ナース服の中の僕

なな

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第23章:夜のドレスは静かな鼓動

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ホテルのバスルーム。
シャワーの水音が止むと、曇った鏡の中に、濡れた髪の自分がぼんやり映った。

柔らかいバスタオルを胸元で巻きながら、悠真はゆっくりと息を吐く。

(夕食の約束……ちゃんと女の子で、出られるかな)

ベッドの上に、梨乃と一緒に選んだナイトドレスを広げた。
淡いグレイッシュピンクのロングドレス。
細い肩紐、胸元には控えめなレース、ウエストは切り替えですっきり見えるデザイン。

まずは下着から。
黒のランジェリーセットを選んだ。レースの入ったブラは少しだけ高さがあり、
胸元のラインをしっかりと整えてくれる。
ショーツとセットのガーターもつけて、太ももにはストッキングを留めた。

次に、補整用のコルセット。
ウエストを軽く締め、ラインを自然に細くする。
(苦しいけど……この姿、鏡の中でなら、もう“彼”じゃない)

ドレスは頭からそっとかぶる。
肩紐を直し、背中のファスナーを上げると、すうっと身体の中心が一本の線にまとめられたようだった。

次に、アクセサリー選び。
小さな白い化粧ポーチを開けて、細いチョーカーを取り出す。
真珠が3粒だけ連なった、控えめで華奢なネックレス。
ピアスはしていないから、イヤリングを選んだ。細い鎖の先に、ゆれる小さなガラス玉。

メイクは昼より少しだけ濃いめに。
アイラインを丁寧に引き、まつげをしっかり上げる。
薄いローズのリップを重ねて、ハイライトを頬にそっとのせる。

ウィッグは横髪を外巻きにし、耳にかけて顔まわりをすっきりと。
脚にはストラップ付きのパンプスを履いて、静かに鏡の前に立った。

(……ほんとうに、女の子みたい……)

胸元に手をあてて、鼓動を感じる。
それは緊張と、どこか誇らしさが混ざった静かな音だった。

レストランの入り口で、桐谷がすでに待っていた。
グレーのジャケットを少しラフに着崩し、手には小さな花束。

「……やっぱり、来てくれてよかった。すごく、綺麗だよ」

その言葉に、思わず視線を逸らしてしまう。

席に着くと、低めの照明とピアノの生演奏。
ワイングラスをそっと持つ手も、背筋を伸ばす姿勢も、ずっと意識している。

けれど桐谷は、食事のたび、話題の合間に、ふとした仕草を優しく褒めてくれる。

「君の指の動き、品があるね。つい見とれてしまう」

「ドレスの色、すごく似合ってる。……ほんと、誰に見せるわけでもないのに」

(“誰に見せるわけでもない”……でも、見てほしいって思ってる)

悠真はそっとグラスを置いて、静かにうなずいた。
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