超短編恋愛小説集

Mitsuru

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雨の日

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 今日は朝からずっと雨だ。梅雨だからっていうのもあるんだろうけど、やっぱり雨は苦手だ。
 放課後になり、いつも一緒にいる友だちと昇降口で別れて、僕は一人空を見上げた。暗くて重い空が山の奥まで続いていて、一向に止む気配がなかった。
 僕も帰ろうと傘立てを探すけど、そこにあるはずの傘がなかった。きっと誰かが間違えてもって帰ったんだろうと思い、仕方なくバックを傘がわりに昇降口を出る。でもバックにも限界があるようで、すぐに服は濡れて靴の中もびしょびしょだ。唯一髪だけは濡れなかったけど、こんなに濡れていたら意味もない。
 小走りでバス停に逃げ込み、カバンの水を払い落とした。
 雨が止むのを待とうにも、ずっとここにいては風を引いてしまう。バス停のベンチに座り、車道の方を眺めた。同じ傘に入って帰る男女や、僕のように傘がなくて走る男子が反対側の歩道を走っている。
 あんまり長居するのも良くないからと立ち上がる。
「あれ、聡くん?」
 その声に振り返ると、そこには同級生の小柳さんが傘を差して立っていた。黒くながい髪に、やっぱり猫みたいなつぶらな瞳。でもちょっと遠くをみているようで、いつも不思議だ。
 僕と小柳さんは幼稚園から一緒で高校も同じ、家も近いしクラスでもよく話す。こういうのを幼馴染っていうのかなって、時々考える。
「家近いのにバスで帰るの?」
 不思議そうに首を傾けてこちらを見つめる。
「そうじゃなくて、僕の傘を誰かが間違えちゃったみたいで、ここで少し雨宿りしてたんだ」
 そう言って頭をかく。
「私の傘、入る……?」
 唐突にそんなことを言い出す小柳さんの顔は至って真面目で、いつもと変わらない目をしている。でもずっと一緒にいる僕にはわかるんだ。小柳さんが笑っていることを。クラスの友達には、「なんで分かるんだ……?」と不思議がられるけれど、わからないほうがおかしいと思う。
 僕はそのお誘いを受けようとしたけど、真剣に考えてみたらこれは”相合い傘”になると気づいた。そんなことで僕が迷っていると、小柳さんが小さな口を開いた。
「もしかして、嫌……?」
「え、あ、いやそうじゃなくて……!」
 悲しげな顔で見つめる小柳さんには勝てなくて、結局傘に入れてもらうことになった。
 けど、
「あ、」
 たまたま吹いた強風が小柳さんの傘をさらって、どこか遠くへ飛んでいく。
「どうしよう……」
 あわあわと慌てる小柳さんだったけど、すぐ冷静さを取り戻して僕の横に座った。
「聡くん、こうなったら家まで走るしか無いよ……」
「ええ……」
 そう言われてもこのバス停から家まで1キロはあるから、体力が無い僕には無理なことだ。
「よし……!」
 なにかを決意した小柳さんは、勢いよく立ち上がった。
「負けたほうがジュース奢るね。よーい……どん……!」
 僕の意見も聞かないで、小柳さんは雨の中に飛びこんだ。
「それはずるいよ!」
 僕もその背中を追うように雨の中へと飛び込む。
 服が濡れて体にへばりつくけど、走るときの暑さと雨の冷たさがいい塩梅で、不快には感じなかった。
 別に濡れたっていっか。
 雨の中を走るのも案外気持ちよくて、無意識のうちにそう思ってしまう。
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