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第2章:ナースステーションまでの道のり
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ドアの向こうに、現実がある。
ドアノブを握ったまま、悠真はほんの少しだけ足元を見下ろした。白いナースシューズに包まれたつま先、ストッキング越しのすべすべとした脚が、まるで他人のもののように思えた。
(この格好で……歩くのか、病院の中を……)
手が汗ばむ。心臓が、変にドクドクと波打っている。
(でも……戻れない)
意を決して、ドアを開ける。廊下には既に何人かの学生が歩いていた。白衣姿の実習生たち。ほとんどが女子だ。自分と同じピンクのチュニックに身を包んでいるが、彼女たちの歩き方はどこか自然で、当たり前のように見えた。
悠真の足取りは、最初こそぎこちなかった。ストッキングが擦れる音が気になり、スカートの裾がふくらはぎに触れるたびにビクリとする。
(見られてないか……変に思われてないか……)
誰かとすれ違うたびに、息をひそめるように肩をすぼめてしまう。けれど、誰も彼を笑ったりはしなかった。
そして、ナースステーションの前にたどり着くと、すでに担当の指導ナースと教員が並んで待っていた。
「早川くんだね? よろしくお願いします」
「……はい、よろしくお願いします」
声が震えそうになるのをこらえながら、悠真は軽くお辞儀をした。その瞬間、チュニックの裾がふわりと揺れて、胸元のレースが肌にふれた。
(うわ……これ、しゃがむとスカートめくれる……気をつけないと……)
ナースからは特に表情を変えられることもなく、あくまで実習生の一人として扱われたことが、逆に胸を締め付けた。
(“男なのに”とか、言われないんだ……)
何も言われない安心と、言われなかった寂しさ。そのどちらともつかない感情が、胸の奥で静かに渦を巻いていた。
ドアノブを握ったまま、悠真はほんの少しだけ足元を見下ろした。白いナースシューズに包まれたつま先、ストッキング越しのすべすべとした脚が、まるで他人のもののように思えた。
(この格好で……歩くのか、病院の中を……)
手が汗ばむ。心臓が、変にドクドクと波打っている。
(でも……戻れない)
意を決して、ドアを開ける。廊下には既に何人かの学生が歩いていた。白衣姿の実習生たち。ほとんどが女子だ。自分と同じピンクのチュニックに身を包んでいるが、彼女たちの歩き方はどこか自然で、当たり前のように見えた。
悠真の足取りは、最初こそぎこちなかった。ストッキングが擦れる音が気になり、スカートの裾がふくらはぎに触れるたびにビクリとする。
(見られてないか……変に思われてないか……)
誰かとすれ違うたびに、息をひそめるように肩をすぼめてしまう。けれど、誰も彼を笑ったりはしなかった。
そして、ナースステーションの前にたどり着くと、すでに担当の指導ナースと教員が並んで待っていた。
「早川くんだね? よろしくお願いします」
「……はい、よろしくお願いします」
声が震えそうになるのをこらえながら、悠真は軽くお辞儀をした。その瞬間、チュニックの裾がふわりと揺れて、胸元のレースが肌にふれた。
(うわ……これ、しゃがむとスカートめくれる……気をつけないと……)
ナースからは特に表情を変えられることもなく、あくまで実習生の一人として扱われたことが、逆に胸を締め付けた。
(“男なのに”とか、言われないんだ……)
何も言われない安心と、言われなかった寂しさ。そのどちらともつかない感情が、胸の奥で静かに渦を巻いていた。
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