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第15章:制服の帰り道、誰かの腕の中
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その日、実習が少しだけ延びて、病院を出たのは夕方だった。
制服のまま電車に乗るのは、まだ少し怖い。でも着替える時間もなく、そのまま駅へ向かった。膝丈のスカートに白いチュニック。上からカーディガンを羽織っても、明らかに“女子学生”の格好だった。
(……ちゃんと歩いてるだけなのに、視線が刺さる)
電車に揺られながら、つり革を握る手が汗ばむ。ふいに、隣から距離を詰めてきた男の気配に気づいた。
「ねぇ、可愛いね。どこの看護学校?」
無視しようとしても、肩をぐいと近づけてくる。
「ちょっとだけでいいからさ、話そうよ。彼氏とかいないでしょ?」
(……やだ)
制服の胸元を握りしめ、悠真は逃げるように車両を移ろうとした。だが男は追いすがるようについてきて──
「やめてくれませんか?」
その声は低く、落ち着いていた。男の腕をさりげなく遮るように差し出してきたのは、背の高いスーツ姿の男性だった。
「この子、困ってるみたいですよ。駅員さんを呼びますか?」
その一言で、男は舌打ちをして立ち去った。
(助かった……)
「大丈夫?」
悠真はこくりと頷いた。心臓がまだバクバクしていて、うまく言葉が出てこなかった。
「ひとりで制服のまま帰るの、ちょっと怖いかもね。少しだけ、一緒にいてあげるよ」
電車を降りたあとも、彼は最後まで付き添ってくれた。距離は常に程よく、でもどこか安心できる空気を纏っていた。
別れ際、名前も聞かずに「ありがとう」とだけ告げて、その夜は終わった。
──そして、翌週。
実習先のスタッフミーティング。紹介された新任医師の名は桐谷 陸(きりたに りく)。あのときのスーツ姿の彼だった。
「……っ!」
思わず声が漏れそうになる。気づいていない様子の彼に、悠真はひそかに動揺していた。
だが数日後、ふたりきりになったタイミングで、桐谷がふと囁くように言った。
「やっぱり、君だったんだね。あの日、電車で」
「……!」
「でも安心して。誰にも言わないよ。……“制服の男の子”って、普通なら驚くけど、正直……可愛いって思ったから。だから……」
少し口元に笑みを浮かべる。
「よかったら、今度。ごはんでも行かない?」
それは、冗談に見せかけて本気の声だった。
悠真は何も言えずに、ただ目を見つめ返していた。
制服のまま電車に乗るのは、まだ少し怖い。でも着替える時間もなく、そのまま駅へ向かった。膝丈のスカートに白いチュニック。上からカーディガンを羽織っても、明らかに“女子学生”の格好だった。
(……ちゃんと歩いてるだけなのに、視線が刺さる)
電車に揺られながら、つり革を握る手が汗ばむ。ふいに、隣から距離を詰めてきた男の気配に気づいた。
「ねぇ、可愛いね。どこの看護学校?」
無視しようとしても、肩をぐいと近づけてくる。
「ちょっとだけでいいからさ、話そうよ。彼氏とかいないでしょ?」
(……やだ)
制服の胸元を握りしめ、悠真は逃げるように車両を移ろうとした。だが男は追いすがるようについてきて──
「やめてくれませんか?」
その声は低く、落ち着いていた。男の腕をさりげなく遮るように差し出してきたのは、背の高いスーツ姿の男性だった。
「この子、困ってるみたいですよ。駅員さんを呼びますか?」
その一言で、男は舌打ちをして立ち去った。
(助かった……)
「大丈夫?」
悠真はこくりと頷いた。心臓がまだバクバクしていて、うまく言葉が出てこなかった。
「ひとりで制服のまま帰るの、ちょっと怖いかもね。少しだけ、一緒にいてあげるよ」
電車を降りたあとも、彼は最後まで付き添ってくれた。距離は常に程よく、でもどこか安心できる空気を纏っていた。
別れ際、名前も聞かずに「ありがとう」とだけ告げて、その夜は終わった。
──そして、翌週。
実習先のスタッフミーティング。紹介された新任医師の名は桐谷 陸(きりたに りく)。あのときのスーツ姿の彼だった。
「……っ!」
思わず声が漏れそうになる。気づいていない様子の彼に、悠真はひそかに動揺していた。
だが数日後、ふたりきりになったタイミングで、桐谷がふと囁くように言った。
「やっぱり、君だったんだね。あの日、電車で」
「……!」
「でも安心して。誰にも言わないよ。……“制服の男の子”って、普通なら驚くけど、正直……可愛いって思ったから。だから……」
少し口元に笑みを浮かべる。
「よかったら、今度。ごはんでも行かない?」
それは、冗談に見せかけて本気の声だった。
悠真は何も言えずに、ただ目を見つめ返していた。
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