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三章「フェスタ・デル・ヴェント~癒えぬ凍傷~」
三章 第十九話「リバース」
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水の聖域カエルレウムにて。遺物を狙う魔人マリグノの策略によって生命の危機に陥ったエルキュールの身体は、そのとき仮死状態に近しい状況にあった。水の遺物ブリューナクの不意打ちを直に喰らい、活動に必要な魔素質を大量に削られたためである。
マリグノに変化させられた半魔人ロレッタとひとり残されたグレンが死闘を繰り広げる中、彼の沈んだ意識の代わりに目覚めたのは、その身に宿りし太古の魔力であった。普段はエルキュールという人格が顕現しているが故に表に現れることはなかった、闇精霊ベルムントの分霊としての、彼本来の人格である。
宵闇のナハティガル。新時代の生命を興すというベルムントの悲願の結晶。この世で最も純粋なるイブリス。現代に跋扈する魔物とは、その起源が根本から異なる究極の魔人である。イブリス・シードを運ぶ媒介でも、人間に仇なす存在でもない。彼はただ、生まれながらにしての救世主であったのだ。
しかし、精霊の時代においてその力が振るわれることはなかった。ベルムントと同じく他の五柱の大精霊によって闇の聖域アートルムダールに封印され、ヴェルトモンド大陸は精霊大戦の余波から生まれたリーベが統べる地となった。
数千年の時が流れ、アートルムダールの戦役が始まったころ。魔物の活性化によって闇の封印が解け始めたのをきっかけにして、ナハティガルはかつて果たせなかった降臨を果たした。
その世界は混沌に満ちていた。右を向けば人が息絶え、左に向かえば魔物が滅ぼされる。人間と魔物の未曽有の大戦。ナハティガルはその光景を目に酷く苦しんだ。奪い合い、穢し合い、反目し合う様は実に惨めだった。ひたすら煩わしく、愚かである。一刻も早くこの争いを止めなければ。かつて精霊の世界を救うことを望まれたその身は、微塵の逡巡もなく正義を志向した。
善良なるナハティガルが戦場への第一歩を踏みしめようとしたとき現れたのが、アートルムダールの中枢に向かおうとしていた教皇ルクレアとオーウェンら一行であった。戦いを終わらせる方法などナハティガルにかかれば無尽に考えられたが、彼らの懸命な眼差しに感化され、ナハティガルは場を一掃する暴力ではなく、その志に手を貸すことによって己が目的を果たそうと決めたのだ。このどこか気まぐれな決断こそが、人類の未来を救うことになったとは、大陸に生きるほとんどのリーベが想像だにせぬことであろう。
ナハティガルは一行のためにアートルムダールの最奥を封じる闇の封印までの道を自ら切り開いた。かつて自らを生んだ親に対する裏切りともとれる行いであるが、闇精霊の朽ちた執念こそが闘争の原因であると彼は芽生えて間もない自我ではっきりと知覚していた。
かつてベルムントが振るったとされる黄金の剣デュランダル。それを魔力で以て模倣し魔物を払うナハティガルの存在は、一部の人間のあいだで伝説として語られた。まるで古代を生きた精霊の如き威光に、絶望に挫かれようとしていた兵たちは悉く奮起したのだ。
それから。
戦いが終わった後、ナハティガルは、は、は、ははははははははははは――。
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アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス不能。アクセス――。
罪過。不適格。反感。恐怖。戦争。封印。精霊。戦争。花畑。オーウェ……。戦争。決着。眠り。眠り。眠り。眠り。アザレア。迎え。再誕。エルキュ……。邂逅。アヤ。リゼット。誰。誰。誰。誰。誰?
