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17 宇宙の理ゼロッテ式と生得法
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「全くもう、どうしてこうも、放っておけないのかしら。」
エリーザは、自身の内面に不思議な変化を感じていた。これは、ビクターの影響だろうか。ビクターとアンバー、二人の様子を見ていると、子供を見守る不思議な心境になってくる。それは、嘆きの魔女、星読みの傍観者としての宿命なのだろうか。
「アンバー教授、だからって、こんなにジャバジャバと熱湯をかけることもないでしょう。」
「何を、言ってるんだ。僕はあれほど忠告していただろう。魔法必須の7つ道具は常にローブポケットに忍ばせておけと。」
「俺は、あのとき大きなマンドラゴラに襲われそうになっている赤ちゃんマンドラゴラの気持ちになっていたんですよ、もう少しで助かりそうだったのに、アンバー教授が熱湯をかけるから、……向こう側へ行きそびれたじゃないですか。もう少しだったのに……」
「それって、シンクロしてるじゃない。もう、本当に危ないわね……」とエリーザは思うが、アンバーは違ったようだ。
「それなら、早く向こう側へ行ってしまえば良いかったじゃないか。どれほど、心配したと思ってるんだ。まったく、人が心配しているのに……人の気も知らないで……、2度と戻ってこなければ良かったんだ。」
「ああ、」とエリーザは頭を抱え、興味深げに二人のやり取りを聞いていた。その横で、シモンがポケットから出した、7つ道具の『記憶のメモ帳』に今のやりとりを書き記している。
「エリーザ教授、もし、ビクター先生が向こう側に連れていかれたら、どうなっていたんですか?」
「さあ、向こう側へ、渡った人はまだいないわ。だから、私もわからない。」
「それって、渡ってしまったら、もとには戻れないってことですか?」
「どうなのかしらね。文献には、まだ渡ってしまった人の記録はないのよ。」
「ビクター先生は、もう少しで覗けそうだったんですね。惜しいことをしましたね。」
シモンは、優秀な候補生だ。常に冷静で傍観者に徹している。ちょっとしたことで感情が表に出てしまう、”私”よりもよっぽど嘆きの魔女に向いているんじゃないかとエリーザは思う。
「ええ、そうね。そうしたら、記憶の魔法図書館に貯蔵できたのに……」
星読みは、参考にする太古からある記憶を今の状態に重ねて読み解く。そこでは、ビクターとアンバーが丁度背中合わせに重なっていた。これは、吉凶なのか、ただの偶然なのか、エリーザにはまだ分からなかった。
「何よりもまず、次の目標は体育館よね。この陣形どこかで見たような気がするのよ。」
「エリーザ教授、星に関わるのはあまり良くないですが……」
「ごめん、わかっているのよ、でも、気になるのよ……」
なんだろうか。この、胸のざわめきは。ただの、星の影響だけでは説明ができない、自身の内から湧き上がるものを感じていた。
10年前ーー
まだ、嘆きの魔女としての自分の運命に逆らっていた頃、夏休みの冒険で、自由に樹海の森を彷徨っていたことがあった。
そこで出会った一軒家、樹海に囲まれているというのに、そこの一角だけが妖魔の浸食がなく、まるで聖域のような場所となっていた。
そこには、齢190になるという一人のおばあさんが住んでいた。そのおばあさんは、あることがきっかけで魔法を封印したという。その代わりに、星読みで生計を立てていると。
エリーザの操る星読みは、独特だった。魔法使いは、通常魔法による星読みをする。だが、エリーザの場合は、複合型。本来の魔法式と、そのあばあさんが晩年独自に開発した、という魔法に頼らない星読み方法「宇宙の理ゼロッテ式」との合算式だった。光の届かない空間にこそ真の意味があるという。
そのおばあさんが唯一操る魔法が、ビクターも使う生得法だった。自分の本来遺伝子に記憶されているだろう先祖から脈々と繋がれているはずの原始的な魔法。それを使い、魔獣たちと平和な同盟関係を結んでいると言っていた。
あれから月日が経ち、もう一度訪ねた時があった。だが、あの場所はすでに深い樹海に覆われ、2度と出会うことは叶わなかった。
「あのとき、もっと話を聞いておけばよかった……」
庭に植えられた野生の魔ンドラゴラを懐かしく思う。
雄マンドラゴラに襲われそうになった時に、驚いて動けなかったエリーザを助けてくれたのが、生得法を使うゼロッテだった。怒られた魔ンドラゴラはまるで、アンバーに怒られたばかりのビクターのように、しおらしくしていた。
「エリーザ教授……」
シモンに声を掛けられ慌てて正面を見る。
その隣には、アンバーとビクター。二人の視線と重なった。
