎ、Tシャツとズボンをゆっくりと下ろす。キャミソールだけ着てみた。なぜか下半身が少し熱くなる。。
鏡の前に立つと、男の体に女性用の下着だけが浮いて見えて、思わず目をそらしたくなる。
「……すごい、スースーする」
キャミソールの肩紐が細くて、頼りない。胸元も浅くて、自分の平坦な胸が余計に目立つような気がする。
次に、ストッキングを広げてつま先を通す。ぴったりと脚に密着する薄布の感触に、思わず膝が震える。するすると太腿を包み込むその感覚は、今までに感じたことのない、くすぐったいような、くやしいような……
(なんで、こんなことでドキドキしてんだよ……)
そして、ピンクのチュニック。頭からすぽりとかぶると、ふわっと広がる淡い色と甘い香りが、悠真の呼吸を浅くした。スカートはウエストにぴったりで、歩くと裾が脚にふわふわと触れてくる。
最後に、ナースシューズを履いて鏡の前に立った。
(これ……本当に、僕か?)
ストッキング越しの足、白くて小さな靴、ひらりと揺れるスカート。鏡の中にいるのは、見慣れた自分とは少し違う、でも確かに「看護師の卵」だった。
戸惑い、羞恥、でもどこかくすぐったい高揚感。
(……がんばれ、僕)
深く息を吸って、更衣室のドアノブに手をかけた。
春の風が病院の中庭を通り抜けるころ、看護専門学校三年の早川 悠真は、実習先の総合病院の控室で呆然としていた。
「えっと……これが、僕の?」
手元に渡された実習用の制服は、どう見ても女性用。しかも今どきのパンツスタイルではなく淡いピンクの短めのチュニックと、白いスカート。そして、一緒に配られたのはレースの入ったキャミソールと、白いストッキング、ぺたんこのナースシューズ…。替えようも合わせて合計3セットもある。
「申し訳ないんだけど、男子用は発注してないのよ。前にも男の子いたけど、みんなこれで乗り切ってもらったの」
担当教員の言葉に、悠真は言葉を失った。
(冗談だろ……?)
しかし、実習は翌日から始まる。病院内での服装規定は厳しく、下着も透け防止の白、指定品以外は不可。選択肢はなかった。
そして、実習初日。鏡の前に立った悠真は、自分が別人のように見えた。スカートの裾がふくらはぎにふわりと触れ、ストッキング越しの脚が妙に意識される。
(これで病棟に行くのか……)
しかし、患者たちは驚く様子もなく「ナースさん」と彼に微笑む。最初こそぎこちなかった歩き方も、数日もすれば自然と腰を落とし、膝をそろえて立つようになった。
「早川さん、最近所作が綺麗になったね」
指導ナースのその言葉に、悠真の胸の奥がかすかに波打つ。
(僕は、なんで……少し、嬉しいんだろう)
——女性用のナース服に包まれた一カ月の実習は、ただの訓練ではなく、彼の中に眠る何かを目覚めさせていく時間になっていく。
ーーーーー第1章ーーーーーーーーー
「……よし、誰もいないな」
病院実習初日。悠真は更衣室の扉をそっと開け、中に入ると素早く内鍵をかけた。
控室で渡された制服一式が、リュックの中にしんと収まっている。女性用の実習服一式──チュニック、スカート、ストッキング、そして白いレースのキャミソールとショーツ。それに、つま先の丸いぺたんこ靴。
(男子の制服は間に合わないって……冗談みたいな話だったけど、本当だったんだ)
ゆっくりと制服を取り出し、ロッカーにかける。どれも新品で、どこか柔らかい香りが漂う。女子のクラスメイトたちが言っていた「新しいナース服の香り」だろうか。
「……着るしか、ないんだよな」
制服の下に着る下着も指定品。「色が透けるから白、柄物もNG」と教員に念押しされていた。支給品に含まれていた無地の白いレースキャミソールと、シンプルなショーツとブラジャー。
男子用とは違い、生地が薄く柔らかくて、肌に吸い付くような感触だった。
(変な気分になるな……)
震える指先で制服に触れながら、悠真はまず上着を脱ぎ、Tシャツとズボンをゆっくりと下ろす。キャミソールだけ着てみた。なぜか下半身が少し熱くなる。。
鏡の前に立つと、男の体に女性用の下着だけが浮いて見えて、思わず目をそらしたくなる。
「……すごい、スースーする」
キャミソールの肩紐が細くて、頼りない。胸元も浅くて、自分の平坦な胸が余計に目立つような気がする。
次に、ストッキングを広げてつま先を通す。ぴったりと脚に密着する薄布の感触に、思わず膝が震える。するすると太腿を包み込むその感覚は、今までに感じたことのない、くすぐったいような、くやしいような……
(なんで、こんなことでドキドキしてんだよ……)
そして、ピンクのチュニック。頭からすぽりとかぶると、ふわっと広がる淡い色と甘い香りが、悠真の呼吸を浅くした。スカートはウエストにぴったりで、歩くと裾が脚にふわふわと触れてくる。
最後に、ナースシューズを履いて鏡の前に立った。
(これ……本当に、僕か?)
ストッキング越しの足、白くて小さな靴、ひらりと揺れるスカート。鏡の中にいるのは、見慣れた自分とは少し違う、でも確かに「看護師の卵」だった。
戸惑い、羞恥、でもどこかくすぐったい高揚感。
(……がんばれ、僕)
深く息を吸って、更衣室のドアノブに手をかけた。
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