『――なさい! 魔物に連なる私たちでもきっと……』
エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。赤毛。炎。正義。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。光。魔法。使命。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。氷。背理。矛盾。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。
『貴方はヒトの世に生きる…………ヒトと共に在れる自分を…………』
熱。温かい。冷たい。エラー。否。アヤ。リゼット。グレン。ジェナ――。冷たい。冷たい。鎮静。放出。リロード。氷の――少女。
『元に戻って! それでもう一度私と一緒に戦いなさいよ――エル!』
ロレッタ・マルティネス。確認。提案を承認。アクセス、アクセス。アクセス完了。エルキュール・ラングレーを再構築。開始――。……懸念、存在意義への反抗。非推奨。闇の主、復活の刻。来たれり。「……ああ。分かっている。だが、それでも。それでもだ。すまないナハティガル、もう暫く眠っていて、俺を見守っていてほしい」………………了解。深層領域、ダイブ開始――。祝福。祈願。救世、を――。
◆◆◆
カエルレウム、遺物の間にて。永く、一瞬の夢から意識を取り戻したエルキュールは、ふと全身に柔らかな感触と微かな芳香を感じて疑問に思った。これは一体どういう状況か。
目の前にはロレッタと思しき水色の後頭部が映っており、両腕を力強く背中に回され抱きつかれている格好だというのは朧げに理解できた。彼女の特異な魔力が消耗した身体を癒し、その心が迷えるエルキュールの精神を繋ぎ止めたということも。
状況から見るに、一刻も早くマリグノを追うべきだったが、ひとまずはこの少女の行いに感謝を示すべきだろう。どれだけ非難に見舞われようとも、己を穢されても、意思を踏みつぶされても。ここまで足掻き、果てにはエルキュールを救ってみせたことは何よりも尊ばれるはずだ。
ロレッタの横に束ねられた髪をひとつ撫で、その冷たくも温かい身体を慣れないながらも抱擁した。
「世話をかけたようだ、ロレッタ。俺としたことがまたアマルティアに出し抜かれるとは。申し訳ない」
「……別に。私だって、色々と……貴方には謝らなければならないことが沢山ある。でも……今は。生きててくれてありがとう、エル。トゥルリム様の導きを受けておいて貴方を失うなんていよいよ自分が許せなくなっていたわ」
「君が、トゥルリムと? 事件が終わったあとにジェナに頼もうと思っていたが、不幸中の幸いということか。……いや、それよりも。君こそ、よくぞ自分を強く保ち、復活を果たしてくれた。ありがとう、ロレッタ。諦めないでくれてありがとう」
「……う、うん」
ロレッタは慣れない自分の態度を自覚したのか、照れ隠しをするようにエルキュールの胸に顔をうずめた。誰かが彼女の手を掴んでやるべきだったのに、此の期に及ぶまでその身に寄り添えなかったことをエルキュールは深く恥じた。彼女が拒絶したとしても、崩れゆくその心を見捨てる怠惰に甘んじてはならなかったのだ。
エルキュールは暫く胸を貸していたが、ふと近くから聞こえた咳払いが空気を一変させた。見れば疲労困憊といった様子のグレンがどこか呆れたような笑みを浮かべて立っていた。
「お二人さんよ、ハッピーエンドにはまだ早すぎるだろ? いちゃつくのはアマルティアの脅威を払ってからにしようぜ」
「いちゃ――って、もうっ!」
ロレッタはいよいよ顔を赤くしてエルキュールから勢いよく離れた。それからエルキュールを睨みながら「勘違いしないでくれる?」と一言投げつけてそっぽを向いた。
「……? まあ、グレンの言うことは正しい。状況を整理してすぐに行動に移らなければ。まずは、俺の正体についてだが……」
「おいおい、オレが今さら事実を知ってお前と仲違いするとでも? そんな展開、どこぞのツンデレシスター様だけで十分だろうが」
