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第45章:朝焼けの気配
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うっすらと明るくなったカーテン越しに、鳥のさえずりが聞こえてくる。
私は目を覚まし、すぐ隣にいる彼の寝顔をそっと見つめた。
まるで安心しきった子供のように、静かで、柔らかな呼吸。
薄い毛布の下から覗く肩のラインは、女性としての装いをしていても、どこか彼らしい、繊細なバランスの上にある。
──昨夜のキス。
あの深い時間が夢じゃないことを、そっと指先で確かめるように、私は彼の髪に触れた。
「……ん……梨乃、さん……?」
ゆっくりと目を開けた彼が、少しだけ寝ぼけた声で私を呼ぶ。
「おはよう。よく眠れた?」
「……うん。あったかくて……すごく」
頬がほんのり赤く染まっている。
私は笑って、「顔、ちょっと寝癖ついてるよ」と言いながら、彼の頬に手を添えた。
朝の空気は少し冷たくて、でも心は穏やかだった。
昨日までとは違う静けさが、ふたりの間に流れている。
**
「……ねぇ梨乃さん、」
朝食のトーストをかじりながら、彼がぽつりとつぶやく。
「……今日から、また“男の自分”として職場に戻るんだよね。なんだか……変な感じする」
「うん、でもね──それでも、もう私は知ってるよ。あなたがどんな気持ちで服を着て、声を出して、過ごしてきたのか」
私はマグカップを手にしながら微笑んだ。
「きっとね、女の子の姿でも、男の子の姿でも、あなたのこと、ちゃんと見てる人は見てる。私は、その中のひとりだから」
彼はゆっくりうなずいて、「ありがとう」と小さく呟いた。
**
そして数日後。
職場での実習が再開され、また白衣を着て、少し大きめのスニーカーを履く日々が始まる。
けれど、どこかで周囲の目が、以前と少し違うことに気づく。
「あれ? この前の週末、どこか出かけてた?」
「肌、なんかきれいになった?」
「……日焼け止め変えた?」
何気ない言葉が、彼をそっと揺らす。
でもそのたびに、ポケットにしまったリップバームや、バッグに隠している小さなミラーに、彼は心を落ち着ける。
「……大丈夫。私は、私でいればいい」
そうつぶやくように、彼は白衣の袖を通した。
私は目を覚まし、すぐ隣にいる彼の寝顔をそっと見つめた。
まるで安心しきった子供のように、静かで、柔らかな呼吸。
薄い毛布の下から覗く肩のラインは、女性としての装いをしていても、どこか彼らしい、繊細なバランスの上にある。
──昨夜のキス。
あの深い時間が夢じゃないことを、そっと指先で確かめるように、私は彼の髪に触れた。
「……ん……梨乃、さん……?」
ゆっくりと目を開けた彼が、少しだけ寝ぼけた声で私を呼ぶ。
「おはよう。よく眠れた?」
「……うん。あったかくて……すごく」
頬がほんのり赤く染まっている。
私は笑って、「顔、ちょっと寝癖ついてるよ」と言いながら、彼の頬に手を添えた。
朝の空気は少し冷たくて、でも心は穏やかだった。
昨日までとは違う静けさが、ふたりの間に流れている。
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「……ねぇ梨乃さん、」
朝食のトーストをかじりながら、彼がぽつりとつぶやく。
「……今日から、また“男の自分”として職場に戻るんだよね。なんだか……変な感じする」
「うん、でもね──それでも、もう私は知ってるよ。あなたがどんな気持ちで服を着て、声を出して、過ごしてきたのか」
私はマグカップを手にしながら微笑んだ。
「きっとね、女の子の姿でも、男の子の姿でも、あなたのこと、ちゃんと見てる人は見てる。私は、その中のひとりだから」
彼はゆっくりうなずいて、「ありがとう」と小さく呟いた。
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そして数日後。
職場での実習が再開され、また白衣を着て、少し大きめのスニーカーを履く日々が始まる。
けれど、どこかで周囲の目が、以前と少し違うことに気づく。
「あれ? この前の週末、どこか出かけてた?」
「肌、なんかきれいになった?」
「……日焼け止め変えた?」
何気ない言葉が、彼をそっと揺らす。
でもそのたびに、ポケットにしまったリップバームや、バッグに隠している小さなミラーに、彼は心を落ち着ける。
「……大丈夫。私は、私でいればいい」
そうつぶやくように、彼は白衣の袖を通した。
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