魔法学園ピンクローブ事件簿〜ルンバでやって来た男、封印の謎に巻き込まれる~

加茂茶 芽衣

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16 魂の契約パクタ・アニマ「この陣形どこかで見たような気がするのよね。」

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あの時の問いが、ビクターの頭によぎる。

「パクタ・アニマって、なんですか?ルンバなら知ってますけど。命の引き換えにって、怖いですね。」

そんなビクターを含むメンバーは、魔ンドラゴラの前に集結していた。
あの出産から、そろそろ、48時間になる。鉢の中からは今にも消え入りそうな小さな鳴き声が聞こえていた。

「シモン、嘆きの魔女に興味があるなら、よく見ておきなさい。これが、自然の摂理なのよ。」

親の魔ンドラゴラは居心地が悪そうに鉢の上で、もぞもぞと幹を動かしていた。隣の大きくなった双葉の子供を押しつぶすぐらい勢いがあった。

「このふり返り魔ンドラゴラだから、まだいいが、野生はもっと露骨なんだよ。母親がいつまでも親離れしない子供を吸収することもある。」

ガサガサ、ゴソゴソ

「この鉢だと狭すぎて、どっちみち子供は生きていけないんだ。」

アンバーが新しい鉢を用意している間、シモンとエリーザは、ローブのポケットからポータブルイヤープラグを取り出していた。イヤープラグを片方だけ装着したアンバーは、皆を見回す。

だが、ビクターだけ不審な動きをしていた。

「ビクター、イヤープラグは今したほうがいいぞ。」

そこには怪訝な顔をし、後ずさるビクターがいた。

「……まさか、それも持っていないのか?」

「そんなもの、使わないと思ってましたから……」

シモンとエリーザは、目を見開いて、何事かと二人のやり取りを見ていた。イヤープラグで二人の会話が聞こえなかったのだ。

その一方で、子魔ンドラゴラの泣き声が、さらにか細く、消えかかっている。

アンバーは、『この馬鹿が……』と、焦りが募る。このままでは、赤ちゃんの命が風前の灯だった。この時期の魔ンドラゴラはとても繊細で、ちょっとの刺激で取り返しのつかない事態になる。

アンバーは、溜息をつく。

「もう時間がない、耳を両手でよく塞いでいろ……」

アンバーは、もう片耳にプラグを差し込むと、鉢に手をかけた。

メリメリメリ


片手で親を、支柱に支えつつ、子供の根っ子を慎重に引き抜いていく。

ピクピクと、かすかに動く赤ちゃん魔ンドラゴラを素早く替え鉢に植え替え、軟土をかけてやる。

その寸前だった。

おぎゃーーーー

一際大きな泣き声が、響き渡った。


「どうやら、赤ちゃんの泣き声は野生も遺伝子組み換えもそんなに変わらないみたいだわね。」

イヤープラグを外しながら、エリーザは答えた。

「ああ、良かった、なんとか間に合ったよ。早すぎると、母親からの栄養が充分行き渡らないし、遅いと手遅れになるので、この品種は、植え替えどきが非常に難しいんだよ。よし、大きくなれよ。」

「あとは、何が必要なの?」
「あとは、ここで母親からの栄養は絶たれたから、赤ちゃん用の人工肥料を、蒔く必要がある。」

「ビクター、後ろの……」と、

アンバーがふり返ると、遥か後方に立っていたビクターは、器用に目を開けたまま直立で気絶していた。

「……だから。言わんこっちゃない。」

「あ~、赤ちゃん魔ンドラゴラの鳴き声を聞いた人は、このまま石膏のように固まっちゃうのよね。」

「教授、僕、赤ちゃん魔ンドラゴラの泣き声で、意識を失った人を初めて見ましたよ。動かしたら、粉々に砕け落ちるって本当ですか?」

真顔でシモンは聞いていた。

そして、この真顔のまま立ち尽くしているビクターは、驚く間もなく固まったかと思われる。おそらく、耳を塞いでもいなかったのだろう。馬鹿だ。馬鹿すぎる、今までどうやって、暮らしていたのか。

「僕も、試したことはないが、今試してみるか?」

「やめなさい。滅相もないわ。生得法を操るビクター先生は、今や、この世の中では大変珍しい希少種よ。」

アンバーは、奥の薬品棚から持ってきたアルコールランプでヤカンの蒸留水を温めだした。

「さて、授業の時間だ。シモンくん、これを解凍すための方法を三つ答えなさい。」

「えーと、確か……、赤ちゃん魔ンドラゴラには、親と違ってジキタリスの成分が通常より多く含まれています。解凍方法にはその成分をより強く刺激するために、……豚の丸焼き法と天日干し法とがあります。あと一つは、ヤカンの熱湯を全身に満遍なくかけるらん魔1/1法(通称:熱湯ぶっかけ式)です。」

「その通りだわ、シモン。豚の丸焼き法は手っ取り早いけど命に係わる危険があるし、天日干し法は、時間がかかりすぎる。そうなると一番いいのは、熱湯ぶっかけ式のらん魔1/1法ね。」


ピー

ヤカンのお湯が沸いていた。

「アンバー教授は、この方法を試したことがあるんですか?」

「いや、まだない。ここまで、カチコチに固まらなければ、まだ、生ぬるい白湯でも解凍できたんだよ。だから、ちょっとくらいの火傷は勘弁してほしいよね。」

アンバーによって、頭の上から噴水のように熱湯をかけられるビクターの姿を、二人は興味津々に見ていた。

「……あちゅっ、……あちゅっ、……あちゅっ、……大きい魔ンドラゴラが、俺を襲ってくる……、助けてくれ……」

溶けだしたビクターからくぐもった声が聞こえてきた。まるで、土の中にいる赤ちゃんマンドラゴラの鳴き声だった。

「施す方も、相当の精神的苦痛を受けるわ、これは。もとに戻らなかったらどうしたらいいんでしょう。」
「そのときは、粉々に砕いて、腐葉土に混ぜてしまえばいいんだよ。全く人がせっかく忠告してやったのに、手のかかるやつだ。」

「あつい……、あつい……、お母さん、たちゅけて……、」

「エリーザ教授、星の配置が戻りつつあります。ビクター先生の声がいつもの声に戻ってきましたよ。」
「あっ、本当ね。もう少しかしら?」
「……たっぷり、かけてやろう。二度とこんなことが出来ないように……」

ジャバジャバ

「あちっ、あちって……だから……、さっきから熱いって言ってるだろうがーーー」

ビクターのバカでかい声が、教室中に響いていた。

つづく



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