「~~! グレン、いいから止めて! もう恥ずかしいから……!」
「エルキュール。オレはお前とヌールの街で会ってから、お前の人となりを一番近くで見てきたという自負がある。安心しろ、オレの正義がお前と反することはない。ディアマントとの決着の借りもまだ返せてねえってのに、秘密を持たれたくらいで文句垂れるわけないだろ?」
「グレン、君は……」
「つっても、今はもう剣の一振りもかなわねえがな。どこぞの氷の魔人がてめえを取り戻すまで散々戦わせてくれたお陰で、オレの体はボロボロだ」
「……貴方、私が落ち込んでいるからってわざとやってるでしょう!? 今まで雑に扱われたことへの意趣返しのつもり!?」
「バカ、そんなガキみたいなことするか。オレはエルキュールと違って優しくねえんだよ。生きてるだけで十分だなんて素敵なことは言ってやらねえ。ジェナも含めて、オレらはみんな過ちを犯し、不当な境遇に喘いできた。だからこそ、その辛さを知るオレたちは互いに互いを救い、導かないとならねえ。……つまり、今度はお前のターンってわけだ。お前は今回の件にどう落とし前をつけるつもりだ、ロレッタ?」
傷だらけの身体でなお覇気に満ちた表情で諭すグレンに、ロレッタもまた真剣な面持ちで相対した。
「知れたことよ。マリグノと姉さまをこの手で止める。私は、私の力を正しいことのために使う。それが悪意から生まれたものであれ、私の征く道を二度と邪魔立てさせない。絶対に、贖罪を果たすわ」
「……いい目だ。ガキの頃に出会った時に見た淀んだモンじゃねえ、正義を志した立派な戦士のそれだ」
二人のやり取りに、エルキュールはここに来て彼らの足並みが揃い始めた理由を察した。エルキュールが彷徨っていた間に、彼らにも再生の機会が訪れたということだろう。
兎角、これで心は纏まった。あとは為すべきことを明確にするだけだ。
「マリグノは水の遺物ブリューナクを奪取し、ロレッタの姿に化けて街に向かった。聖域の外で待機させていたミレーユも人質に取られた可能性がある。そしてミルドレッドの動きは不明……状況はこんなものか。グレン、ロレッタ、ひとまずはここを出てブロニクスを目指そう。途中でなにか情報が得られるかもしれない」
エルキュールの言葉に二人が力強く頷く。
過去と向き合い、そしてそれを現在と調和させた彼らは、聖域カエルレウムを後にして仇敵アマルティアを追うのであった。
マリグノに変化させられた半魔人ロレッタとひとり残されたグレンが死闘を繰り広げる中、彼の沈んだ意識の代わりに目覚めたのは、その身に宿りし太古の魔力であった。普段はエルキュールという人格が顕現しているが故に表に現れることはなかった、闇精霊ベルムントの分霊としての、彼本来の人格である。
宵闇のナハティガル。新時代の生命を興すというベルムントの悲願の結晶。この世で最も純粋なるイブリス。現代に跋扈する魔物とは、その起源が根本から異なる究極の魔人である。イブリス・シードを運ぶ媒介でも、人間に仇なす存在でもない。彼はただ、生まれながらにしての救世主であったのだ。
しかし、精霊の時代においてその力が振るわれることはなかった。ベルムントと同じく他の五柱の大精霊によって闇の聖域アートルムダールに封印され、ヴェルトモンド大陸は精霊大戦の余波から生まれたリーベが統べる地となった。
数千年の時が流れ、アートルムダールの戦役が始まったころ。魔物の活性化によって闇の封印が解け始めたのをきっかけにして、ナハティガルはかつて果たせなかった降臨を果たした。
その世界は混沌に満ちていた。右を向けば人が息絶え、左に向かえば魔物が滅ぼされる。人間と魔物の未曽有の大戦。ナハティガルはその光景を目に酷く苦しんだ。奪い合い、穢し合い、反目し合う様は実に惨めだった。ひたすら煩わしく、愚かである。一刻も早くこの争いを止めなければ。かつて精霊の世界を救うことを望まれたその身は、微塵の逡巡もなく正義を志向した。
