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第1部:スーツの中のワタシ
第二十章:このままで会いたい
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週明け。講義中の教室。ノートを開いていても、ペンを握っていても、文字はまるで頭に入ってこなかった。
何度スマホを開いても、画面に表示されるのは、たった一通のメッセージ。
「また……会いたいです」
河合の、なおへの言葉。
(このまま、“なお”として会い続けたら……)
嘘をついていることになる。
でも、嘘というにはあまりに、今の“なお”が“私”だった。
美月に相談すると、彼女はカフェラテを片手にあっさりと言った。
「うん、会えばいいと思うよ」
「……でも、私、“男”なのに……」
「それでも、河合さんが“なお”を見て、会いたいって言ってるなら、
それは“なお”として見てるってことだよね?」
「……気づいてるかもって、思うこともある」
「だったらなおさら。
自分から壊すことないよ。バレて嫌われるより、バレないままで優しくされるほうがいいこともある」
「……それって、逃げてるって思わない?」
美月は少しだけ、いたずらっぽく笑った。
「逃げてる自分に、正直でいられるなら、それも“自分らしさ”なんじゃない?」
夕方。なおは、一通の返信を打ち込んでいた。
「よければ、来週お会いできませんか?」
「……仕事先の近くに、落ち着いた喫茶店があります。
私もそこ、好きなので」
震える指先で送信を押す。
それは、“なお”としての自分の選択だった。
待ち合わせの日。
なおはいつもより早く支度を始めた。
ワンピースの裾を撫でながら、下着とストッキングの重なりを確認する。
ヒールを履いて、音を確かめる。
鏡に映るのは、いつものバイト仕様ではない“私服のなお”。
「……いってきます」
自分自身に小さくつぶやくようにして、ドアを閉めた。
喫茶店に着くと、河合はすでに席についていた。
入口のドアをくぐると、彼がこちらを見上げて、穏やかに笑った。
「こんばんは。……来てくれて、嬉しいです」
その笑顔は、今までと何も変わらなかった。
そして、やっぱり優しかった。
「今日は……仕事じゃなくて、こうして会えたから」
なおの心が、ひとつだけ、ふるえてほどけた。
(このままで、会っていたい)
このまま、女の子として。
“なお”として、彼の隣にいたい――その気持ちが、確かな輪郭を持ちはじめていた。
何度スマホを開いても、画面に表示されるのは、たった一通のメッセージ。
「また……会いたいです」
河合の、なおへの言葉。
(このまま、“なお”として会い続けたら……)
嘘をついていることになる。
でも、嘘というにはあまりに、今の“なお”が“私”だった。
美月に相談すると、彼女はカフェラテを片手にあっさりと言った。
「うん、会えばいいと思うよ」
「……でも、私、“男”なのに……」
「それでも、河合さんが“なお”を見て、会いたいって言ってるなら、
それは“なお”として見てるってことだよね?」
「……気づいてるかもって、思うこともある」
「だったらなおさら。
自分から壊すことないよ。バレて嫌われるより、バレないままで優しくされるほうがいいこともある」
「……それって、逃げてるって思わない?」
美月は少しだけ、いたずらっぽく笑った。
「逃げてる自分に、正直でいられるなら、それも“自分らしさ”なんじゃない?」
夕方。なおは、一通の返信を打ち込んでいた。
「よければ、来週お会いできませんか?」
「……仕事先の近くに、落ち着いた喫茶店があります。
私もそこ、好きなので」
震える指先で送信を押す。
それは、“なお”としての自分の選択だった。
待ち合わせの日。
なおはいつもより早く支度を始めた。
ワンピースの裾を撫でながら、下着とストッキングの重なりを確認する。
ヒールを履いて、音を確かめる。
鏡に映るのは、いつものバイト仕様ではない“私服のなお”。
「……いってきます」
自分自身に小さくつぶやくようにして、ドアを閉めた。
喫茶店に着くと、河合はすでに席についていた。
入口のドアをくぐると、彼がこちらを見上げて、穏やかに笑った。
「こんばんは。……来てくれて、嬉しいです」
その笑顔は、今までと何も変わらなかった。
そして、やっぱり優しかった。
「今日は……仕事じゃなくて、こうして会えたから」
なおの心が、ひとつだけ、ふるえてほどけた。
(このままで、会っていたい)
このまま、女の子として。
“なお”として、彼の隣にいたい――その気持ちが、確かな輪郭を持ちはじめていた。
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