ランジェリー・コード

なな

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第十五章:レースの奥にあるもの

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午後。開発部のフロアに戻った陸は、周囲の空気にひどく敏感になっていた。

コルセットがキュッと締まるたびに、腰が自然と引き締まり、背筋がまっすぐに伸びる。ブラのホックが肩甲骨の上できゅっと張っていて、レースのカップがシャツの内側で柔らかく胸を作っている。

そして、その全てが「制服の下にある」というだけで、意識はいやおうなしにそちらへ引き戻される。

「陸ちゃん、そのヒールの音、ちょっと軽すぎるわよ」

市川が横から声をかけた。

「女の子のヒールは、“自分が美しくあるための音”。焦って歩いたら、色気も何も吹き飛んじゃう」

「は、はい……!」

必死に膝を揃え、小さな歩幅でゆっくりと歩く。すると——コルセットが腰を支え、ショーツの布が太腿の内側をやさしく撫でた。
それだけで、身体が微かに震える。

「……んっ……」

自分が、下着ひとつでこんなに敏感になっているなんて。
隣を歩く優斗も、視線を感じたのか、小さく呟いた。

「わかるよ……最初は、“布一枚の違い”が、全部感覚にくるよね。とくにレース。あれは、甘くて……こわい」

「こわい……?」

「うん。心を女の子にしてしまう魔法みたいなもの。見られないのに、触れてくる。誰にも気づかれないのに、ひとりでに意識してしまう。……そういうの、たまらないって思う瞬間がくる」

陸はその言葉に、ぞくりとした。

夕方、更衣室の一角。

「……はあ、脱ぐの、もったいないな……」

勤務を終え、ブラウスを脱ぎながら呟いた自分に、驚いた。
こんな感情が湧くなんて思わなかった。下着が身体に馴染み、コルセットの締めつけが落ち着きに変わり、ショーツのラインが“私のもの”になっていた。コルセットだけ脱がすに残した。

フロアに出ると背後から、沙織がそっと声をかけた。

「……陸ちゃん、可愛かったよ。今日の歩き方、姿勢、全部。最初の一日でそこまで仕上げてきたなんて、ちょっとびっくり」

「えっ、ほんとですか……?」

沙織は微笑む。そして、手のひらでそっと陸が着たままのウエストのコルセットに触れた。

「この締まり方……気持ちよかったでしょう?」

「…あ…はい……ちょっと、癖になりそうで……」

「ふふ。次は、あなたに“背中のジッパー”を着させたいわね。自分じゃ脱げない、他人にしか開けてもらえないドレス。そういう拘束感も、女の子ならではでしょ?」

「……っ」

身体の奥がずくん、と疼いた。
自分がもう、“男としての感覚”では測れない世界に、足を踏み入れているのを感じる。
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