ナース服の中の僕

なな

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第10章:視線の色

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ブラを着けて臨んだ初めての実習。チュニックの下の胸元は控えめに膨らみ、布地にわずかな丸みを作っていた。

(すごく……自然だ)

動くたびに肩紐が優しく肌に触れ、背中にはホックの感触が微かにある。今までと同じ制服なのに、自分の姿が“より完成された女性”のように思えた。

「悠真ちゃん、配膳手伝ってくれる?」

先輩ナースに呼ばれて返事をするとき、声が自然と少しだけ高く、柔らかくなっていた。スカートを直しながら立ち上がる動作も、膝をそろえて座る癖も、すっかり身についてきた。

(僕、たぶん……馴染んでる)

けれどその安心感は、ほんの少しのきっかけで、揺らぎ始める。

廊下を歩いていたとき、正面から歩いてきた内科の医師──40代くらいの男性──が、ふと足を止めた。

「……あれ? 君、ここの学生?」

一瞬、名前を呼ばれるかと身構えたが、ただの問いかけだった。だがその目線が、明らかに“顔”ではなく、胸元から脚にかけて、視線を上下していたことに気づいてしまう。

(今の、男の人の……見る目……)

それは、今までとはまったく違う種類の“視線”だった。

ただの確認でも、注意でもない。“異物”を見る目でもなかった。

もっと、こう……女性としての“価値”を測るような目。

気づいた瞬間、頬がかっと熱を持った。心臓が、ドクンと跳ねる。

「……す、すみません」

ぺこりと頭を下げて通り過ぎたが、歩くたびに胸元のブラが静かに主張しているのがわかる。今朝は何も感じなかったのに──視線を受けた今は、まるでそこに“女の子としての証”がぶらさがっているみたいだった。

(僕、今……“女の子として見られた”……?)

それが不快だったわけではない。ただ、妙に身体が熱く、敏感になっている気がした。

配膳を終え、控え室に戻ると、由梨が笑いながら声をかけてきた。

「今日さ、なんか悠真ちゃん、色っぽくない?」

「えっ?」

「わかるー。動きがすごく女の子っぽくなってきたよね」

「うん、背中とか首のラインとか、ちょっと色気あるもん」

女子たちの言葉に、胸の奥がざわつく。けれど不思議と、それが“嫌じゃなかった”。

(僕は……女の子に見られることのほうが、自然で、安心できるのかもしれない)

ただその一方で──男としての身体の“芯”が、自分の中に確かに残っていることも、強く意識させられていた。

“男”でありながら“女”として見られたい。

その境界に立つ不安定な足場の上で、悠真は今、静かに揺れていた。
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