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第46章:湯けむりの夜、ふたりきりの時間
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週末。
実習の疲れが少しずつ積もってきたタイミングで、梨乃さんが静かに言った。
「今度の土日、ちょっとだけ休まない? 温泉、予約したんだ。ふたりで行こう」
彼女の優しい笑みに、胸が熱くなった。
どこかで張っていた心の糸が、ふっと緩んだ気がした。
**
駅から電車に揺られて、山の方へ向かう。
周囲は紅葉が始まりかけていて、窓から入る風がどこか懐かしい。
旅館に着くと、部屋は畳の香りと柔らかい灯りが心地よく迎えてくれた。
「……わ、すごい。ちゃんと和室だ……!」
「でしょ。ね、浴衣もあるし、あとで一緒に着ようね」
梨乃さんがにこっと笑って、浴衣の入った籠を差し出してくれる。
そこには女性用と男性用、両方がそっと置かれていた。
「どっちにする?」と聞かれて、私は少しだけ考えて、小さく呟いた。
「……女の子の方、着てみたい」
「うん、似合うと思う。手伝うね」
**
ふたりで静かに着替える。
部屋の端に置かれた姿見の前で、浴衣の襟を整えてもらいながら、私は少し息を止めていた。
「肩、少し華奢になってきた気がするね」
「……そう、かな?」
梨乃さんは襟元を少しだけ直して、笑った。
「綺麗に見えるよ。女の子として旅館に来たって感じ、ちゃんとする」
その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。
旅館の静けさと、浴衣の軽さが不思議な安心感をくれた。
**
夜、ふたりで露天風呂へ向かう道すがら──
「ね、緊張してる?」
「うん……ちょっと。でも、一緒だから平気」
ぽつりと答えると、梨乃さんがそっと私の手を握った。
露天風呂は空いていて、ふたりきり。
湯けむりの向こうで、梨乃さんの白い肩が見えた。
見られてもいい──そんな気持ちになれたのは、たぶん彼女の視線が、どこまでもやさしかったから。
湯船の縁に並んで座って、夜風に髪をなびかせる彼女の横顔を、私はずっと見ていた。
**
夜の部屋。
静かに並べられた布団の間に、ふわりと彼女の香りが広がる。
「今日、すごく楽しかった。……ありがとう」
「こちらこそ。こうして一緒にいられるのが、うれしい」
私は布団の上で体を向け、そっと梨乃さんの手をとった。
指先が触れるたびに、少しずつ呼吸が深くなる。
──キスを交わした。やわらかくて、あたたかくて。
肩を撫でる指の動きも、まるで湯の中にいるように心地よかった。
言葉はいらなかった。ただ、ふたりの距離が、またひとつ深まったことだけは、確かだった。
実習の疲れが少しずつ積もってきたタイミングで、梨乃さんが静かに言った。
「今度の土日、ちょっとだけ休まない? 温泉、予約したんだ。ふたりで行こう」
彼女の優しい笑みに、胸が熱くなった。
どこかで張っていた心の糸が、ふっと緩んだ気がした。
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駅から電車に揺られて、山の方へ向かう。
周囲は紅葉が始まりかけていて、窓から入る風がどこか懐かしい。
旅館に着くと、部屋は畳の香りと柔らかい灯りが心地よく迎えてくれた。
「……わ、すごい。ちゃんと和室だ……!」
「でしょ。ね、浴衣もあるし、あとで一緒に着ようね」
梨乃さんがにこっと笑って、浴衣の入った籠を差し出してくれる。
そこには女性用と男性用、両方がそっと置かれていた。
「どっちにする?」と聞かれて、私は少しだけ考えて、小さく呟いた。
「……女の子の方、着てみたい」
「うん、似合うと思う。手伝うね」
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ふたりで静かに着替える。
部屋の端に置かれた姿見の前で、浴衣の襟を整えてもらいながら、私は少し息を止めていた。
「肩、少し華奢になってきた気がするね」
「……そう、かな?」
梨乃さんは襟元を少しだけ直して、笑った。
「綺麗に見えるよ。女の子として旅館に来たって感じ、ちゃんとする」
その言葉に、胸の奥がじんわり熱くなる。
旅館の静けさと、浴衣の軽さが不思議な安心感をくれた。
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夜、ふたりで露天風呂へ向かう道すがら──
「ね、緊張してる?」
「うん……ちょっと。でも、一緒だから平気」
ぽつりと答えると、梨乃さんがそっと私の手を握った。
露天風呂は空いていて、ふたりきり。
湯けむりの向こうで、梨乃さんの白い肩が見えた。
見られてもいい──そんな気持ちになれたのは、たぶん彼女の視線が、どこまでもやさしかったから。
湯船の縁に並んで座って、夜風に髪をなびかせる彼女の横顔を、私はずっと見ていた。
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夜の部屋。
静かに並べられた布団の間に、ふわりと彼女の香りが広がる。
「今日、すごく楽しかった。……ありがとう」
「こちらこそ。こうして一緒にいられるのが、うれしい」
私は布団の上で体を向け、そっと梨乃さんの手をとった。
指先が触れるたびに、少しずつ呼吸が深くなる。
──キスを交わした。やわらかくて、あたたかくて。
肩を撫でる指の動きも、まるで湯の中にいるように心地よかった。
言葉はいらなかった。ただ、ふたりの距離が、またひとつ深まったことだけは、確かだった。
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