ナース服の中の僕

なな

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第12章:知っていて、なお

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休憩室のロッカーで着替えていたときのことだった。

チュニックのボタンを外し、キャミソールの下に手を伸ばしかけたとき、背後からひょいと顔をのぞかれた。

「おっ、悠真。……ん?」

声をかけたのは、実習先の男性看護師──30代半ばの小柄な先輩、吉田さんだった。からかい半分の調子で続ける。

「なんだ、お前……まさか、ブラしてんの?」

指差す先には、キャミソールの肩越しにうっすら透けた、白いストラップ。

「いやぁ、女子用の制服でも気合い入ってるじゃん。やるなあ」

冗談めかして笑いながらも、視線が明らかにその一点に集中している。

(見られた……)

頭が一瞬真っ白になった。

「ち、違……っ、これ、その……支給品で」

しどろもどろになりながら説明しようとするが、吉田さんは悪気なく軽く流していく。

「まあまあ、別に俺は気にしないって。ていうか、いっそ貫いてくれたほうが清々しいしな」

そう言って笑いながら出ていった背中を、悠真は何も言えずに見送るしかなかった。

(……“気にしない”?)

“男なのに”と知っていながら、“女の子の格好”をしている。制服だけならまだしも、下着まで“本物”であることがバレてしまった。軽く流されたとはいえ、悠真の胸の奥には鋭い針のような痛みが刺さっていた。

(僕は……やっぱり、おかしいのかな)

その後の実習中、ブラの感触がひどく気になって仕方がなかった。

ストラップが肩をなぞるたびに、「今も誰かに見られてるんじゃないか」と不安になる。屈んだとき、後ろからラインが透けていないか。動作一つひとつが、疑心に変わる。

──そして、別の患者との会話の中でも、同じような出来事が起きた。

「君、男子なんだってな。女の子みたいに細くて、最初はびっくりしたけど……いや、今も。胸……?」

その言葉に、笑顔が張りついたまま動かなくなった。

(あぁ、だめだ……見えてる……わかってる……)

患者はただの好奇心だったのかもしれない。けれどその無邪気さが、悠真にとっては残酷だった。

(僕は、男の子。だけど……“女の子の形”でいたい。なのに、それが……)

肯定されるでもなく、否定されるでもなく。

ただ「奇異なもの」として見られる、その中途半端さが、いちばん心を削る。

(だったら、もう……やめる?)

けれど制服は変えられない。日々の実習は続く。

そして、もしブラを外してしまったら──その瞬間、自分は“完全に男”として、再び“浮く”のではないかという恐怖。

(僕は……どっちにいても、おかしい)

更衣室のロッカーで、ブラのホックに手をかけながら、悠真は動けずにいた。
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