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第14章:選ぶということ
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週末の午後、悠真は梨乃のアパートにいた。
「ほら、上がって。狭いけど気にしないでね」
ワンルームの部屋は、落ち着いたクリーム色でまとめられていて、どこかほっとする空気が漂っていた。カーペットの上には低めのテーブル。壁際にはシンプルな本棚とクローゼット。
「……女の子の部屋、って感じだね」
「そう? 意外と生活感あるよ。洗濯物とか干してるし」
そう言いながら梨乃は笑い、冷蔵庫から麦茶を出してくれた。
ふたりで一息ついたあと、梨乃がぽつりと言った。
「ね、今日さ……悠真に、服を着てほしいの」
「えっ?」
「制服じゃなくて、“ふつうの女の子の私服”。どうかな?」
急に胸がざわついた。制服なら“支給されたから”と言い訳ができる。でも、私服は“自分の選択”になる。
「わ、わたしが? 女の子の……?」
「うん。変じゃないよ。むしろすっごく似合うと思う。ていうか、もう想像できてるし。楽しみにしてたんだから」
梨乃は、ベッド下の引き出しを開けて、丁寧に畳まれた服を取り出した。
淡いラベンダー色のブラウスに、白いフレアスカート。袖口はふわりと広がり、胸元には小さなリボン。
(……かわいい。すごく、かわいい……)
見た瞬間、目が奪われていた。けれどすぐに、胸の奥から不安が湧き上がる。
「これ、僕が……着ても……」
「うん。着てほしい。誰の目もないよ。ふたりだけなんだから。大丈夫」
梨乃の声は静かで、でも芯があった。
ゆっくりと、服を受け取る。指先が震える。バスルームを借りて、着替えた。
シャツを脱ぎ、キャミソールも外す。代わりに、梨乃が貸してくれたソフトブラを胸にあてがい、後ろで留める。
それだけで、心がふわりと包まれるようだった。
スカートに足を通し、ブラウスのボタンを一つずつ留める。鏡に映った自分は──
(……ほんとうに、女の子みたいだ)
細い首筋、レースの襟、手首にふわりとかかる袖。スカートが膝を隠して、柔らかなラインを描いていた。
「悠真、入ってきていい?」
「う、うん……」
そっとドアを開けると、梨乃が一瞬目を見開いた。
そして──にっこりと笑う。
「……やっぱり、すごく似合ってる。かわいい」
その言葉が、制服のときより何倍も深く響いた。
「でも……これ、僕の“趣味”って思われたら……」
「趣味でも、そうじゃなくても、かわいいことに変わりないよ。悠真が着たいって思うなら、それで十分」
梨乃がウィッグを取り出し悠真につけてあげる。
「これは被せた後に整えるのが大事なの。」
櫛で何度も整える。
「ほら、鏡で見て!凄いかわいい女の子だよ。」
促されるまま鏡をみると
はにかんだ、可愛い女の子がこちらを見ている。
「これが、僕…」
何故か下半身がキュンとした。
梨乃の手が、そっと悠真の指先に触れる。
「私ね。悠真が、制服のままで終わらないで、自分の気持ちで“かわいくなりたい”って思ってくれたら……って、ちょっと期待してた」
「……」
「それって、誰に言われたからじゃなくて、“自分の選択”でしょ?」
その言葉に、悠真は小さくうなずいた。
(そうだ。これは、自分で選んだ。誰にも命じられてない。僕が──着てみたかった)
ゆっくりと笑みが浮かんだ。心のどこかで、初めて「嬉しい」と思えた。
「ほら、上がって。狭いけど気にしないでね」
ワンルームの部屋は、落ち着いたクリーム色でまとめられていて、どこかほっとする空気が漂っていた。カーペットの上には低めのテーブル。壁際にはシンプルな本棚とクローゼット。
「……女の子の部屋、って感じだね」
「そう? 意外と生活感あるよ。洗濯物とか干してるし」
そう言いながら梨乃は笑い、冷蔵庫から麦茶を出してくれた。
ふたりで一息ついたあと、梨乃がぽつりと言った。
「ね、今日さ……悠真に、服を着てほしいの」
「えっ?」
「制服じゃなくて、“ふつうの女の子の私服”。どうかな?」
急に胸がざわついた。制服なら“支給されたから”と言い訳ができる。でも、私服は“自分の選択”になる。
「わ、わたしが? 女の子の……?」
「うん。変じゃないよ。むしろすっごく似合うと思う。ていうか、もう想像できてるし。楽しみにしてたんだから」
梨乃は、ベッド下の引き出しを開けて、丁寧に畳まれた服を取り出した。
淡いラベンダー色のブラウスに、白いフレアスカート。袖口はふわりと広がり、胸元には小さなリボン。
(……かわいい。すごく、かわいい……)
見た瞬間、目が奪われていた。けれどすぐに、胸の奥から不安が湧き上がる。
「これ、僕が……着ても……」
「うん。着てほしい。誰の目もないよ。ふたりだけなんだから。大丈夫」
梨乃の声は静かで、でも芯があった。
ゆっくりと、服を受け取る。指先が震える。バスルームを借りて、着替えた。
シャツを脱ぎ、キャミソールも外す。代わりに、梨乃が貸してくれたソフトブラを胸にあてがい、後ろで留める。
それだけで、心がふわりと包まれるようだった。
スカートに足を通し、ブラウスのボタンを一つずつ留める。鏡に映った自分は──
(……ほんとうに、女の子みたいだ)
細い首筋、レースの襟、手首にふわりとかかる袖。スカートが膝を隠して、柔らかなラインを描いていた。
「悠真、入ってきていい?」
「う、うん……」
そっとドアを開けると、梨乃が一瞬目を見開いた。
そして──にっこりと笑う。
「……やっぱり、すごく似合ってる。かわいい」
その言葉が、制服のときより何倍も深く響いた。
「でも……これ、僕の“趣味”って思われたら……」
「趣味でも、そうじゃなくても、かわいいことに変わりないよ。悠真が着たいって思うなら、それで十分」
梨乃がウィッグを取り出し悠真につけてあげる。
「これは被せた後に整えるのが大事なの。」
櫛で何度も整える。
「ほら、鏡で見て!凄いかわいい女の子だよ。」
促されるまま鏡をみると
はにかんだ、可愛い女の子がこちらを見ている。
「これが、僕…」
何故か下半身がキュンとした。
梨乃の手が、そっと悠真の指先に触れる。
「私ね。悠真が、制服のままで終わらないで、自分の気持ちで“かわいくなりたい”って思ってくれたら……って、ちょっと期待してた」
「……」
「それって、誰に言われたからじゃなくて、“自分の選択”でしょ?」
その言葉に、悠真は小さくうなずいた。
(そうだ。これは、自分で選んだ。誰にも命じられてない。僕が──着てみたかった)
ゆっくりと笑みが浮かんだ。心のどこかで、初めて「嬉しい」と思えた。
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