カイルくんの愛の冒険

松田夕記子

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(4)おれはいったいどうしたいんだ。何を求めてるんだ?

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 それからおれは、彼の世話になることになった。前にいた街なんて、もう未練はない。あそこにいたら、また入鹿と顔を合わせるかもしれないし。

 斑鳩さんは、おれのことをたっぷりかわいがってくれる。まるで本当の恋人同士みたいだ。
 他の人たちも、おれを斑鳩さんの新しい恋人だって思ってるようだ。こんな生活も悪くないかな。

 ――だけど、なんだか物足りない気がする。いったいどうしてだろう。
 そう思っていた時だった。

「カイル? カイルなのか?」
「入鹿……」
 おれの目の前に現れたのは、あの懐かしい入鹿だった。

「どこへ行ってたんだ? いきなり失踪して!」
「そんなたいしたことじゃないだろ」
「だって! 心配したんだぞ。せめて、一言ひとこといってからにしろよ」
 それで、おまえが女と一緒にいるところを祝福しろっていうのか。ふざけんなよ。

「関係ないだろ」
 おれは、自然と冷たい態度になってしまった。
「だって、ぼくたち親友だろ?」
 入鹿は哀れっぽい声でいう。

 おれはちょっとかわいそうになって、こうつけ加えた。
「恋人を探しにきただけだよ」
「やあ、カイル。ここにいたのかい」
 そこへ、ちょうど斑鳩さんがやってきた。

「やあ、はじめまして。カイルの友人かい?」
 斑鳩さんは気さくにいいながらも、入鹿に警戒の視線を向けているようだった。入鹿はいった。

「あんた、誰だよ?」
「私は、カイルのパートナーだよ」
 入鹿だって、その言葉が意味するところを知らないわけではない。

「……カイル、本当なのか!」
「ああ、そうだよ」
 今さら隠したって仕方がない。おれは真実を告げた。

「どうして! カイルはぼくのものだろ?」
「はあ?」
 おれは入鹿の言葉に首をかしげた。
 おまえはおれを、女の練習台にしただけじゃないのか。

「ぼく、カイルと離れてから、どれだけカイルが大切な存在だったのかがわかったんだ。戻ってきてくれ!」
 今さら、そんなこといわれたって……。

「残念だが、それは無理だね。カイルくんは私のパートナーになったんだから」
 入鹿は「ウソだと言ってくれ」とでも言いたげに、おれを見る。
 だが、おれは何も答えられない。

「きさまっ、よくもカイルを!」
 入鹿は、斑鳩さんをにらみつけた。
「君が女にうつつを抜かしているから、悪いんだろうが?」
 斑鳩さんは、皮肉っぽくいった。
「だからって、カイルがこんなオヤジと……ちくしょうっ!」
 入鹿はわめいて、斑鳩さんに殴りかかろうとした。

 斑鳩さんはそれを見越していたかのように、入鹿をはねとばした。
「やめてくれっ!」
 ああ、二人の男がおれをとりあってる。まさかこんなことになるなんて……。

「カイルくん、君はどちらを選ぶんだ?」
 斑鳩さんは、語気するどくおれに質問した。

「君が、前の男に未練があるのは知っていた。だが、私と君はもうパートナーになったじゃないか。そろそろ、過去をふっきってくれないかね」
「カイル! ぼくが悪かった。もう女なんてどうでもいいんだ。ぼくにはカイルだけだから……」

 ――ああ、おれはどうしたらいいんだろう。
 斑鳩さんといる? 確かに、それも悪くはない。だけど、何か物足りないものを感じていたのも事実だ。
 じゃあ、おれはやっばり入鹿が好きなのか。斑鳩さんを捨てて、入鹿のもとに戻る……それも何か違うような気がした。
 おれはいったいどうしたいんだ。何を求めてるんだ?

「カイル!」
 二人の声がする。ああ、あんな練習なんてしなければよかった。
 おれは、彼らとの夜を思い出すと、自分のなかで、どうしようもない情熱がたかぶってしまう。
 本当は、もっと激しく……。

 ――そうだ! 
「わかったよ。じゃあ、確かめたいことがあるんだ」
「言ってくれ!」
「なんだね?」
 彼らは、真剣な目でおれを見た。

「どうして、おれがいつでも受けなんだ? たまには交代したっていいだろう? 今度はおれが攻めだ!」
「ええっ、それはちょっと……」
「カイルくん、いきなり何を?」

「成り行きでそういうことになったが、いつも何か物足りない気持ちを感じていたんだ。今、わかった。きっと、おれは攻めのほうが合ってるんだよ」
「落ち着きたまえよ」

「イヤだっていうんなら、どっちの元にも帰らない! 新しい恋人を探すから」
「わ、わかったよ」

 入鹿と斑鳩さんは、しぶしぶながらおれの言う通りにした。
 そしておれたち三人は熱い夜を過ごし、おれは、今までにない喜びを得た。
 そう、おれが本当に望んでいたのは、こういう愛の形だったんだ……。
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