魔法学園ピンクローブ事件簿〜ルンバでやって来た男、封印の謎に巻き込まれる~

加茂茶 芽衣

文字の大きさ
5 / 24

4 魔法学校の体育館

しおりを挟む
「まったく、エリーザの奴は……」

エリーザは、「これがベストの選択だわ」といい、再び球体が回る部屋へと戻っていった。

彼女はベストだというが、当のアンバーは、とてもそうは思えなかった。アンバーは科学の教師だが、このビクターは体育教師だった。


「えーと、まず体育館はどこにあるのか、体育館なんて、話でしか聞いたことがない。本当にあるのか?困ったな、一度行った場所でなければ、瞬間移動は使えないんだ。」

アンバーは、そう言いながら校長から渡された地図を頼りに、歩いていた。階段を下り、右に曲がって、更に左に曲がって、また下る。ここは47階か。息が上がっていた。100階建てのこの建物は、まるで巨大な迷路のようだった。その奥には、またポツンと下に降りる階段があった。

「ウソだろ。ここを降りるのか?この道に間違いないよな。」

二人が見下ろす場所は、人がようやく一人通れるくらいの陰気な薄暗い階段だった。

湿った埃っぽい空気が風に乗り下から巻き上がる。


ここまでの綺麗に掃除された整った環境が、一気に重たい空間へと変化していた。

一歩降りるごとに、なぜか魔力が吸い取られたように、足が重くなっていくのをアンバーは感じていた。

「アンバーさん、俺が前を歩きますよ。」

ビクターが前に立ち、下に降りていく。
ゆっくりとした重たい足音がアンバーの耳に届いていた。

降りた先の空間には、立ち入り禁止の看板がかかっていた。

「うそだろ、校長、ここ立ち入り禁止じゃないか。」

地図を見ながら、アンバーが言う。何もない灰色の空間の中央には、朱文字で立ち入り禁止と書かれていた文字が大きく浮かんでいた。

「ちょっと、おかしいですね。俺も地図を見てもいいですか?……地図の先にはまた階段がありますね。……もう少し先に行ってみましょうか。」


朱文字を無視し行った先。その更に奥には、渡り廊下があり、暗い先の向こう側は体育館のように見えた。

「なんか、不気味だな。うわさには聞いたことがあるが、」

「うわさ?」

だが、その噂の体育館に行くためには、この渡り廊下を通らねばならない。

渡り廊下の入り口は、これ見よがしにチェーンで塞がれていた。

「ビクター……!」

ビクターはそのチェーンを手で鷲掴みにした。ジュッと音が耳にした途端、その手からは白煙が上がる。アンバーが慌てて、手を引き離そうとしたが、彼はそんなことには全く意に介さずそのチェーンを引きちぎった。

「ちょっと、火傷しちゃいました。痛てててっ、」

「火傷ってもんじゃないよ。これは、相当の強い魔法力が込めてあっただろ。」

慌ててビクターは、手を振って、痛さを紛らわせている。その手は黒く爛れているのがアンバーには見えた。

「ちょっと、待ってろ。」

アンバーは、ポケットから杖を取り出すと、目を閉じる。ブツブツと呪文を唱えると、杖の先から、白い粉が吹き出し、それは空中で弾けた。

「口惜しいが、今はこれしか出来ない。回復の魔法だ。」

その声に合わせて、下から皮膚が盛り上がり、薄いピンクの膜が張った。


「やはり、この魔法では、あまり効果がないかぁ。あとで、薬を塗ってやる。今、キズの新薬開発中なんだ。」

「ありがたいけど、別にいいですよ。これくらい、放っておけば治りますから。」

手をフラフラと振りながら歩く姿は、女なら当然男でさえ惚れるぐらい相当カッコよく見えることだろう。後方からついて歩くアンバーが見上げるその背中には、筋歩く度に筋肉の躍動する姿が見える。だが、このひらひらと風に合わせ空中をそよぐピンク色のローブがその行いの全てを台無しにしていた。

「あのローブさえなければ、完璧なヒーローだな……」


歩いた先に見えたものは、鋼鉄色の扉だった。

「ここが体育館だな。」

「そうですね。でも、なぜ、ここは封印されているんですか。」

その中央には、妙に立体的な魔法陣が描かれていた。

「噂によれば、学年対抗の魔法試合があって、その時に大事故があったらしい。そのあとも、事故が絶えなくて、……それから、間もなく封印されたときいたが……本当にあるとは、……ただの噂だと思っていた。」



つづく



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

「やはり鍛えることは、大切だな」

イチイ アキラ
恋愛
「こんなブスと結婚なんていやだ!」  その日、一つのお見合いがあった。  ヤロール伯爵家の三男、ライアンと。  クラレンス辺境伯家の跡取り娘、リューゼットの。  そして互いに挨拶を交わすその場にて。  ライアンが開幕早々、ぶちかましたのであった。  けれども……――。 「そうか。私も貴様のような生っ白くてか弱そうな、女みたいな顔の屑はごめんだ。気が合うな」

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

蛮族の王子様 ~指先王子、女族長に婿入りする~

南野海風
恋愛
 聖国フロンサードの第四王子レインティエ・クスノ・フロンサード。十七歳。  とある理由から国に居づらくなった彼は、西に広がる霊海の森の先に住む|白蛇《エ・ラジャ》族の女族長に婿入りすることを決意する。  一方、森を隔てた向こうの|白蛇《エ・ラジャ》族。  女族長アーレ・エ・ラジャは、一年前に「我が夫にするための最高の男」を所望したことを思い出し、婿を迎えに行くべく動き出す。    こうして、本来なら出会うことのない、生まれも育ちもまったく違う一組の男女が出会う。 

処理中です...