善良なるナハティガルが戦場への第一歩を踏みしめようとしたとき現れたのが、アートルムダールの中枢に向かおうとしていた教皇ルクレアとオーウェンら一行であった。戦いを終わらせる方法などナハティガルにかかれば無尽に考えられたが、彼らの懸命な眼差しに感化され、ナハティガルは場を一掃する暴力ではなく、その志に手を貸すことによって己が目的を果たそうと決めたのだ。このどこか気まぐれな決断こそが、人類の未来を救うことになったとは、大陸に生きるほとんどのリーベが想像だにせぬことであろう。
ナハティガルは一行のためにアートルムダールの最奥を封じる闇の封印までの道を自ら切り開いた。かつて自らを生んだ親に対する裏切りともとれる行いであるが、闇精霊の朽ちた執念こそが闘争の原因であると彼は芽生えて間もない自我ではっきりと知覚していた。
かつてベルムントが振るったとされる黄金の剣デュランダル。それを魔力で以て模倣し魔物を払うナハティガルの存在は、一部の人間のあいだで伝説として語られた。まるで古代を生きた精霊の如き威光に、絶望に挫かれようとしていた兵たちは悉く奮起したのだ。
それから。
戦いが終わった後、ナハティガルは、は、は、ははははははははははは――。
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罪過。不適格。反感。恐怖。戦争。封印。精霊。戦争。花畑。オーウェ……。戦争。決着。眠り。眠り。眠り。眠り。アザレア。迎え。再誕。エルキュ……。邂逅。アヤ。リゼット。誰。誰。誰。誰。誰?
『――なさい! 魔物に連なる私たちでもきっと……』
エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。赤毛。炎。正義。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。光。魔法。使命。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。氷。背理。矛盾。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。エラー。
『貴方はヒトの世に生きる…………ヒトと共に在れる自分を…………』
熱。温かい。冷たい。エラー。否。アヤ。リゼット。グレン。ジェナ――。冷たい。冷たい。鎮静。放出。リロード。氷の――少女。
『元に戻って! それでもう一度私と一緒に戦いなさいよ――エル!』
ロレッタ・マルティネス。確認。提案を承認。アクセス、アクセス。アクセス完了。エルキュール・ラングレーを再構築。開始――。……懸念、存在意義への反抗。非推奨。闇の主、復活の刻。来たれり。「……ああ。分かっている。だが、それでも。それでもだ。すまないナハティガル、もう暫く眠っていて、俺を見守っていてほしい」………………了解。深層領域、ダイブ開始――。祝福。祈願。救世、を――。
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カエルレウム、遺物の間にて。永く、一瞬の夢から意識を取り戻したエルキュールは、ふと全身に柔らかな感触と微かな芳香を感じて疑問に思った。これは一体どういう状況か。
目の前にはロレッタと思しき水色の後頭部が映っており、両腕を力強く背中に回され抱きつかれている格好だというのは朧げに理解できた。彼女の特異な魔力が消耗した身体を癒し、その心が迷えるエルキュールの精神を繋ぎ止めたということも。
状況から見るに、一刻も早くマリグノを追うべきだったが、ひとまずはこの少女の行いに感謝を示すべきだろう。どれだけ非難に見舞われようとも、己を穢されても、意思を踏みつぶされても。ここまで足掻き、果てにはエルキュールを救ってみせたことは何よりも尊ばれるはずだ。
ロレッタの横に束ねられた髪をひとつ撫で、その冷たくも温かい身体を慣れないながらも抱擁した。
「世話をかけたようだ、ロレッタ。俺としたことがまたアマルティアに出し抜かれるとは。申し訳ない」
「……別に。私だって、色々と……貴方には謝らなければならないことが沢山ある。でも……今は。生きててくれてありがとう、エル。トゥルリム様の導きを受けておいて貴方を失うなんていよいよ自分が許せなくなっていたわ」
