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(5)いつも三匹いっしょです
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――オーストラリアにて、イルカの生態に関する発表が行われた。
一人の学者が登壇して、自分たちの発見の概要を述べる。
「さて今回、我々はイルカの繁殖行動において、特異な点を発見しました。若い頃、社会的な遊びをしていたイルカほど、メスとの交尾の成功率が高かったのです。
その遊びとは、オス同士での交尾の疑似体験です。オス同士は、どちらかをメス役として、交尾の練習をします。
それによってコミュニケーション能力が磨かれ、交尾時の声のリズムの調子が一定になるようです。
我々の人間社会でも、若い時に遊んでいた人物のほうがコミュニケーション能力が向上すると言われています。このイルカたちの様子は、それと似たことなのではないかと考えます」
それに対して、女性の学者が異議をとなえた。
「その遊びとは、オス同士での交尾ごっこのことでしょう。古代ギリシア・ローマ時代ならいざしらず、その比喩をそのまま我々の人間社会にあてはめるのは、無理があるのでは?」
「ま、まあ、そうかもしれませんが……」
「また、我々のグループでは、オスの個体Aが、オスBと交尾ごっこでメス役になった後、べつのオスCのパートナーになり、さらに今度はAが、BとCをメス役にしているケースを発見しました。
ですので、交尾ごっこ=メス獲得の手段と断じるのではなく、我々の社会と同様、多様な性的価値観があらわれていると見たほうがいいのではありませんか」
「そ、そうですね。今後の継続的な観察が必要でしょう……」
「ちなみに我々が発見したイルカの個体Aは、その後もBとCと、継続的な関係を結んでいるようです。いつも三匹いっしょです。主にはAがオス役ですが、時々はメス役を引き受けることもあります。これはイルカとしては、たいへん珍しい関係性ですね」
「ではその結論は?」
「一度や二度の交尾では、自分の性的アイデンティティはわからない。人もイルカも、さまざまに試行錯誤をして、自分自身を発見していくのでしょう」
――三匹のイルカは、海でくんずほぐれつ、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
おしまい
一人の学者が登壇して、自分たちの発見の概要を述べる。
「さて今回、我々はイルカの繁殖行動において、特異な点を発見しました。若い頃、社会的な遊びをしていたイルカほど、メスとの交尾の成功率が高かったのです。
その遊びとは、オス同士での交尾の疑似体験です。オス同士は、どちらかをメス役として、交尾の練習をします。
それによってコミュニケーション能力が磨かれ、交尾時の声のリズムの調子が一定になるようです。
我々の人間社会でも、若い時に遊んでいた人物のほうがコミュニケーション能力が向上すると言われています。このイルカたちの様子は、それと似たことなのではないかと考えます」
それに対して、女性の学者が異議をとなえた。
「その遊びとは、オス同士での交尾ごっこのことでしょう。古代ギリシア・ローマ時代ならいざしらず、その比喩をそのまま我々の人間社会にあてはめるのは、無理があるのでは?」
「ま、まあ、そうかもしれませんが……」
「また、我々のグループでは、オスの個体Aが、オスBと交尾ごっこでメス役になった後、べつのオスCのパートナーになり、さらに今度はAが、BとCをメス役にしているケースを発見しました。
ですので、交尾ごっこ=メス獲得の手段と断じるのではなく、我々の社会と同様、多様な性的価値観があらわれていると見たほうがいいのではありませんか」
「そ、そうですね。今後の継続的な観察が必要でしょう……」
「ちなみに我々が発見したイルカの個体Aは、その後もBとCと、継続的な関係を結んでいるようです。いつも三匹いっしょです。主にはAがオス役ですが、時々はメス役を引き受けることもあります。これはイルカとしては、たいへん珍しい関係性ですね」
「ではその結論は?」
「一度や二度の交尾では、自分の性的アイデンティティはわからない。人もイルカも、さまざまに試行錯誤をして、自分自身を発見していくのでしょう」
――三匹のイルカは、海でくんずほぐれつ、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
おしまい
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