23 / 47
第23章:夜のドレスは静かな鼓動
しおりを挟む
ホテルのバスルーム。
シャワーの水音が止むと、曇った鏡の中に、濡れた髪の自分がぼんやり映った。
柔らかいバスタオルを胸元で巻きながら、悠真はゆっくりと息を吐く。
(夕食の約束……ちゃんと女の子で、出られるかな)
ベッドの上に、梨乃と一緒に選んだナイトドレスを広げた。
淡いグレイッシュピンクのロングドレス。
細い肩紐、胸元には控えめなレース、ウエストは切り替えですっきり見えるデザイン。
まずは下着から。
黒のランジェリーセットを選んだ。レースの入ったブラは少しだけ高さがあり、
胸元のラインをしっかりと整えてくれる。
ショーツとセットのガーターもつけて、太ももにはストッキングを留めた。
次に、補整用のコルセット。
ウエストを軽く締め、ラインを自然に細くする。
(苦しいけど……この姿、鏡の中でなら、もう“彼”じゃない)
ドレスは頭からそっとかぶる。
肩紐を直し、背中のファスナーを上げると、すうっと身体の中心が一本の線にまとめられたようだった。
次に、アクセサリー選び。
小さな白い化粧ポーチを開けて、細いチョーカーを取り出す。
真珠が3粒だけ連なった、控えめで華奢なネックレス。
ピアスはしていないから、イヤリングを選んだ。細い鎖の先に、ゆれる小さなガラス玉。
メイクは昼より少しだけ濃いめに。
アイラインを丁寧に引き、まつげをしっかり上げる。
薄いローズのリップを重ねて、ハイライトを頬にそっとのせる。
ウィッグは横髪を外巻きにし、耳にかけて顔まわりをすっきりと。
脚にはストラップ付きのパンプスを履いて、静かに鏡の前に立った。
(……ほんとうに、女の子みたい……)
胸元に手をあてて、鼓動を感じる。
それは緊張と、どこか誇らしさが混ざった静かな音だった。
レストランの入り口で、桐谷がすでに待っていた。
グレーのジャケットを少しラフに着崩し、手には小さな花束。
「……やっぱり、来てくれてよかった。すごく、綺麗だよ」
その言葉に、思わず視線を逸らしてしまう。
席に着くと、低めの照明とピアノの生演奏。
ワイングラスをそっと持つ手も、背筋を伸ばす姿勢も、ずっと意識している。
けれど桐谷は、食事のたび、話題の合間に、ふとした仕草を優しく褒めてくれる。
「君の指の動き、品があるね。つい見とれてしまう」
「ドレスの色、すごく似合ってる。……ほんと、誰に見せるわけでもないのに」
(“誰に見せるわけでもない”……でも、見てほしいって思ってる)
悠真はそっとグラスを置いて、静かにうなずいた。
シャワーの水音が止むと、曇った鏡の中に、濡れた髪の自分がぼんやり映った。
柔らかいバスタオルを胸元で巻きながら、悠真はゆっくりと息を吐く。
(夕食の約束……ちゃんと女の子で、出られるかな)
ベッドの上に、梨乃と一緒に選んだナイトドレスを広げた。
淡いグレイッシュピンクのロングドレス。
細い肩紐、胸元には控えめなレース、ウエストは切り替えですっきり見えるデザイン。
まずは下着から。
黒のランジェリーセットを選んだ。レースの入ったブラは少しだけ高さがあり、
胸元のラインをしっかりと整えてくれる。
ショーツとセットのガーターもつけて、太ももにはストッキングを留めた。
次に、補整用のコルセット。
ウエストを軽く締め、ラインを自然に細くする。
(苦しいけど……この姿、鏡の中でなら、もう“彼”じゃない)
ドレスは頭からそっとかぶる。
肩紐を直し、背中のファスナーを上げると、すうっと身体の中心が一本の線にまとめられたようだった。
次に、アクセサリー選び。
小さな白い化粧ポーチを開けて、細いチョーカーを取り出す。
真珠が3粒だけ連なった、控えめで華奢なネックレス。
ピアスはしていないから、イヤリングを選んだ。細い鎖の先に、ゆれる小さなガラス玉。
メイクは昼より少しだけ濃いめに。
アイラインを丁寧に引き、まつげをしっかり上げる。
薄いローズのリップを重ねて、ハイライトを頬にそっとのせる。
ウィッグは横髪を外巻きにし、耳にかけて顔まわりをすっきりと。
脚にはストラップ付きのパンプスを履いて、静かに鏡の前に立った。
(……ほんとうに、女の子みたい……)
胸元に手をあてて、鼓動を感じる。
それは緊張と、どこか誇らしさが混ざった静かな音だった。
レストランの入り口で、桐谷がすでに待っていた。
グレーのジャケットを少しラフに着崩し、手には小さな花束。
「……やっぱり、来てくれてよかった。すごく、綺麗だよ」
その言葉に、思わず視線を逸らしてしまう。
席に着くと、低めの照明とピアノの生演奏。
ワイングラスをそっと持つ手も、背筋を伸ばす姿勢も、ずっと意識している。
けれど桐谷は、食事のたび、話題の合間に、ふとした仕草を優しく褒めてくれる。
「君の指の動き、品があるね。つい見とれてしまう」
「ドレスの色、すごく似合ってる。……ほんと、誰に見せるわけでもないのに」
(“誰に見せるわけでもない”……でも、見てほしいって思ってる)
悠真はそっとグラスを置いて、静かにうなずいた。
0
あなたにおすすめの小説
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる