ランジェリー・コード

なな

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第二章:最初の朝、鏡の前の“わたし”

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佐伯優斗は、いつもの朝より三十分早く目を覚ました。緊張で眠れなかったのもあるが、それ以上に、今日から始まる“新しい自分”の準備が、頭から離れなかった。

ベッドの脇には、昨日会社から持ち帰った“女性としての一式”が同じ内容で3セット並んでいる。レースのあしらわれた白いブラとショーツ、ベージュのガーターベルトに薄手のストッキング。そして——

「……これが、コルセットか……」

艶のあるサテン地に、細いボーンが入ったピンクベージュのウエストシェイパー。タグには、〈エフェメール リュミエール・シルエットサポート〉と自社ブランドの名が光っていた。

優斗は、既に剃ってある身体をさらに剃り、シャワーを浴びてからボディクリームを塗って下着に手を伸ばした。まずはブラ。肩からかけて背中でホックを止める。ふわりと胸元にパッドが寄り添い、何かを“隠されている”感覚が生まれる。

次にショーツ。イチモツは後ろに回し込みガーターベルトを腰に巻き、ストッキングを太ももに引き上げて留める。滑るようなナイロンの感触に妙な快感が走る。自然と太ももを閉じてしまう。

そして最後に、コルセット。フロントホックを止め、背中の編み上げを鏡を見ながら少しずつ締めていく。ウエストが絞られ、吐く息が細くなる。だが、それが逆に、身体のラインに“意識”を与えてくれる。これも癖になる感触である。

「……これが“女性として着る下着”なんだな」

気づけば、姿勢まで変わっていた。背筋を伸ばさなければ苦しい。肩の動きも制限される。自然と仕草も慎重になる。

メイクは資料どおりに。ベージュのリキッドファンデーション、淡いブラウンのアイシャドウ、自然なピンクのリップ。まだ慣れてないが会社で指導されたことがいきている。ウィッグの前髪を整え、鏡の中に立っていたのは、すっかり“女性らしい”印象の人物だった。

――佐伯ゆう。

スーツは膝丈のスカートとノーカラージャケットのセット。ベージュ系に黒のパンプス。女性誌のOLスナップに載っていそうな、自然な通勤コーディネート。

しかし、玄関のドアを開けると、彼の鼓動は一気に跳ね上がった。

「……行くしか、ないか……」

通勤電車。誰も彼を疑っていない、はず。けれど、パンプスのヒール音、揺れるスカート、肩にかかるバッグの重さ。すべてが「女」としての動きを要求してくる。

“目立たないように、女らしくしなきゃ……!”

駅の階段では内股を意識し、吊革につかまる手も細く見える角度を選ぶ。前を歩くOLの姿を真似しながら、優斗は“佐伯ゆう”として、静かに都会の朝に溶け込んでいった。
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