「君が、トゥルリムと? 事件が終わったあとにジェナに頼もうと思っていたが、不幸中の幸いということか。……いや、それよりも。君こそ、よくぞ自分を強く保ち、復活を果たしてくれた。ありがとう、ロレッタ。諦めないでくれてありがとう」
「……う、うん」
ロレッタは慣れない自分の態度を自覚したのか、照れ隠しをするようにエルキュールの胸に顔をうずめた。誰かが彼女の手を掴んでやるべきだったのに、此の期に及ぶまでその身に寄り添えなかったことをエルキュールは深く恥じた。彼女が拒絶したとしても、崩れゆくその心を見捨てる怠惰に甘んじてはならなかったのだ。
エルキュールは暫く胸を貸していたが、ふと近くから聞こえた咳払いが空気を一変させた。見れば疲労困憊といった様子のグレンがどこか呆れたような笑みを浮かべて立っていた。
「お二人さんよ、ハッピーエンドにはまだ早すぎるだろ? いちゃつくのはアマルティアの脅威を払ってからにしようぜ」
「いちゃ――って、もうっ!」
ロレッタはいよいよ顔を赤くしてエルキュールから勢いよく離れた。それからエルキュールを睨みながら「勘違いしないでくれる?」と一言投げつけてそっぽを向いた。
「……? まあ、グレンの言うことは正しい。状況を整理してすぐに行動に移らなければ。まずは、俺の正体についてだが……」
「おいおい、オレが今さら事実を知ってお前と仲違いするとでも? そんな展開、どこぞのツンデレシスター様だけで十分だろうが」
「~~! グレン、いいから止めて! もう恥ずかしいから……!」
「エルキュール。オレはお前とヌールの街で会ってから、お前の人となりを一番近くで見てきたという自負がある。安心しろ、オレの正義がお前と反することはない。ディアマントとの決着の借りもまだ返せてねえってのに、秘密を持たれたくらいで文句垂れるわけないだろ?」
「グレン、君は……」
「つっても、今はもう剣の一振りもかなわねえがな。どこぞの氷の魔人がてめえを取り戻すまで散々戦わせてくれたお陰で、オレの体はボロボロだ」
「……貴方、私が落ち込んでいるからってわざとやってるでしょう!? 今まで雑に扱われたことへの意趣返しのつもり!?」
「バカ、そんなガキみたいなことするか。オレはエルキュールと違って優しくねえんだよ。生きてるだけで十分だなんて素敵なことは言ってやらねえ。ジェナも含めて、オレらはみんな過ちを犯し、不当な境遇に喘いできた。だからこそ、その辛さを知るオレたちは互いに互いを救い、導かないとならねえ。……つまり、今度はお前のターンってわけだ。お前は今回の件にどう落とし前をつけるつもりだ、ロレッタ?」
傷だらけの身体でなお覇気に満ちた表情で諭すグレンに、ロレッタもまた真剣な面持ちで相対した。
「知れたことよ。マリグノと姉さまをこの手で止める。私は、私の力を正しいことのために使う。それが悪意から生まれたものであれ、私の征く道を二度と邪魔立てさせない。絶対に、贖罪を果たすわ」
「……いい目だ。ガキの頃に出会った時に見た淀んだモンじゃねえ、正義を志した立派な戦士のそれだ」
二人のやり取りに、エルキュールはここに来て彼らの足並みが揃い始めた理由を察した。エルキュールが彷徨っていた間に、彼らにも再生の機会が訪れたということだろう。
兎角、これで心は纏まった。あとは為すべきことを明確にするだけだ。
「マリグノは水の遺物ブリューナクを奪取し、ロレッタの姿に化けて街に向かった。聖域の外で待機させていたミレーユも人質に取られた可能性がある。そしてミルドレッドの動きは不明……状況はこんなものか。グレン、ロレッタ、ひとまずはここを出てブロニクスを目指そう。途中でなにか情報が得られるかもしれない」
エルキュールの言葉に二人が力強く頷く。
過去と向き合い、そしてそれを現在と調和させた彼らは、聖域カエルレウムを後にして仇敵アマルティアを追うのであった。
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