456 / 526
#454 超能力探偵の秘密
しおりを挟む
僕は名探偵の助手をしている。
名前は伏せるけど、うちの探偵は業界でもそこそこ名が知られていて、依頼が絶えない。新聞やテレビにも取り上げられるくらいだから、まあ世間的には「名探偵様」ってことになってる。
確かに頭はいい。知識量も豊富だし、観察眼も鋭い。イケメンで、クライアントからもモテモテ。
――けどな、僕は知ってるんだ。あの人の正体を。
最初に違和感を持ったのは、盗難事件の現場だった。依頼人は「誰かが大切な宝石を盗んだみたいだ」って泣きついてきたんだ。
僕はてっきり指紋採取や聞き込みから始めるのかと思った。ところが探偵は、依頼人の家に入った瞬間、窓際で数秒じっと目を閉じたんだ。
次の瞬間、にっこり笑ってこう言った。
「犯人はお手伝いさんです。左ポケットにまだ宝石が入っているはずですよ」
依頼人が驚いて問いただすと、本当にその通りだった。
このとき、探偵はまったく証拠を集めている様子がなかった。要するに根拠ゼロで犯人を言い当てたのだ。僕らはお手伝いさんの存在すら聞かされていなかった。
それからもそういうことが何度もあった。
「足跡の形から犯人が男性だと推理しました」なんて言うけど、どう考えたってそんなのは後付けだ。なぜなら僕への探偵の発言が足跡を見る前から男性だと決めつけているように思えたからだ。
「血痕の位置から凶器の場所を特定できました」って言うけど、探偵は現場に入る前から犯人の持っていた凶器の場所を僕に知らせていたんだ。隠されないように見張っとけって。
要するに何が言いたいかというと――全ッ部が超能力のなせる技ってこと。
あ、君はもしかして、僕の方がどうかしてるって思ったかい?
実をいうとね、僕にも超能力があるんだ。探偵と同じものを見ていたんだよ。僕は触れた物の記憶を感じとれるんだ。
地面に触れれば歩いていた人の姿、テーブルに触れれば座っていた人たちの様子、そして犯行現場で凶器に触れればそれを持っていた犯人の顔がわかる。
探偵にも似た能力がある。そうでないとこれまでの「推理」の説明がつかない。
だけど依頼人の前では絶対にそれを口にしない。全部「推理で解き明かした」と言い張るんだ。たまに推理であることを強調するために、証拠をでっちあげたりもしている。
世間は「さすが名探偵!」と持ち上げるけど、助手である僕は内心もやもやするんだ。だって、みんなのことを騙しているんだから。
「――あの、それ全部超能力ですよね?」
実は思い切ってそう突っ込んだことがある。でも彼は悪びれもなくこう言った。
「その通り。超能力なんて信じてもらえないだろう? それなら推理ってことにした方が依頼も来やすいし、信頼も得られる。合理的だと思わないかい?」
合理的かどうかはさておき、ずるいと思った。だって世間から天才扱いされ、女性にモテまくり、報酬もがっぽり。
いやいや、僕だってやろうと思えばできるけど、あえてやらないんだ。だってそれはズルだからね。
――とはいえ、あの人がいなきゃ解決できない事件があったのも事実だ。
ある時なんて、人質立てこもり事件で、犯人がどの瞬間に引き金を引こうとしているかを読み取って、わざと窓を割って注意を逸らし、人質を救った。あれは推理じゃできない芸当だし、もちろん僕にだってできない。僕は過去……物の記憶しか見ることができないからだ。
そのとき思ったんだ。同じものが見えていると思っていたが、僕と探偵では別のものが見えているのではないか。
「――何が見えているんですか」
「なんだろうな。君が見ているものと交換で教えてあげてもいいよ」
ハッとした。探偵は僕が何かを見ていることは気づけても、何が見えているのかわからないのだ。
そりゃあ、僕は目立ちたがり屋の探偵様みたいに見えたものをあちこち吹聴したりしていない。
「何が見えるのか知りたいですか?」
「――知りたいね。僕の推理によると、君の力は仕事に役立ちそうだ」
「教えません」
「そうか。残念だ」
精一杯の嫌がらせにも涼しい顔をしている。
仕方がないから、今度「推理」に苦戦しているようなときは、僕の見ているものの話をしてやろうか。探偵様も僕のありがたみに気づくかもしれない。
そう思うと少しだけ愉快な気持ちになってきた。
名前は伏せるけど、うちの探偵は業界でもそこそこ名が知られていて、依頼が絶えない。新聞やテレビにも取り上げられるくらいだから、まあ世間的には「名探偵様」ってことになってる。
