ナース服の中の僕

なな

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第11章:交差する“当たり前”

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昼食の時間が終わり、患者の片付けをしていたときだった。

病室で一人の高齢男性患者に声をかけられる。

「あんた、新人さんかね?」

「はい、看護学生で来ています」

丁寧に答えると、相手はにこにこと笑った。

「女の子はやっぱりええなぁ。優しいし、かわいいし……その制服、似合っとるよ。ほんに、嫁にしたくなるくらいじゃ」

(あ……)

思わず手が止まった。

声色は優しく、悪気などまったく感じられない。その人なりの“褒め言葉”だったのだろう。でも、悠真の胸の奥に、ひやりとしたものが差し込んだ。

「ありがとうございます……」

笑顔をつくって答えながら、心はどこか冷たく震えていた。

(“女の子”として……好まれる。求められる。可愛いと見られる。嫁に──って)

それは、女子たちの間で「かわいい」と言われたときとは違った重さを持っていた。“役割”を、そこに感じてしまった。

女性であることで求められる何か。期待される形。

そして、自分の中にそれを拒めないほど“染まりはじめている”感覚。

ブラを着けている胸元が、今はとても目立って思えた。視線を落とすたび、その存在が重く、苦しい。

(でも、これを……外したら、僕はまた“浮いてしまう”)

どこにも居場所がない。男としても、女としても──

「悠真ちゃん、こっちお願い~!」

由梨の声で、はっと我に返る。次の部屋へ向かう途中、女子たちの笑い声と話し声が響く。

「ねえ、ナプキン貸して~持ってくるの忘れた!」

「あ、いいよいいよ~!恵美ちゃんも生理きたら絶対しんどいタイプでしょ? 優しそうだもん!」

「いや、わたしは重くてね~……男子はいいよね、楽で」

由梨も、周りの子も、自然に話を続けていく。

(もう僕は、いても違和感のない“女子の一人”として扱われてるんだ)

でも、それは嘘だ。本当は違う。本当は……。

なのに、悠真は声を出せなかった。

笑って、うなずいて、「わかるよ」とさえ言ってしまいそうになった。

その“嘘の中の安心”に、すがってしまいそうになる自分が、いちばん怖かった。
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