14 / 158
序章「魔人の在り方~運命の夜明け~」
序章 第十三話「再会」
しおりを挟む
エルキュールが飛び出していった後のヌール広場にて。
「君ねえ……勝手な判断はやめてくれないか。どうして勝手に彼を行かせたんだ、今は他に優先するべきことが――」
急展開を前にそれまで呆然としていた騎士が、グレンを窘めようとする。
当然のことだ。
ここにいる市民の数は二十。ここに置いていくわけにもいかないので、他の市民を探しに行くのなら当然彼らの安全を確保するのが前提となる。
対して戦える人員はグレンを入れて四人。本当ならエルキュールにも協力を仰ぐべき状況なのだ。
「ああ。市民を守る――騎士に課せられた使命の一つ、だろ?」
「だったらどうして……」
食い下がる騎士に、グレンは頭を掻いた。詳しく説明をしたいところだったが、時間はない。
諦めたように息をつき、グレンは懐から何かを取り出し、騎士の連中の目の前に示した。
「そ、それは……その家紋はまさか……!?」
グレンが取り出したのは首飾りであった。金色の細い鎖に深紅の楕円形の宝石。恐らくは火の魔鉱石を精錬したものだろう。
それだけでも凡庸な首飾りではないことが窺えるが、その首飾りの価値はそれだけに止まらない。
宝石の中央には剣を象ったような紋章のようなものが刻まれており、それこそが騎士の吃驚をもたらした原因であった。
「これに免じて、ここはオレの指示に従ってくれないか?」
「……ええ、理解しました。これは心強いです、まさか貴方が彼の有名な――」
「いいって、オレ自体はそう大層なモンじゃねえ」
騎士たちの高揚を抑え、グレンはその目に真剣な色を宿した。
「とりあえず、そうだな……街の外に住民を逃がす班と、街中の逃げ遅れてる住民を探す班に分かれるぞ。っと、お前は……」
「私はソーマと言います。こちらはヘルツとティック」
今までグレンと会話していた騎士――ソーマが手短に紹介する。金髪で小柄な騎士がヘルツ、整えられた髭が目立つ騎士はティックというようだ。
グレンは自らの名前を名乗ると、続けてこう説明した。
「よし、ソーマとヘルツはこのまま住民を連れて街の外へ。門を出たら、念のため上空に応援要請用の信号弾を放て。まあ、あのザラームとかいう野郎の演説のせいで無用かも知れねえが……」
「ええ、承知しました」
「了解であります」
グレンの指示にソーマとヘルツはそれぞれ首肯した。
「ティックはオレと街の捜索だ。……確認だが、お前ら以外の騎士の詳しい配属は分かるか? できればそこ以外を優先して探してえからな」
「分かるっすけど……あまり意味はないと思うっす」
グレンの考えは尤もだったが、対するティックは芳しくない表情であった。
意味はない、というのはどういうことか。グレンは眉をひそめてティックに説明を求めた。
曰く、この一週間の間で多くの騎士がミクシリアに召集されたという。王都での魔人が現れたという騒ぎのためだというが、その影響で最近の騎士の配置は通常時のものから大きく変更せざるを得なかったという。
「ちっ……なんてタイミングだよ……仕方ねえ、人が集まりそうな場所から回るしかねえな」
苦虫を噛み潰した表情でグレンは呻いた。ともあれ、今はできることをするしかない。全てが突然のことであったので、周到に立ち回ることは難しい。
「よし、お互いそれで行くぞ!」
頭を切り替え、グレンは騎士の三人に確認をとる。その妙に洗練された要領に、三人は感心しながらも頷いたのだった。
◇◆◇
ヌール広場を飛び出したエルキュールが向かっていたのは、ヌールの中心に位置する中央区であった。
先ほどザラームが映っていた映像の街並みは、ちょうどこの辺りの景色だったはずだ。
目標はそう遠くない――エルキュールは確信を抱き、ふと立ち止まった。
ここまで来るうちに、ザラームの演説は終わっているかもしてない。そうであるならば、彼は既に移動を開始していることだろう。
ザラームは「リーベへの反逆」とのたまいていた。その時の彼の熱が、未だエルキュールにこびりついて離れない。
この世界に魔物の自由な権利は無いに等しい。長い歴史の中で、リーベは自らの脅威となるイブリスを排除してきた。それが自然なことだという思想が遍く流布されてきたのだ。
きっとザラームは、徹底的にこの街を破壊するだろう。自分たちの同朋が、そうされてきたように。
そのために自らも何らかの行動を起こすはずである。