確かに頭はいい。知識量も豊富だし、観察眼も鋭い。イケメンで、クライアントからもモテモテ。
――けどな、僕は知ってるんだ。あの人の正体を。
最初に違和感を持ったのは、盗難事件の現場だった。依頼人は「誰かが大切な宝石を盗んだみたいだ」って泣きついてきたんだ。
僕はてっきり指紋採取や聞き込みから始めるのかと思った。ところが探偵は、依頼人の家に入った瞬間、窓際で数秒じっと目を閉じたんだ。
次の瞬間、にっこり笑ってこう言った。
「犯人はお手伝いさんです。左ポケットにまだ宝石が入っているはずですよ」
依頼人が驚いて問いただすと、本当にその通りだった。
このとき、探偵はまったく証拠を集めている様子がなかった。要するに根拠ゼロで犯人を言い当てたのだ。僕らはお手伝いさんの存在すら聞かされていなかった。
それからもそういうことが何度もあった。
「足跡の形から犯人が男性だと推理しました」なんて言うけど、どう考えたってそんなのは後付けだ。なぜなら僕への探偵の発言が足跡を見る前から男性だと決めつけているように思えたからだ。
「血痕の位置から凶器の場所を特定できました」って言うけど、探偵は現場に入る前から犯人の持っていた凶器の場所を僕に知らせていたんだ。隠されないように見張っとけって。
要するに何が言いたいかというと――全ッ部が超能力のなせる技ってこと。
あ、君はもしかして、僕の方がどうかしてるって思ったかい?
実をいうとね、僕にも超能力があるんだ。探偵と同じものを見ていたんだよ。僕は触れた物の記憶を感じとれるんだ。
地面に触れれば歩いていた人の姿、テーブルに触れれば座っていた人たちの様子、そして犯行現場で凶器に触れればそれを持っていた犯人の顔がわかる。
探偵にも似た能力がある。そうでないとこれまでの「推理」の説明がつかない。
だけど依頼人の前では絶対にそれを口にしない。全部「推理で解き明かした」と言い張るんだ。たまに推理であることを強調するために、証拠をでっちあげたりもしている。
世間は「さすが名探偵!」と持ち上げるけど、助手である僕は内心もやもやするんだ。だって、みんなのことを騙しているんだから。
「――あの、それ全部超能力ですよね?」
実は思い切ってそう突っ込んだことがある。でも彼は悪びれもなくこう言った。
「その通り。超能力なんて信じてもらえないだろう? それなら推理ってことにした方が依頼も来やすいし、信頼も得られる。合理的だと思わないかい?」
合理的かどうかはさておき、ずるいと思った。だって世間から天才扱いされ、女性にモテまくり、報酬もがっぽり。
いやいや、僕だってやろうと思えばできるけど、あえてやらないんだ。だってそれはズルだからね。
――とはいえ、あの人がいなきゃ解決できない事件があったのも事実だ。
ある時なんて、人質立てこもり事件で、犯人がどの瞬間に引き金を引こうとしているかを読み取って、わざと窓を割って注意を逸らし、人質を救った。あれは推理じゃできない芸当だし、もちろん僕にだってできない。僕は過去……物の記憶しか見ることができないからだ。
そのとき思ったんだ。同じものが見えていると思っていたが、僕と探偵では別のものが見えているのではないか。
「――何が見えているんですか」
「なんだろうな。君が見ているものと交換で教えてあげてもいいよ」
ハッとした。探偵は僕が何かを見ていることは気づけても、何が見えているのかわからないのだ。
そりゃあ、僕は目立ちたがり屋の探偵様みたいに見えたものをあちこち吹聴したりしていない。
「何が見えるのか知りたいですか?」
「――知りたいね。僕の推理によると、君の力は仕事に役立ちそうだ」
「教えません」
「そうか。残念だ」
精一杯の嫌がらせにも涼しい顔をしている。
仕方がないから、今度「推理」に苦戦しているようなときは、僕の見ているものの話をしてやろうか。探偵様も僕のありがたみに気づくかもしれない。
そう思うと少しだけ愉快な気持ちになってきた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
麗しき未亡人
石田空
現代文学
地方都市の市議の秘書の仕事は慌ただしい。市議の秘書を務めている康隆は、市民の冠婚葬祭をチェックしてはいつも市議代行として出かけている。
そんな中、葬式に参加していて光恵と毎回出会うことに気付く……。
他サイトにも掲載しております。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる