超短編恋愛小説集

Mitsuru

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熱帯夜

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 ふと勉強中の手を置いて窓の外を見上げると、空一面に広がる星がキラキラと輝いていた。その景色につられて窓を開けると、鈴虫の鳴き声が響いて更に夏を加速させる。
 エアコンの付いた部屋とは違って外は暖かく、手を出すだけで汗ばんだ。
 ノートを閉じて部屋の電気を消し、一階に降りる。
「少し出てくる」
 お母さんに一言だけそう伝えて、玄関を出た。
 今年は夜でも暑い日が多いと、去年と比べて思う。
 夜のはずなのに空は明るくて、ライトがなくても歩けるほどだった。
 少し住宅街を歩くと、公園の隣に明るく光を放つ建物があった。コンビニだ。今年はあまり行くことができなかったけど、毎年夏になるとこうやってコンビニに寄り、隣の公園でアイスをを食べるのが日課だった。
 自動ドアをくぐると涼しい空気が体を包み、立ち止まってしまう。少し空気を味わうとまた歩き出して、奥のアイスコーナーへ向かう。
 この時間になるとやっぱり客はいなくて、店員さんと俺だけだった。
 毎年夏になるとアイスのラインナップが変わる。夏季限定のスイカ味のアイスとか、各企業が力を入れてくるから面白い。ふと見つけた初めて見るアイスを手に取り、レジへもっていく。
「これ、お願いします」
 レジにアイスを置いて財布を開く。
「あれ、唯斗?」
 財布から顔を上げると、見覚えのある顔がそこにはあった。
「千鶴……?」
 同じクラスの早千鶴だった。あまり笑わない俺と違って天真爛漫でいつも元気なやつだ。でもこんな俺にでも軽く接してくる、そんな千鶴にいつからか憧れを抱いていた。
「なにしてんの、こんなところで」
「バイトに決まってるじゃん」
 今にも語尾に星がつきそうな勢いで言うが、そんな誇れることじゃないぞ千鶴。
 なんせ、
「俺等の高校ってバイト禁止だぞ」
「え、ええ、そうなの……?」
 いかにも知らなかったという感じで、顔が青ざめていく。
「でも最近始めたばっかだからなあ……、そんな簡単に辞めれないし……」
「まあ別に言わないでおくよ。そんな心配すんな。それに学校から近いわけでも無いし、先生に見つかることは早々ないだろ」
「ほんと……!? バレたのが唯斗でほんとによかったよぉ」
 そう言いながら抱きついてくる。
「ちょっ、やめろって……」
 ったく、こいつは誰にでもこんなことをするのか……? ていうか女の子って柔らかいな。いい匂いもするし、ずっとこのままでいたいけど……。
「あの……、他の店員さんも見てるから辞めてくれないか……?」
 流石にこの気まずそうな視線には耐えられなかった。
 すぐに離れた千鶴は意外にも赤面していて、いつもは見れない表情だったからちょっと嬉しかった。
「えっと、合計で153円です……」
 財布から200円と3円を取り出し、千鶴に渡す。
「50円のお返しです」
 まだ赤面している千鶴はレシートと50円を俺の手のひらにのせる。
「えっと、なんだっけ……、そうだ……、あ、ありがとうございましたっ」
 マニュアル通りに頭を下げるが、やっぱりぎこちない。
「あ、そうだ……。唯斗! もうすぐバイト終わるから隣の公園で待っててくれないかな。ほら、夜道を女の子だけで歩くのは危ないでしょ?」
「うんわかった。待ってるよ」
 そう言って、コンビニをあとにする。
 
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