そう推察し、エルキュールは魔素感覚を研ぎ澄ませた。元々は魔法を効率よく使うための技術であるが、今は周囲の魔素の流れを読み異常がないかを探る。
「――ダメだ、魔獣が多すぎるのか全く分からない」
思い通りにいかない結果に、エルキュールは歯噛みする。魔獣に備わる魔素質が発する魔素しか検出できなかったのだ。これだけ混濁としていると、ザラームの痕跡があったとしても把握することは不可能だろう。
一体どれだけの魔獣が放たれればこんなことになるのか、想像も付かない。
魔素感覚による探知が無意味だと分かった以上、エルキュールに残されたのは直接自分で探索するという地道な選択肢のみだった。
エルキュールは再度脚に力を込めて走り出そうとしたが、それとほぼ同時、彼方から重い低音が空気を震わしたのを感じた。
それだけなら家屋が崩壊した音にも思えたが、どうやら違う。その音は単発に終わらず、一定の間が空いた後再度エルキュールの耳を刺激した。
何かの爆発音ともとれるその音に伴い、強烈な光も明滅していた。これはただ事ではあり得ない。
「あの方角は……ヌール伯邸か?」
その先はヌールの中央にある中央区の、さらにその中心に位置しているヌール伯の邸宅の方角であった。
当たりをつけたエルキュールは、すぐに目的へと急行する。
道を左手に曲がると、さらに酷い光景が広がっていた。
その道中は動かなくなった魔獣の骸や瓦礫の数々が散乱し、とてもじゃないがまともに通行できたものではなかった。
この惨状から察するに、魔獣どもは人の多い中央区に集まってきているようだった。多くの人間を汚染することができる効率的な動きの裏に、人為的な誘導が透けていた。これもザラームの仕業なのだろうか。
ただ、ここ一体の魔獣は既に生命活動を終えているようだ。数刻前にはここで騎士が戦っていたのは明らかだった。
突然の魔獣の襲来で、騎士たちの統率は取れてはいないものの、この様子だと各自で出来ることを為しているのかもしれない。
幾ばくかの安心を得たエルキュールは、悪路に構いもせず障害となるものを飛び越えて、もしくは自身の得物であるハルバードで薙ぎ払いながら突き進む。
そうして何個目かの角を曲がると、周りの住居よりも一際大きいヌール伯の邸宅が目に入る。
それと同時に理解する。先ほどの爆発音と思しきものの正体を。
「ウオオォォ……」
「あはあ、お兄さんすごいねえ。もうこんなに魔力を制御できるようになって……でも、知性がないのが残念かなあ?」
邸宅の前にいたのは二つの人影。
一つは白い装束を纏ったダークピンクの髪の少女。二つに結われたその片方を手で遊びながら、もう一人の影に対して軽口を叩いている。
もう一つはおよそ人間とは思えない呻き声をあげ、ただならぬ魔力を湛えていた。
その手には赤く輝く魔素の残滓が残っており、彼の横にあった家屋は煙を上げ粉々に壊れていた。恐らく、魔法かそれに準ずるもので破壊されたのだろう。
だがそんな痛々しい光景以上に、その人影の姿形自体に問題があった。
一般の人間よりも一回り大きい体躯に、何故かあちこちが破けている布切れが纏わりついていた。
その肌は普通の人間とは異なり、まるで火傷を負ったかのような赤黒い痣が爛々とした赤い光を伴い蔓延っている。――魔物に特有な魔素質である。
「嘘だ……」
人型の魔物、それを見た途端、エルキュールの口から声が漏れたのを咎めるものはいないだろう。
エルキュールにとって、自分以外の魔人を間近で見るのはこれが初めての事だった。
もちろん、魔獣に比べて魔人の数が少ないというのもある。
だがそんな理由よりも、ヌールに至るまでの放浪生活においても、ヌールに住んで魔獣を狩るようになってからも、魔人が出没する場所には行かないように徹底してたから、というのが大きかった。
「んー?」
不注意にも漏れたその声に反応して、少女が振り返る。エルキュールは自身の失態を呪ったが、時を戻すことはできない。
「あれ、この辺りの人はとっくに逃げたと思ってたんだけど……まだ人がいたんだねえ」
少女の目がエルキュールを品定めするかのように動く。その顔は幼さが残っており、この場には似つかわしくないように思えた。
「……いや、その服装、君もアマルティアだな?」
魔人の存在に意識を引っ張られていたが、よく見れば少女の身につけている装束は、あの仮面の男・ザラームが身につけているのと同様だった。
その事実を確認し、エルキュールは警戒を強めた。
