ナース服の中の僕

なな

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第17章:見つめられる、私を

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駅前の小さなカフェの前で待ち合わせた。

足元には、慣れないヒール。細いベルトで足首を留めた白のサンダルは、スタイルをよく見せてくれる反面、数歩歩くだけで筋肉に意識が集中する。

(大丈夫、姿勢を崩さないように、ゆっくり……)

桐谷はすでに来ていて、少し遠くからこちらを見つめていた。

その視線を感じた瞬間、胸がきゅっとなる。

「悠真くん、……ちょっとびっくりするくらいきれいだ」

「え……そんな……」

「本当だよ。髪型もすごく似合っている。それに慣れてないヒールで頑張ってる姿、つい応援したくなる」

桐谷の声は、からかいではなかった。少し低くて、穏やかで、体温を持っている言葉だった。

レストランは静かなイタリアン。白いテーブルクロスに花が一輪飾られ、店員たちの態度も上品で心地いい。

初めての場所で、初めての服装で、男の人とふたり。
けれど、隣の席にいる桐谷があまりに自然で、悠真もゆっくりと緊張をほどいていった。

「ねえ」

桐谷が、食後のコーヒーを飲みながらぽつりと言った。

「僕、君にいろんな服を着てほしい。今日みたいに、一生懸命選んでくれたその姿が、たまらなく愛おしいから」

「……!」

「だからもし嫌じゃなければ、もう少しだけ付き合ってくれる? 買い物に」

午後の街をふたりで歩く。
入ったのは、大人の女性向けのブティック。落ち着いた照明、滑らかな生地が並ぶラック。

最初に桐谷が選んだのは、深紅のチャイナドレスだった。

「これ、似合いそうだなって思った。細い手足がきれいに出るし、黒髪のウィッグとも合う」

試着室に入り、恐る恐る腕を通して鏡の前に立った。

スリットからのぞく太もも。絞られたウエスト。立ち襟が首筋を引き締める。

(……なんで、こんなにドキドキするんだろう)

「綺麗だよ、悠真さん」

カーテンの隙間から声が聞こえた。名前の呼び方が変わっていたのに気づいて、心臓が跳ねる。

それからも、黒のタイトドレス、ベージュのパンツスーツ、シルクのブラウスとスカートセット──

どれも桐谷が「見てみたい」と言ったものだった。そしてそのたびに、悠真は鏡の中の“新しい自分”と出会った。

最後に、紙袋をいくつも抱えて外に出たとき、桐谷がふと言った。

「次のデート、どれを着てきてくれる?」

「えっ……そんな、まだ次の話なんて」

「あるよ、ちゃんと。……だって、君にまた会いたいから」

優しく、でも確かに。
彼の言葉は、大人の余裕と本気が溶けたような、あたたかな光を持っていた。
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