ナース服の中の僕

なな

文字の大きさ
15 / 47

第15章:制服の帰り道、誰かの腕の中

しおりを挟む
その日、実習が少しだけ延びて、病院を出たのは夕方だった。

制服のまま電車に乗るのは、まだ少し怖い。でも着替える時間もなく、そのまま駅へ向かった。膝丈のスカートに白いチュニック。上からカーディガンを羽織っても、明らかに“女子学生”の格好だった。

(……ちゃんと歩いてるだけなのに、視線が刺さる)

電車に揺られながら、つり革を握る手が汗ばむ。ふいに、隣から距離を詰めてきた男の気配に気づいた。

「ねぇ、可愛いね。どこの看護学校?」

無視しようとしても、肩をぐいと近づけてくる。

「ちょっとだけでいいからさ、話そうよ。彼氏とかいないでしょ?」

(……やだ)

制服の胸元を握りしめ、悠真は逃げるように車両を移ろうとした。だが男は追いすがるようについてきて──

「やめてくれませんか?」

その声は低く、落ち着いていた。男の腕をさりげなく遮るように差し出してきたのは、背の高いスーツ姿の男性だった。

「この子、困ってるみたいですよ。駅員さんを呼びますか?」

その一言で、男は舌打ちをして立ち去った。

(助かった……)

「大丈夫?」

悠真はこくりと頷いた。心臓がまだバクバクしていて、うまく言葉が出てこなかった。

「ひとりで制服のまま帰るの、ちょっと怖いかもね。少しだけ、一緒にいてあげるよ」

電車を降りたあとも、彼は最後まで付き添ってくれた。距離は常に程よく、でもどこか安心できる空気を纏っていた。

別れ際、名前も聞かずに「ありがとう」とだけ告げて、その夜は終わった。

──そして、翌週。

実習先のスタッフミーティング。紹介された新任医師の名は桐谷 陸(きりたに りく)。あのときのスーツ姿の彼だった。

「……っ!」

思わず声が漏れそうになる。気づいていない様子の彼に、悠真はひそかに動揺していた。

だが数日後、ふたりきりになったタイミングで、桐谷がふと囁くように言った。

「やっぱり、君だったんだね。あの日、電車で」

「……!」

「でも安心して。誰にも言わないよ。……“制服の男の子”って、普通なら驚くけど、正直……可愛いって思ったから。だから……」

少し口元に笑みを浮かべる。

「よかったら、今度。ごはんでも行かない?」

それは、冗談に見せかけて本気の声だった。

悠真は何も言えずに、ただ目を見つめ返していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

リアルフェイスマスク

廣瀬純七
ファンタジー
リアルなフェイスマスクで女性に変身する男の話

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

性転のへきれき

廣瀬純七
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...