「へえ、フロンたちの詳細は、まだ限られた人たちにしか知られてないはずなんだけどなあ……?」
ただ人ではないことを悟ったのか、アマルティアの少女・フロンにも幾ばくかの緊張が走る。
エルキュールの言葉を否定しないあたり、本当の事なのだろう。まさか、ザラームのほかにもヌールの街に来ていたとは驚きだ。
それに対して、半ば自身がアマルティアであることを認めたフロンは、隣で虚空を見つめていた魔人の方を見やる。
「これは丁度いい機会だね。お兄さん、あの人やっちゃってよ」
「オオォォオオォ……」
フロンの言葉を受け、魔人は緩慢な動きで振り返りエルキュールと対峙した。すると、それまで後ろ姿しか確認できなかった魔人の前面がはっきり見て取れる。
「え――」
その姿を見た瞬間、先ほどよりもさらに細い声がエルキュールの口から漏れた。
奇妙なことだが、その魔人の顔に見覚えがあったのだ。魔人に会うのはこれが最初だというのに、一体なぜ――
いや、そんな思考をするまでもなく心当たりはあった。
ただ、だからといって簡単に認められるわけもなかった。
「アラン、さん……?」
それは、数時間前に会ったばかりの、鑑定屋の店主その人の顔であったから。
「君ねえ……勝手な判断はやめてくれないか。どうして勝手に彼を行かせたんだ、今は他に優先するべきことが――」
急展開を前にそれまで呆然としていた騎士が、グレンを窘めようとする。
当然のことだ。
ここにいる市民の数は二十。ここに置いていくわけにもいかないので、他の市民を探しに行くのなら当然彼らの安全を確保するのが前提となる。
対して戦える人員はグレンを入れて四人。本当ならエルキュールにも協力を仰ぐべき状況なのだ。
「ああ。市民を守る――騎士に課せられた使命の一つ、だろ?」
「だったらどうして……」
食い下がる騎士に、グレンは頭を掻いた。詳しく説明をしたいところだったが、時間はない。
諦めたように息をつき、グレンは懐から何かを取り出し、騎士の連中の目の前に示した。
「そ、それは……その家紋はまさか……!?」
グレンが取り出したのは首飾りであった。金色の細い鎖に深紅の楕円形の宝石。恐らくは火の魔鉱石を精錬したものだろう。
それだけでも凡庸な首飾りではないことが窺えるが、その首飾りの価値はそれだけに止まらない。
宝石の中央には剣を象ったような紋章のようなものが刻まれており、それこそが騎士の吃驚をもたらした原因であった。
「これに免じて、ここはオレの指示に従ってくれないか?」
「……ええ、理解しました。これは心強いです、まさか貴方が彼の有名な――」
「いいって、オレ自体はそう大層なモンじゃねえ」
騎士たちの高揚を抑え、グレンはその目に真剣な色を宿した。
「とりあえず、そうだな……街の外に住民を逃がす班と、街中の逃げ遅れてる住民を探す班に分かれるぞ。っと、お前は……」
「私はソーマと言います。こちらはヘルツとティック」
今までグレンと会話していた騎士――ソーマが手短に紹介する。金髪で小柄な騎士がヘルツ、整えられた髭が目立つ騎士はティックというようだ。
グレンは自らの名前を名乗ると、続けてこう説明した。
「よし、ソーマとヘルツはこのまま住民を連れて街の外へ。門を出たら、念のため上空に応援要請用の信号弾を放て。まあ、あのザラームとかいう野郎の演説のせいで無用かも知れねえが……」
「ええ、承知しました」
「了解であります」
グレンの指示にソーマとヘルツはそれぞれ首肯した。
「ティックはオレと街の捜索だ。……確認だが、お前ら以外の騎士の詳しい配属は分かるか? できればそこ以外を優先して探してえからな」
「分かるっすけど……あまり意味はないと思うっす」
グレンの考えは尤もだったが、対するティックは芳しくない表情であった。
意味はない、というのはどういうことか。グレンは眉をひそめてティックに説明を求めた。
曰く、この一週間の間で多くの騎士がミクシリアに召集されたという。王都での魔人が現れたという騒ぎのためだというが、その影響で最近の騎士の配置は通常時のものから大きく変更せざるを得なかったという。
「ちっ……なんてタイミングだよ……仕方ねえ、人が集まりそうな場所から回るしかねえな」
苦虫を噛み潰した表情でグレンは呻いた。ともあれ、今はできることをするしかない。全てが突然のことであったので、周到に立ち回ることは難しい。
「よし、お互いそれで行くぞ!」
頭を切り替え、グレンは騎士の三人に確認をとる。その妙に洗練された要領に、三人は感心しながらも頷いたのだった。