「ごめんなさい、ちょっと考え事をしていたわ。……それで、ここがそうなのね……」
そこは、あの体育館の入り口だった。
つづく
エリーザは、自身の内面に不思議な変化を感じていた。これは、ビクターの影響だろうか。ビクターとアンバー、二人の様子を見ていると、子供を見守る不思議な心境になってくる。それは、嘆きの魔女、星読みの傍観者としての宿命なのだろうか。
「アンバー教授、だからって、こんなにジャバジャバと熱湯をかけることもないでしょう。」
「何を、言ってるんだ。僕はあれほど忠告していただろう。魔法必須の7つ道具は常にローブポケットに忍ばせておけと。」
「俺は、あのとき大きなマンドラゴラに襲われそうになっている赤ちゃんマンドラゴラの気持ちになっていたんですよ、もう少しで助かりそうだったのに、アンバー教授が熱湯をかけるから、……向こう側へ行きそびれたじゃないですか。もう少しだったのに……」
「それって、シンクロしてるじゃない。もう、本当に危ないわね……」とエリーザは思うが、アンバーは違ったようだ。
「それなら、早く向こう側へ行ってしまえば良いかったじゃないか。どれほど、心配したと思ってるんだ。まったく、人が心配しているのに……人の気も知らないで……、2度と戻ってこなければ良かったんだ。」
「ああ、」とエリーザは頭を抱え、興味深げに二人のやり取りを聞いていた。その横で、シモンがポケットから出した、7つ道具の『記憶のメモ帳』に今のやりとりを書き記している。
「エリーザ教授、もし、ビクター先生が向こう側に連れていかれたら、どうなっていたんですか?」
「さあ、向こう側へ、渡った人はまだいないわ。だから、私もわからない。」
「それって、渡ってしまったら、もとには戻れないってことですか?」
「どうなのかしらね。文献には、まだ渡ってしまった人の記録はないのよ。」
「ビクター先生は、もう少しで覗けそうだったんですね。惜しいことをしましたね。」
シモンは、優秀な候補生だ。常に冷静で傍観者に徹している。ちょっとしたことで感情が表に出てしまう、”私”よりもよっぽど嘆きの魔女に向いているんじゃないかとエリーザは思う。
「ええ、そうね。そうしたら、記憶の魔法図書館に貯蔵できたのに……」
星読みは、参考にする太古からある記憶を今の状態に重ねて読み解く。そこでは、ビクターとアンバーが丁度背中合わせに重なっていた。これは、吉凶なのか、ただの偶然なのか、エリーザにはまだ分からなかった。
「何よりもまず、次の目標は体育館よね。この陣形どこかで見たような気がするのよ。」
「エリーザ教授、星に関わるのはあまり良くないですが……」
「ごめん、わかっているのよ、でも、気になるのよ……」
なんだろうか。この、胸のざわめきは。ただの、星の影響だけでは説明ができない、自身の内から湧き上がるものを感じていた。
10年前ーー
まだ、嘆きの魔女としての自分の運命に逆らっていた頃、夏休みの冒険で、自由に樹海の森を彷徨っていたことがあった。
そこで出会った一軒家、樹海に囲まれているというのに、そこの一角だけが妖魔の浸食がなく、まるで聖域のような場所となっていた。
そこには、齢190になるという一人のおばあさんが住んでいた。そのおばあさんは、あることがきっかけで魔法を封印したという。その代わりに、星読みで生計を立てていると。
エリーザの操る星読みは、独特だった。魔法使いは、通常魔法による星読みをする。だが、エリーザの場合は、複合型。本来の魔法式と、そのあばあさんが晩年独自に開発した、という魔法に頼らない星読み方法「宇宙の理ゼロッテ式」との合算式だった。光の届かない空間にこそ真の意味があるという。
そのおばあさんが唯一操る魔法が、ビクターも使う生得法だった。自分の本来遺伝子に記憶されているだろう先祖から脈々と繋がれているはずの原始的な魔法。それを使い、魔獣たちと平和な同盟関係を結んでいると言っていた。
あれから月日が経ち、もう一度訪ねた時があった。だが、あの場所はすでに深い樹海に覆われ、2度と出会うことは叶わなかった。
「あのとき、もっと話を聞いておけばよかった……」
庭に植えられた野生の魔ンドラゴラを懐かしく思う。
雄マンドラゴラに襲われそうになった時に、驚いて動けなかったエリーザを助けてくれたのが、生得法を使うゼロッテだった。怒られた魔ンドラゴラはまるで、アンバーに怒られたばかりのビクターのように、しおらしくしていた。
「エリーザ教授……」
シモンに声を掛けられ慌てて正面を見る。
その隣には、アンバーとビクター。二人の視線と重なった。
「ごめんなさい、ちょっと考え事をしていたわ。……それで、ここがそうなのね……」
そこは、あの体育館の入り口だった。
つづく
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