カイルくんの愛の冒険

松田夕記子

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(3)じゃあ、私が忘れさせてあげるよ

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 おれはへとへとになって、ひと息ついた。
 ――いったいどこまできただろうか。こんなところ、知らないな。

「やあ、見かけない顔だね。どこからきたの?」
 そこにいたのは、落ち着いた大人の男だった。
 べつに、ケンカを売ろうってわけじゃないようだった。

 おれは素直に地名を答えた。
「へえ、ずいぶん遠くからきたんだね。そこの話をきかせてよ。ああ、私は斑鳩いかるがというんだ」
 斑鳩は、おれを食事に誘った。
 美味しいメシが食べられるところがあるんだそうだ。

 おれは彼と食事しながら、話をした。
「おれがいたところは、珍しい場所じゃないですよ。どこにだってあるような街だ」
「それはここだって同じだ。君はなぜここに? 恋のお相手でも探しにきたのかい?」

「そ、そんなんじゃ……」
 おれは入鹿とのことを思い出して、ついうわずった声を出してしまった。

「どうしたんだい?」
 優しい声だ……。
 斑鳩は、おれにとってまったくの初対面だ。だからこそ、話せることもあるのだろう。
 おれは、彼にこれまでのことを打ち明けていた。

「へえ、君が練習台にね」
「遊びのようなものだって、思ってたんだ。でも、あの時以来、入鹿のことが忘れられなくなって……」

「じゃあ、君はどうしたいんだい。彼とカップルになりたいの?」
「いや……それはできないよ。だってあいつは、女のことしか頭にないんだ。おれのことなんて、単に、女の代わりでしかないんだ」
「じゃあ、私が忘れさせてあげるよ」
 斑鳩は、おれにそっと触れた。

「そ、そんなっ! だって、おれたち、まだ会ったばっかりだし」
「いいじゃないか、その彼とは親友だったようだね。でも、彼は君のことを何もわかっていないだろう?」

 斑鳩は、痛いところをついてきた。
 そうだ。結局おれの気持ちは、入鹿には通じていないんだ。

「さあ、どこか二人きりになれるところへ行こうか」
 おれは斑鳩に誘われるがまま、その後についていった……。

 おれは行為の前に、斑鳩に尋ねてみた。
「どうしてこんなことを? あなたなら、女には不自由しないでしょう」
「私はちょっと変わっててね。男のほうがいいんだよ」
 そういう人がいると、聞いたことはあった。でも、おれがその人とこんなことをしているなんて……。

「さあ、リラックスして」
「い、斑鳩さん、待って……」
「きれいだよ、カイルくん」
 彼はおれにささやく。ああ、その甘い声。
 おれはまるで、自分が本当に彼のパートナーにでもなったかのように感じた。

「ほら、私に任せて。体の力をぬいて」
「えっ、ちょっ、そんなことまで……だめだっ!」
「どうして? 私のことがきらい?」

「だって、おれは女じゃないのに……」
「言っただろう。私は男とこうするのが好きなんだ」
「ああっ……」

 彼の大人としてのテクニックはすごかった。入鹿とのことなんて、ほんのお遊びだった。
 
 おれは行為が終わったあと、けだるい体を彼にもたせかけて、尋ねた。
「ねえ、これって何ですか……やっぱり、ただの遊び? 恋愛ごっこ?」

「さあ、どうかな」
 斑鳩さんは意味ありげにほほえむ。
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