◇◆◇
ヌール広場を飛び出したエルキュールが向かっていたのは、ヌールの中心に位置する中央区であった。
先ほどザラームが映っていた映像の街並みは、ちょうどこの辺りの景色だったはずだ。
目標はそう遠くない――エルキュールは確信を抱き、ふと立ち止まった。
ここまで来るうちに、ザラームの演説は終わっているかもしてない。そうであるならば、彼は既に移動を開始していることだろう。
ザラームは「リーベへの反逆」とのたまいていた。その時の彼の熱が、未だエルキュールにこびりついて離れない。
この世界に魔物の自由な権利は無いに等しい。長い歴史の中で、リーベは自らの脅威となるイブリスを排除してきた。それが自然なことだという思想が遍く流布されてきたのだ。
きっとザラームは、徹底的にこの街を破壊するだろう。自分たちの同朋が、そうされてきたように。
そのために自らも何らかの行動を起こすはずである。
そう推察し、エルキュールは魔素感覚を研ぎ澄ませた。元々は魔法を効率よく使うための技術であるが、今は周囲の魔素の流れを読み異常がないかを探る。
「――ダメだ、魔獣が多すぎるのか全く分からない」
思い通りにいかない結果に、エルキュールは歯噛みする。魔獣に備わる魔素質が発する魔素しか検出できなかったのだ。これだけ混濁としていると、ザラームの痕跡があったとしても把握することは不可能だろう。
一体どれだけの魔獣が放たれればこんなことになるのか、想像も付かない。
魔素感覚による探知が無意味だと分かった以上、エルキュールに残されたのは直接自分で探索するという地道な選択肢のみだった。
エルキュールは再度脚に力を込めて走り出そうとしたが、それとほぼ同時、彼方から重い低音が空気を震わしたのを感じた。
それだけなら家屋が崩壊した音にも思えたが、どうやら違う。その音は単発に終わらず、一定の間が空いた後再度エルキュールの耳を刺激した。
何かの爆発音ともとれるその音に伴い、強烈な光も明滅していた。これはただ事ではあり得ない。
「あの方角は……ヌール伯邸か?」
その先はヌールの中央にある中央区の、さらにその中心に位置しているヌール伯の邸宅の方角であった。
当たりをつけたエルキュールは、すぐに目的へと急行する。
道を左手に曲がると、さらに酷い光景が広がっていた。
その道中は動かなくなった魔獣の骸や瓦礫の数々が散乱し、とてもじゃないがまともに通行できたものではなかった。
この惨状から察するに、魔獣どもは人の多い中央区に集まってきているようだった。多くの人間を汚染することができる効率的な動きの裏に、人為的な誘導が透けていた。これもザラームの仕業なのだろうか。
ただ、ここ一体の魔獣は既に生命活動を終えているようだ。数刻前にはここで騎士が戦っていたのは明らかだった。
突然の魔獣の襲来で、騎士たちの統率は取れてはいないものの、この様子だと各自で出来ることを為しているのかもしれない。
幾ばくかの安心を得たエルキュールは、悪路に構いもせず障害となるものを飛び越えて、もしくは自身の得物であるハルバードで薙ぎ払いながら突き進む。
そうして何個目かの角を曲がると、周りの住居よりも一際大きいヌール伯の邸宅が目に入る。
それと同時に理解する。先ほどの爆発音と思しきものの正体を。
「ウオオォォ……」
「あはあ、お兄さんすごいねえ。もうこんなに魔力を制御できるようになって……でも、知性がないのが残念かなあ?」
邸宅の前にいたのは二つの人影。
一つは白い装束を纏ったダークピンクの髪の少女。二つに結われたその片方を手で遊びながら、もう一人の影に対して軽口を叩いている。
もう一つはおよそ人間とは思えない呻き声をあげ、ただならぬ魔力を湛えていた。
その手には赤く輝く魔素の残滓が残っており、彼の横にあった家屋は煙を上げ粉々に壊れていた。恐らく、魔法かそれに準ずるもので破壊されたのだろう。
だがそんな痛々しい光景以上に、その人影の姿形自体に問題があった。
一般の人間よりも一回り大きい体躯に、何故かあちこちが破けている布切れが纏わりついていた。
その肌は普通の人間とは異なり、まるで火傷を負ったかのような赤黒い痣が爛々とした赤い光を伴い蔓延っている。――魔物に特有な魔素質である。
「嘘だ……」
人型の魔物、それを見た途端、エルキュールの口から声が漏れたのを咎めるものはいないだろう。
エルキュールにとって、自分以外の魔人を間近で見るのはこれが初めての事だった。
