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なな

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第十六章:背中のジッパー、女としての朝

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「……えっ、こ、これが、通勤服……?」

ロッカールームで支給された新しいスーツを目の前に、陸は言葉を失っていた。

ライトグレーのタイトスカートスーツ。ウエストが細く絞られたジャケットと、膝上ギリギリのスカート。そして、インナーには透け感のあるシフォンブラウス。
下に着けるブラが、うっすらと浮き上がってしまうほどの薄さだった。

「通勤時は、このセットね。下着は、白かベージュ限定。黒は透けちゃうから注意して」

沙織が笑顔で説明する。

「コルセットはもちろん着けるとして……今日は、この背中ジッパーのワンピースも試してみる? 補助が必要だから、私たちが手伝ってあげる」

「……あ、あの……背中、自分で閉められないって……」

「そう。だから、“誰かに締めてもらう”の。女の子の儀式みたいなものよ」

市川が、するりとドレスを取り出す。しなやかな黒いラインが身体に密着し、背中には深くジッパーが走っていた。

試着室。

ドレスに腕を通し、そっと脚を通す。コルセットの上から滑らかに生地が落ちていくと、全身が女の布に包まれる感覚がした。

「背中、いい?」

市川の指が、ゆっくりとジッパーを上げていく。
その動きに合わせて、ドレスが陸の身体にぴたりと貼りついていく。バスト、ウエスト、ヒップ。すべてが女として形づくられていく。

「……苦しくない?」

「う、うん……ちょっときついけど……」

「その“きつさ”が、女の証よ」

鏡に映る自分を見た瞬間、陸の息が止まった。
そこにいたのは、スーツドレスを纏い、ヒールで姿勢を整えた“誰か”だった。
唇は自然に色づき、ウエストは細く、スカートはきゅっとヒップを抱え込んでいる。
男の面影が、もう鏡の中には見つからなかった。

「……なんで……こんなに……ドキドキするんだろう……」

「見られる準備が整ったからよ」

沙織が囁く。

「外で誰かに“見られる”。そのときに、自分が“女として成立してるか”試される。だから……ドレスは、快楽でもあるの」

帰宅途中。

駅のホームで、ふと視線を感じる。
会社員の男たちが、ちらりとこちらを見ていた。

(気づかれてない……? それとも……)

スカートの裾が風で揺れる。レースのショーツが思い出される。コルセットが呼吸を強制する。

そのとき陸は、ほんの少しだけ、自分が“見られること”に……快感を覚えているのだと気づいた。

「……これが、“女として通勤する”ってことなんだ……」
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