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第1部:スーツの中のワタシ
第四十章:名前を呼ばれる未来
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休日の午後。
なおは、河合と一緒に公園を歩いていた。
春の風が吹き抜け、なおの髪がそよぐ。
淡いベージュのワンピースに、リップは柔らかなピンク。
ヒールの低いパンプスが足元で軽やかな音を立てる。
誰が見ても、“なお”はそこに“女性として”存在していた。
でも、なおは知っている。
この身体が男であることも、
この服が“選び取ったもの”であることも。
そして、それを隣を歩く河合はすべて受け入れてくれていることも。
「……ねえ、河合さん」
「うん?」
「私、これからも“なお”として生きていく。
男の名前も身体も変えないけど、それでも……“なお”って呼ばれていたい」
河合は立ち止まり、まっすぐその目を見た。
「俺も、ずっと“なお”って呼んでいきたい。
男でも女でもなく、“なお”という人として、
そばにいたいって思ってる」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。
数日後。
大学の仲の良い友人たちとランチをしていたとき、里香がふいに言った。
「なお、って呼んでもいい?」
「……え?」
「なんかさ、今の“直人”より、“なお”って呼ぶほうがしっくりくる気がして」
少しだけ周囲の空気が緊張する。
でもなおは、ゆっくりと頷いた。
「……うん。ありがとう。
私も、そう呼ばれるほうが、素直に嬉しいかも」
その場の空気が、ゆるやかにほどけた。
誰も責めなかった。
誰も驚かなかった。
ただ、“なお”という名前が、当たり前のように受け入れられた。
その夜、日記アプリにそっと打ち込んだ。
「私は、男でも女でもなく、“なお”として愛されたい。
その願いは、今、叶いつつある」
「もう隠すことよりも、“見せていくこと”のほうが自然になった」
「鏡の中にいるのは、男の身体を持ったまま、
女の子として愛されている私。
それを誇っていいと思える今がある」
「ありがとう。“なお”って、呼んでくれて」
夕暮れ。
河合と並んで歩く帰り道。
ふいに名前を呼ばれた。
「なお」
その一言に、心がゆっくりとほどけていく。
なおは笑って、少しだけ涙ぐんで、言葉を返した。
「うん、呼んで。
これからも、ずっと」
そして、二人は静かに手を繋いだ。
“なお”として愛され、
“なお”として生きていく――そんな未来へ。
なおは、河合と一緒に公園を歩いていた。
春の風が吹き抜け、なおの髪がそよぐ。
淡いベージュのワンピースに、リップは柔らかなピンク。
ヒールの低いパンプスが足元で軽やかな音を立てる。
誰が見ても、“なお”はそこに“女性として”存在していた。
でも、なおは知っている。
この身体が男であることも、
この服が“選び取ったもの”であることも。
そして、それを隣を歩く河合はすべて受け入れてくれていることも。
「……ねえ、河合さん」
「うん?」
「私、これからも“なお”として生きていく。
男の名前も身体も変えないけど、それでも……“なお”って呼ばれていたい」
河合は立ち止まり、まっすぐその目を見た。
「俺も、ずっと“なお”って呼んでいきたい。
男でも女でもなく、“なお”という人として、
そばにいたいって思ってる」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなった。
数日後。
大学の仲の良い友人たちとランチをしていたとき、里香がふいに言った。
「なお、って呼んでもいい?」
「……え?」
「なんかさ、今の“直人”より、“なお”って呼ぶほうがしっくりくる気がして」
少しだけ周囲の空気が緊張する。
でもなおは、ゆっくりと頷いた。
「……うん。ありがとう。
私も、そう呼ばれるほうが、素直に嬉しいかも」
その場の空気が、ゆるやかにほどけた。
誰も責めなかった。
誰も驚かなかった。
ただ、“なお”という名前が、当たり前のように受け入れられた。
その夜、日記アプリにそっと打ち込んだ。
「私は、男でも女でもなく、“なお”として愛されたい。
その願いは、今、叶いつつある」
「もう隠すことよりも、“見せていくこと”のほうが自然になった」
「鏡の中にいるのは、男の身体を持ったまま、
女の子として愛されている私。
それを誇っていいと思える今がある」
「ありがとう。“なお”って、呼んでくれて」
夕暮れ。
河合と並んで歩く帰り道。
ふいに名前を呼ばれた。
「なお」
その一言に、心がゆっくりとほどけていく。
なおは笑って、少しだけ涙ぐんで、言葉を返した。
「うん、呼んで。
これからも、ずっと」
そして、二人は静かに手を繋いだ。
“なお”として愛され、
“なお”として生きていく――そんな未来へ。
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