もちろん、魔獣に比べて魔人の数が少ないというのもある。
だがそんな理由よりも、ヌールに至るまでの放浪生活においても、ヌールに住んで魔獣を狩るようになってからも、魔人が出没する場所には行かないように徹底してたから、というのが大きかった。
「んー?」
不注意にも漏れたその声に反応して、少女が振り返る。エルキュールは自身の失態を呪ったが、時を戻すことはできない。
「あれ、この辺りの人はとっくに逃げたと思ってたんだけど……まだ人がいたんだねえ」
少女の目がエルキュールを品定めするかのように動く。その顔は幼さが残っており、この場には似つかわしくないように思えた。
「……いや、その服装、君もアマルティアだな?」
魔人の存在に意識を引っ張られていたが、よく見れば少女の身につけている装束は、あの仮面の男・ザラームが身につけているのと同様だった。
その事実を確認し、エルキュールは警戒を強めた。
「へえ、フロンたちの詳細は、まだ限られた人たちにしか知られてないはずなんだけどなあ……?」
ただ人ではないことを悟ったのか、アマルティアの少女・フロンにも幾ばくかの緊張が走る。
エルキュールの言葉を否定しないあたり、本当の事なのだろう。まさか、ザラームのほかにもヌールの街に来ていたとは驚きだ。
それに対して、半ば自身がアマルティアであることを認めたフロンは、隣で虚空を見つめていた魔人の方を見やる。
「これは丁度いい機会だね。お兄さん、あの人やっちゃってよ」
「オオォォオオォ……」
フロンの言葉を受け、魔人は緩慢な動きで振り返りエルキュールと対峙した。すると、それまで後ろ姿しか確認できなかった魔人の前面がはっきり見て取れる。
「え――」
その姿を見た瞬間、先ほどよりもさらに細い声がエルキュールの口から漏れた。
奇妙なことだが、その魔人の顔に見覚えがあったのだ。魔人に会うのはこれが最初だというのに、一体なぜ――
いや、そんな思考をするまでもなく心当たりはあった。
ただ、だからといって簡単に認められるわけもなかった。
「アラン、さん……?」
それは、数時間前に会ったばかりの、鑑定屋の店主その人の顔であったから。
0
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
チート魔力のせいで世界の管理者に目を付けられましたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――
そう信じている守銭奴、鏡谷知里(28)。
交通事故で死んだはずの彼が目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。
しかもなぜか、規格外のチート魔力を手に入れていた。
だがその力は、本来存在してはいけないものだった。
知里の魔力は、封印されていた伝説の冒険者の魔力と重なったことで生まれた世界のバランスを崩す力。
その異常な魔力に目を付けたのは、この世界を裏から支配する存在――
「世界を束ねる管理者」
神にも等しい力を持つ彼らは、知里を危険視し始める。
巻き込まれたくない。
戦いたくもない。
知里が望むのはただ一つ。
金を稼いで楽して生きること。
しかし純粋すぎる仲間に振り回され、事件に巻き込まれ、気付けば世界の管理者と敵対する羽目に――。
守銭奴のチート魔力持ち冒険者 VS 世界を支配する管理者。
金のために生きる男が、望まぬまま世界の頂点と戦うことになる
巻き込まれ系異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
借金5億で異世界転移、よりによって金本位制の世界だった
夜明け一葉
ファンタジー
32歳の個人トレーダー・佐藤慧は、5年間の雪辱を賭けたトレードで5億円の借金を抱え、意識を失った。目覚めると、そこは剣と魔法が存在する見知らぬ世界だった。常識が通じない異世界で、金貨を見るだけで嘔吐する「金アレルギー」を抱えながら、若き冒険者リナと出会い、生き延びる術を探し始める。諦めることだけができなかった男が、新たな世界で再び立ち上がる異世界サバイバル譚。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
.
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる