ちいさな物語屋

うらたきよひこ

文字の大きさ
455 / 526

#453 名もなき戦国武将、JKに憑く

しおりを挟む
あれは二年生の修学旅行で京都に行ったときのことなんだ。

普通なら清水寺とか金閣寺とか、有名どころに行くはずでしょ? でもうちの学校はちょっと変わってて、先生が歴史マニアだったのね。だから旅程の中に「古戦場めぐり」なんていう地味ぃ~なイベントが入ってたの。

正直だるいなって思ってたんだけど、行ってみたらそれはそれで趣があった。雑草だらけの空き地に石碑が立ってるだけで、観光客なんて一人もいない。先生が延々と「この合戦は資料に乏しく~」とか語ってて、みんなは寝っ転がったりスマホいじったりしてた。

私もベンチに座ってぼーっとしてたんだ。観光地って最近どこもすごい人でしょ。この辺は静かでいいなぁってわりと気分よかったんだよね。

そしたらね、急に視界がぐにゃっと歪んだ気がしたの。頭がくらっとして、意識が遠のくような感じがした。

その瞬間からよ。

「ここは……かの合戦場……拙者、恥をさらして生き延びてしまったか」

――って声が頭の中で響いたんだよ!

最初は幻聴かと思ったけど、違った。口が勝手に動くの。私が私の意思に反して勝手にしゃべってるの。

「そなた、名は何と申す?」

「ちょ、やめて! 勝手にしゃべらないで!」

クラスメイトは爆笑。「お前どうした? 急に。合戦場ギャグ?」って。いやいや違うから! 本当に勝手に口が動いてんの!

後でわかったんだけど、そいつは戦国時代の武将……って言っても歴史に埋もれた、マジで誰も名前を知らないやつだった。

本人いわく、「某は小田原攻めの折に討たれし者、名は某某某左衛門……」って名乗るんだけど、どの教科書にもネットにも出てこない。調べても全然ヒットしないの。

それ以来、マジで日常が大変でさ。

授業中に勝手に立ち上がって「先生殿、此度の御教示、誠にかたじけない!」とか言い出すの。友達からは「キャラ変わりすぎw」って爆笑されるし、先生には「大丈夫か?」って変な目で見られるし。

コンビニでおにぎり買うときも、「こやつ、米の玉を売っておるのか! 戦の糧に最適ぞ!」ってテンション上がっちゃうし。店員さんポカーンだよ。

しかも一番困るのは、スマホを勝手に操作すること。

「おお! この器具、魔法の鏡のごとく映し出すではないか!」

ってインスタ開いたり、私のLINEで友達に勝手に「恐々謹言」とか送っちゃうし、Xに「人は城、人は石垣、人は堀――」って投稿したりするんだよ!? 友達から「ネタアカに転生した?」って言われるし。しかも「人は城」とかある意味パクツイじゃん。

でもね、ただの迷惑霊かと思ったら、意外と役に立つこともあるの。テスト勉強で歴史の問題を解いてるとき、「あの時の戦いは確かこの地にて~」とか答えを教えてくれる。おかげで日本史の点数は爆上がり。まぁ、その無双も戦国時代周辺だけなんだけどね。

あと、不良に絡まれた時も、「某の剣技、見せてくれよう!」って体を勝手に動かして、めちゃくちゃ華麗にかわしたの。私自身は運動神経ゼロだから、あれは絶対あの武将の仕業だと思う。

でもだからといって、一生一緒はイヤだ!

だってカラオケで友達が盛り上がってる時に勝手に唸りだすし(あとで聞いたら能? なんだとか)、TikTokで勝手に「拙者、舞を披露する!」って変な踊り踊るんだもん(これも能? らしいけど)。マジで地獄。しかもめっちゃ再生されてて、プチバズって感じで鬱。能って流行ってたの?

どうにかして除霊できないかと神社に行ったんだけど、神主さんが真顔で言ったんだ。

「……ああ、よくある武将の霊ですな」

「え、定番!? ありがちなの!?」

「ですが安心を。除霊しなくても、害はなく、時が来れば自然と離れるでしょう」

いやいや、安心できるか! 害ありまくりだわ!

そんなわけで、今も私の生活は「戦国口調」と二人三脚。テストと運動神経が必要なときはちょっとだけ役立つけど、恋バナ中に「色恋の駆け引きは戦の如し!」ってドヤるのマジやめて。

……ねぇ、聞いてくれる?

今もこの声、私の中で「拙者の物語を後世に残してくれ」ってしつこいんだよ。お前、もう歴史に名前埋もれてんだよ。諦めろ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

麗しき未亡人

石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。 そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。 他サイトにも掲載しております。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...